第4話

屋敷では冷えたパンやスープなんかしか食べていなかったから焼き立てというだけで贅沢に感じていた。ジロが差し出してくれたこんがり程よく焼けたお肉に……たまらず齧り付いた。


私は少しバカになっていたのかもしれない……


ジロが持っている指を舐めてしまいそうな勢いで齧り付いて……そこで気づいてお肉をそのジロの指から奪い去った。

もぐもぐ口を動かす私。「おいしい?」と聞いてくるジロ、顔を赤くしながらコクリと頷く私……どうしよう恥ずかしくて死にたい……いくら美味しそうに見えたからっていきなりジロの持っているお肉にかぶりつくなんて……


そんな沈黙がまずかったのか、ジロが人型から狼へと変わる。そしてふわりと纏っていた白い布が落ちると、そのまま湖に飛び込んだ。


「えっ?ジロ?なんで?」


思わず戸惑いの声をあげた私が見た物は、口に魚をくわえて湖面から顔を上げているジロだった。

そして湖から上がると体をぶるぶる振るわせて水を飛ばし、次の瞬間には人型になってから落ちていた布を拾い上げると上手に体に纏っていく。

人型になってから落ちていた布を拾い上げたのだ……大事なことだから2回言う。


とっさに顔を覆った両手の指の隙間から、しっかりとはっきりとジロの下半身を……前世でも父親のしか見たことのないジロの下半身を見てしまい、思考を止めざる得なかった私は、着こんだジロが枝に魚をさしてあぶり始めたのをぼーっと見ていた。


ジロがあぶった魚を、仲良く半分こしながら食べお腹を満たした私は、ようやく通常営業に戻った。そして今まで聞けなかった色々な質問をジロに投げかけていた。


どっかから出てくる色々なものは収納魔法というのらしい。お肉が手ごろな大きさにカットされているのは「この石のナイフで切るんだよ」と口に咥えて見せてくれたいびつなナイフ。今みたいに口に咥えたズバリとやるそうだ。

今は手が使えるから使いやすくなった!と喜んでいる。

話しを聞くほど狼っぽくない生活習慣も垣間見える。ジロは室内飼いだったので私や家族の行動などを見て覚えているらしい。そして黒い窓から見える物語は面白かったと、きっとテレビのことかな?それを聞いてなんだか納得した私。


その頃には、少し薄暗くなってきたので洞窟へと戻っていった。お姫様だっこで。慣れない。

そして人型だとやっぱり恥ずかしいし、少し寒いということで狼に戻ってもらったジロと一緒に眠る。ふわふわとした毛皮が私を包むと本当に暖かくて心が安らいて……安らい……ごめん全然安らがない。

どうしても人の姿のジロを思い出してドキドキしてしまう。それでも、疲れた私の体はいつの間にか私の意識を遠い彼方へと運んでいった。


◆◇◆◇◆


次の日の朝、あぶった塩焼き肉とリンゴの搾り汁でお腹を満たした後、ジロからお話があった。例の白い布をくれたお友達の話。


「マリ姉にも紹介したいんだ。きっとマリ姉に合う服なんかを作ってくれると思うから!」

「作ってくれる?そうなんだ」


作ってくれるというからには人間なのかな?それかドワーフ?まさかゴブリンとかじゃないよね?疑問は尽きないがとりあえずはお友達は大事。ちゃんと紹介してもらおう。

そしてジロと一緒に森の中を歩く。


「いないなーいつもこの辺にいるはずなのに……おーい!俺だー!」


ジロの声が反響する。

もちろん誰も答えてくれず、ジロに「いないねー」といいながらしがみついている手に力を入れた。森の中って少し怖いよね。

そんな私たちの背後から『お前たちだれだ!』と狼化したジロと同じように声にならない声が聞こえてきて振り返る……


振り返るとそこに……大きな黒い蜘蛛がいた。

上から沸いてでたようにプランプランしている巨大な蜘蛛。そして私は意識を手放した。


◆◇◆◇◆


私は、黒いもじゃもじゃにまみれ、手足は蜘蛛の糸で巻かれ身動き取れない中で必死に声をあげた。「ジロ!助けて!」と……

そして赤い目が光った大蜘蛛が私に襲い掛かってきて……


と言うところで私が体を起こした。嫌な夢だ。


目覚めてすぐにジロが横に居てくれているのが分かりホッとした。

「よかった目が覚めた」と喜んで抱き着いてくるジロを赤くなりながら撫でている私は、きょろきょろ見回した時、遠くからこちらを伺っている蜘蛛を見つけてしまう。少しだけ「ひっ」という声は出てしまったが、今度は気絶せずに済んだようだ。


その蜘蛛を見ていると、ジロが「あれが友達。敵意はないから怖がらなくていいよ」と教えてくれた。ちょっと顔が引きつってしまったが「こんにちは。怖がっちゃってごめんね」と伝えてみた。

どうやらオスらしいその蜘蛛が『怖がらせてごめんね』と言ってきたので、どうやら本当に敵意は無いようで安心した。


そして『お詫び』と言ってしゅるしゅる糸をお腹から出し、八本の足で器用に紡いでいくとあっという間に真っ白な四角い布が出来上がった。

そのハンカチのようなものをジロ経由で受け取ると上質な絹を思わせる逸品であった。なにこれ凄い。そしてこれは、ジロが今現在身につけてるやつだ間違いない。とも思った。


名前がないうので、ジロと同じように何か名前を付けてほしいと本人、本蜘蛛?に言われた私が、安易ではあるが『クロ』と名付けた。なんだか喜んでくれたようで、嬉しい声をあげてくれた。

そのクロに恐る恐る触れてみると、ふわりとした体毛が温かかった。まだちょっと抵抗があるが徐々に慣れていこうと思う。とりあえずはお近づきの印で一番手前の足を優しく撫でた。


また魔力が手を伝わって放出され、少し温かみを感じる。

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