第42話 カミの結末
ゆめみていた。
スポットライト。
ステージ。
舞い散る紙吹雪。
独特な匂いのスモーク。
マイクを手に持って。わたしは今。ここに立っている。
クルーズ・クルーズ。
ここは夢のステージ。
綺麗な衣装。ワンピース。
ボディラインに美しく添いながら、全身にレースで装飾がされている。
白に対して白のレースであまり目立たない。
夢の中で見たドレスと全く一緒だ。派手すぎないこの衣装は今日の晴れの日にふさわしい。白ってやっぱり女神らしい色でしょう? 心の中にいる女神も一緒に喜んでいる。
わたしはそれを着ている。
スカート部分はお尻の辺りから層を成して派手目なマーメイドスカートみたいになっている。
あれ? 夢の中よりちょっとミニスカート気味になってない? これでスカートを揺らしたり脚を上げたりするとインナーが見えてしまうと思うのだけど?
え? 女神? うん? 貴女の仕業? スカートの中はロマンだからこれでいい?
帰ったらお仕置きね。
まあ。ちょっと踊りにくいけど、踊った時にひらりひらりと揺れるのはやっぱり綺麗。
ファンの視線がそれに揺られるのもやっぱり好き。
わたしは踊っている。
私の持ち歌。
トワイライト時代の歌が多いけれど。元事務所の社長が歌う事を許可してくれたから、楽曲には困らない。実はソロになってからの楽曲も結構あるからトワイライトの曲なしでもやれない事はないけれど。でもあれもやっぱり私の一部だから。
やっぱりお客さんも喜んでくれるし。
一曲歌う毎にファンの声援が熱を帯びていくのがわかる。
夢の中ではわからなかった。
ファンの顔。ファンの名前。ファンの想い。
今日は全部わかる。
「次の曲は! 未来サーチ! いっくよーー!」
タイトルコールにファンが跳ね上がる。人気曲だ。
あそこの一角でサイリウム振りながら踊りまくっている。
「三銃士」のみんな。
あの人たちのアイディアがなかったらきっとこの舞台には立てていない。
でもあの人たちはそれを恩を売ったとは考えていない。ただただアイドルが好きで。アイドルを応援する事が好きな人たち。ステージで輝く私を今も心の底から応援してくれている。
彼らの未来はきっと輝かしい。
彼らの会社の業務である舞台装置の技術をてんさんが一段進化させる。それをござるさんがあっという間に普及させる。こぽさんがうまい事みんなをまとめて必要なものを調達してくる。
会社は大きくなり、アイドルへの純粋な応援をより楽しめるようになっていく。
私も彼らに応援される以上に彼らを応援したい。
三銃士の勢いに若干引きながら、隣で控えめにサイリウムを振っているのは、ふくよかながらに愛らしい妙齢の女性とそれにそっくりだがほっそりとしている女性。
「ママ」と「サクラ」の親子。
本当にママのような人だった。あの店で過した毎日は本当に幸せだった。若いアイドルを自分の娘のように思い。こぼれ落ちたアイドルをどうやったら救済できるか、傷ついた心をどうやったら癒せるかに腐心している人。若いころの自分の苦労をさせないようにと「コーンカフェ」を運営し続けてきた人。実はママも女神なんじゃないかな? 娘のサクラもそんな母の想いを継いで運営の手伝いをしている。
二人の未来も明るい。
コーンカフェはアイドルの救済と運営の両翼のバランスを上手に取りながらさらなる飛躍を遂げる。ローブロードの本店以外に数店の支店を出して、数多くのこぼれ落ちたアイドルを救った。なんならコーンカフェから再度人気に火がついて人気アイドルになる子もいた。
最終的にはアイドル登竜門的な役割も持つようになっていく。
私も二人の目的を応援したい。
群衆の中で頭三つ分くらい受け出している大柄ながら美しい女性。私が見たのに気づいて手を振ってくれてる。流石に動体視力がすごい。
「モリー・マッスル」
