第5話

そのクロに恐る恐る触れてみると、ふわりとした体毛が温かかった。まだちょっと抵抗があるが徐々に慣れていこうと思う。とりあえずはお近づきの印で一番手前の足を優しく撫でた。


また魔力が手を伝わって放出され、少し温かみを感じる。


クロも『マリの手は気持ちいい』と喜んでいるようだった。

その後、クロに『少し良い?』と言われ体をまさぐられる……ちょっと恥ずかしい。手つきがエッチに考えるのはおかしなことなのか。相手蜘蛛だし……


そして再度シュルシュルと何やら糸で作成タイム。

あっという間に真っ白なシャツとズボンができた。


『なでなでのお礼』


ジロの話では、クロが作った布は耐火性抜群で刃物も通さないだろうと言っていた。魔力が多量に含まれているので普通の武器では刃が通らないだろうと。

それよりも何よりも、私は前世の記憶がよみがえった時から気になっていた服のゴワゴワ感が、これで解消されるということが一番の喜びポイントであった。完全無縫製といえるその生地は肌触りが良く縫い目もないのでかなりテンションが上がる。


思わず私はクロに「ありがとう」と再度お礼を言って抱きしめる。服を貰って恐怖が薄れる現金な私。

ふと隣を見るとジロがしょんぼりと耳と尻尾を垂らしていた。

あわててジロにも抱き着い……抱き着くのに躊躇してしまったので足を止める。それでも近い距離でジロの頭をやさしく撫でていた。


その後、私と同じように採寸されたジロにも、人型用の服が贈られた。そしてその場で着替えるジロ。赤くなりながらも再度の目の保証をした私の目の前で、真っ白なシルクのパジャマに身を包むイケメンの誕生である。


それから私たちはお友達記念としてお肉を大量に出すと、焚火をしてあぶって食べていた。ジロと私は塩を振っている。クロも試してみると「おいしい」といって喜んでくれた。

クロが木の上にしゅるしゅる上がると、大量の果物を取ってきたのでそのまま齧り付いたり、つぶしてジュースにしたりとかなり贅沢をしている感じになっていた。クロはあまり一度に糸を出すことはできないので、少しづつ布団や下着などの物を作ってくれるように話をしていた。


さすがに全身白の上着では目立つから、あくまでもらった上下は寝間着用。外見はこの世界の服を着ないと目立つかな?でも下着は絶対これでほしい!と思ってお願いしたのだが、さすがにオスと聞いていたので恥ずかしかった私は、後で余裕あった時で良いからね。と伝えていた。

この時にすぐに何枚か作ってと言えなかった私は後悔することになる。


今夜はまた狼に戻ってその場に寝ころんだジロと、すぐ横に寝る私。そしてクロが近くに足を綺麗に折りたたんで眠る事になった。

そして今日はぐっすり眠ることができ、翌朝目が覚める。


まだ狼のジロに抱きしめられている。

そしてクロは起きてるだろうか、と昨夜眠っていた場所を見ると……


「ひゃうっ!」


思わず声を出してしまった。その声でクロが起きる。そしてガバリと上半身を起こすと、自分の手をまじまじと見ている。


「た、多分クロ……でいいんだよね?」

「お、おう」


予想どおりの結果に戸惑う私。まあ2度目だ……じゃあ原因は?私と一緒にいたから?いや多分ないな。あれか……もふったからか?自分でも多分そうなのだろうと思ってしまう。スキル『もふり』だしね。


「できれば服を……」

「分かった」


短い返事をした後、胡坐をかきながらシュルシュルと何かを作成し、そのまま羽織ると横についているひも状の部分を縛ると、素敵な服の出来上がりとなったようだ。なんか私たちに作ったのとはちょっと違う。少しリッチな感じになっている。

自分用に力を入れたのか、それとも私とジロに作ったから慣れからくる改良版なのか……ちょっとうらやましい。


とは言えやっぱりカッコいい。

赤い目に黒髪のロン毛。当然のごとく整った顔もどことなく野性的。そんな彼がこちらを見て優しい笑顔を見せてくれた。だめだ……私の命日も近いようだ。幸せなことが多すぎる。


その後、起きてきたジロも驚きながら「マリ姉やっぱりすごい!」という話にもなった。

あれから一週間、3人はとても仲が良く生活していた。


ジロもクロの変化を喜んでくれたようで仲良く狩りなどを楽しんでいるようだ。その間に何やらジロの服を手直していたようで、ジロのイケメン度も上がっていた。

木の葉や果物の汁などで染め上げて色を付けた布をさらに縫い合わせ、かなり派手な色合いにもなったジロとクロの服。やはりイケメンは何をきてもおしゃれに見える。私とは物が違うのだよ!と一人納得してうなずいていた。

私の服もいつの間にか新しく彩のあるものが用意されていった。


その日、ジロの仲間という5匹ほど狼がやってきた。何やら話すジロと5匹の狼。そしてジロが少し安心した表情になって私に話しかけてきた。


「マリ姉の実家はいつもどおりだって。騒ぎも何も起きてないから。安心していいと思う。マリ姉は絶対連れていかせないから」

「そう……なんだ」


何もかわっていないというその言葉に、ジロは安心感を得たのだろう。私は少し微妙であった。私が攫われたというのに平穏無事に暮らしている。まあそうか殺す手間が省けたといったところなのだろう。

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