第3話
「これからどうしようか?」
私の言葉にジロは小首を傾げるだけだった。可愛い。
「とりあえず食べるものは何とかなりそう。でもお肉と果物だけってちょっと味けないかも……」
「あっ湖!しょっぱい味がする湖がある!たまに舐めると美味しい!」
しっぽをパタパタさせながら説明してくれるジロ。可愛い。そして有能。
舐めるとしょっぱい湖……塩湖と呼ばれるものかな?じゃあ味付けもなんとかなりそう。後は……あっ火!さすがに生肉とか無理だし!
「ジロ!私生肉とか無理!火とか起こせる?私も知識とかあるけど実際やったことないし!」
私は火おこしを想像しながら手を胸の前でごしごしとすり合わす動作をしていた。
「火?これのこと?」
ジロが右手の人差し指を立てると、指先からボッと小さな音をたて炎が揺らめいた。
なにそれ便利。
「ジロ!それ魔法?魔法使えるの?凄いよジロ!」
思わずジロの頭の上の耳を撫でくりまわすと、目の前にあった顔が少し朱に染まり私の目線を避けるように横を向いた。
私は「あっ」と小さく声を漏らし、犬の時のような接し方にやらかしたと感じたが、それ以上にドキドキが止まらなかった。きっと私は真っ赤になっているだろう。手を止め何事もなかったようにひっこめた。
ジロの尻尾は豪快に振られている。
少しだけ気まずい沈黙の後、住み家について「何時も使っている場所があるよ」と言ったジロに連れられ、着いた先は洞窟だった。途中でいわゆるお姫様抱っこで私を抱えて走るジロ。その彼の体温を感じてやっぱりドキドキしてしまう。
それなりに森の奥にあったとの広い洞窟。
奥の方には干し草が引いてあった。どうやらここで眠っているようだ。
「ここなら雨風は防げるよ!」
「そうだね!なんだかキャンプみたいでちょっとドキドキしちゃうね!」
キャンプ気分で浮かれている。実際は不安がないわけではない。でも常に死の恐怖を感じていた12年間の不安を思えば何のことはない。今は私のそばには信頼できるジロが居る。それだけで十分だった。
その後、ジロが収納から出してくれた兎の肉を、炎であぶってもらう。
一応じっくり焼いてもらったがやはり味はしなかった。野性的な油を感じてお腹は満たされたが、このままだと正直きつい。
「ジロ。さっき話してたしょっぱい湖ってここから近いの?」
「そんなに遠くないよ!行ってみる?」
そう言われてうなずいた私はまたもジロに抱かれていた。
2度目だが慣れない。真っすぐ前を向いた真剣な表情を間近で見つめながら、たくましい腕に支えられ風を感じている。どうしよう。ドキドキが止まらない。
夢の中にいるような感覚を感じながらすこしうっとりしてしまった私は、ジロの「ここだよ」という言葉に現実へと引き戻された。
ジロが私をやさしく降ろしてくれる。
私の目の前には大きな湖が続いていた。
試しに指を入れて舐めてみる。めっちゃしょっぱい……これならなんとかなるはず!でも、何か入れ物がないと無理かな?
そう思ってジロに聞いてみる。
「ジロ。何かいっぱい水入れれるものない?火に強いもの。鍋とか……って分からないか」
「うーん。そうだ!」
何かを閃いたジロは近くの岩場に向かうと……次の瞬間にはガシンと大きな音が数回鳴り響ていた。
そして嬉しいそうにこちらへ走ってくるジロ。手には大きな岩の塊。よく見ると真ん中に穴が開いていた。これを使えと?
私はなんだかおもしろくなってしまい、ジロが私の前に置いた岩をパシパシと叩いていた。
「ジロ。これ一回じゃぶじゃぶ穴の中を洗ってから水汲んでここに戻してもらえる?」
「うん!いいよ!」
片手でがっしりと岩を持ち上げ、湖に入れてじゃぶじゃぶ。そしてまた私の方を向いて笑顔で水を入れた岩を戻す。忠犬のようなその動きにドキドキが止まらなくて困る。
「ありがとう」といってそっと頭を撫でると、顔を赤く染めるジロを見てなお照れてしまう私だった。
「じゃあ、この横にこの木の枝を……あっ!そうか。生木って燃えないんだよね。ジロは乾いた木の枝なんて持ってないよね?」
「あるよ?でもこの木だって……こうしたら燃えるようになるよ」
その言葉と共にジロが持った生木がボッと炎を上げた。思わず「きゃっ」と声をあげるが、数秒後には炎は治まり、何か炭のようなものに見える物体が出来上がった。これがジロの力!魔法の力、凄い!
「ありがとうジロ!じゃあこれを岩の下に並べていって……あとはこれを燃やして、熱でこの水が蒸発したら塩が取れるよ!」
「塩?分からないけどしょっぱいのかな?じゃあ頑張って燃やすね!」
こうしてジロの炎で燃やされていく元生木。かなり温かい熱を感じてすこし落ち着く。太陽もでているしきっと数時間もたてば塩ができるだろう。単純にそう思っていた。途中でちょっとだけ塩がバチバチと飛び散って怖かった。
そして、飛び散る塩にびくっとして尾を足の間に挟むジロをみて、なにより心がザワついた。なにそれ可愛い。
数時間後、出来上がった塩をよく洗って乾かしておいた葉っぱでくるむ。貴重な調味料だ。早く使ってみたいしもう夕刻。早速ジロにお肉を出してもらってあぶっていく。塩を刷り込んでからあぶると肉汁が滴ってお腹が鳴ってしまう。恥ずかしい。
屋敷では冷えたパンやスープなんかしか食べていなかったから焼き立てというだけで贅沢に感じていた。ジロが差し出してくれたこんがり程よく焼けたお肉に……たまらず齧り付いた。
私は少しバカになっていたのかもしれない……
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