第32話 決戦

 先程までの慎重さから転じて一か八か一気に間合いを詰める。ここで勝負をかける。


 が……そこに彼女が居ない!

 追い詰めていた筈なのに……かつて何度も勝利を掴んだ得意な戦術なのに彼女の姿が見えない!


 完全に見失った。


 しかし弾も体力も余力はある。時間経過でフィールドが狭くなるルールだが、まだ焦る程では無い。


 周りを再確認し、立て直しをはかる。

 が、周りの状況が全く見えない。

 しかし相変わらず定期的に牽制の弾が飛んでくる。

 何処から来ているのか全く判らない。


 ……怖い。

 完全に彼女の勢いに飲まれている。

 彼女の強さを肌で感じる。

 何度周りを見ても彼女が何処にいるのかさえ全く見えない。

 先程の人間離れした回避もまた頭によぎる。


 怖い、怖い、怖い。


 気付けば私はあまりの恐怖の為か、自分の無力さに対してなのか、涙を流している。


 もう逃げる事しか出来ない。

 いや、逃げ道さえも判らず逃げる事さえも怖い。

 まだ五分の状況のはずだが、とてもそうは思えない。

 何処から来る?

 こちらはもう恐怖で攻めに行く事ができない。このエリアで迎え撃つしか無い。

 物陰に隠れ気配を消したまま、辛うじて様子を伺う。

 全く何も見えないが、周囲を確認する為隣の物陰へ移動する。


 今居た所が爆発する。


「!!」


 目の前に「彼女」が見える。

 偶然彼女の死角へ移動が成功していた!


 考えるより先に私はトリガーを引いた!


 ……が、彼女はそれさえも避けながら私に一方的にダメージを与える。


 私は負けてしまっていた。


 あと一歩早ければ。

 いや、最後のあの瞬間。彼女の隙をついた所さえも彼女のシナリオ通りだったはずだ。


 惜しい所にすら追い詰められなかった。

 完全に私の負けだ。

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