この人の戦闘指導がなかったらサリー先輩には勝てなかった。力強くておおらかで、それでいて細やかな神経をしている人。とても情に厚い人。レッスン中でぐったりしている私の背中をバシバシ叩いてクルーズロードにある人気店のケーキを一緒に食べようと誘ってくれる人。姉のような先生のような。暖かくも厳しい人。
この人の未来も明るい。
モリー・ジムは私がアイドルバトルに優勝した事もあってか入会希望者が殺到する。下手な経営者であればそれを捌ききれずに経営を傾けたりするが、モリーさんは違う。今までのモリーさんが生きてきた道筋にはたくさんのヒトとの出会いという財産を築いてきた。普通だったら好調な時に寄ってくる人間は良くない人間が多い。でもモリー・マッスルは違う。辛かった頃に築いてきた人間関係がそれらを助けてくれる。そしてそれに頼る事を恥とは思わない愛すべき性格をしている。
私も広告塔としてこの人を応援している。
モリーさんの隣でなんだかはすはすしている和服の美少女がいる。そこではすはすしても私の匂いは届かないわよ。
「レディー・ムサシ」
海で出会ったどざエモン少女。今や人気アイドルだ。
隣には小さな老人? でもモリーさんの肩から腰くらいに全身がおさまってる? え? 浮いてる? 歌いながら少し驚いている私に気づき、口パクで「これ、師匠です」と伝えてくる。ああ、アイドルオタクの剣の師匠ね。なら浮いているのは不問としておこう。東洋の神秘よね。
ムサシの未来も明るい。
隣にいる師匠も放送でアイドルバトルを見ていたらしく。立派なアイドルとなった弟子を誇り、自分の剣の伝承者として認めてくれる事となった。その代わりにムサシのワンマンステージを剣の稽古の終わりのクタクタな状態で要求されるらしく。それには辟易としているが、それも幸せであろう。
私がムサシと会うだけで応援になるらしい。だから応援している。
VIP席にいる。初老に見える男性と中年の男性と私の先輩。
「ドン・クルーズ」と「ジョージ・P」と「サリー・プライド」の悪の三人衆もとい、大人三人衆である。
ドクさんとは私が試合の直後に面会した。女神もそれがいいと言ったから。女神になった事でこの街の所有権が私に移った事を告げられた。とは言っても実質的な街の運営は変わらずドンがやってくれるし、本当に困った時だけ相談させてほしいとの事だった。
ジョージ・Pとサリー先輩はもう。もう何も言いたくない。強いて言うなら爆発してほしい。
サリー先輩はバトルの疲労からしばらくの休養を宣言した。
全部治したのに!
そこからはもう。もう。事務所に入り浸りだ。ゴシップ雀の記事やら噂やらを事象創造で消せるからってやりたい放題やっている。事務所が甘い匂いに包まれすぎていたたまれない。
未来は言うまでもない。
爆発しろ。
でもファンはこの人たちだけじゃない。
ステータスに書かれているファンの人数はすでに表記の桁数をカンストして正確な人数は把握できない。
この街で生き、この街を支え、アイドルのステージを糧に生きている人たち。
この街ではないどこかで生き、一生懸命働き、アイドルのステージを糧に生きている人たち。
応援したい人たち。
応援されたい人たち。
前世のように病院のベッドでこのステージだけを頼りに生きている人もいるだろう。
そんなたくさんの人が。
色々な事情を抱えたたくさんの人が。
私のステージを見てたよってくれている。
これからも。
私のステージを見てすくわれてくれる。
そうなるだろう未来はわかっている。
だからわたしは歌う。
そうだ。
わたしは
同時に。
わたしは
世界中を魅了しているアイドルだ。
これからもみんなに応援されて。
これからもみんなを応援していく。
そんな
来世はアイドルになりたいと願ったら異世界転生させられた 山門紳士 @sanmon_j
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