文化祭といえば

 学園祭シーズン。それは私にとって頭痛の種でした。


 強制参加の部活動。必ずどこかに所属しなければいけません。内気で人見知りな私は、人と話すのも人が多いのも苦手です。だから静かで部員の少ない書道部を選びました。一人集中して筆を執っていれば、誰にも文句は言われません。

 そんな平穏が破られるのが文化祭。クラスごと、部活ごとの出し物は必須。文化部員は2つ掛け持ちしなければいけません。

 書道部の出し物は、普段の作品を展示するだけなので簡単です。入り口での受付と、もし書を欲しい人がいた場合の対応。それも部長と先輩が中心で、私の担当は1時間のみ。そこさえ乗り切れば終わります。


 問題はクラスの出し物です。HRの時間を費やして何をするか決めました。内気な性格が災いして、私は何一つ発言出来ません。クラスメイトがアイデアを出し採決されていく様子を、ただ眺めていました。

 こうして決まったクラスの出し物は喫茶店。それも普通ではない、執事&メイド喫茶です。男子はメイドに女装して。女子は執事に男装して。誰でしょう、こんなふざけた企画を出したのは。と心の中で不平を漏らしても、表には出せません。何も発言しなかった私に、文句を言う資格はありません。

 最悪な事に、私が執事長に選ばれました。見た目だけは良いから。身長あるからきっと似合う。いいかも。そんな声に、私はただ曖昧な笑みを浮かべました。

 家庭科部の協力で手作りの衣装が用意され、メニューが決まり、食材や調理の準備が着々と進みました。執事長の私は、演劇部員の指導で、接客の際の決め台詞や立ち居振る舞いを習いました。こんなにクラスメイトと交流したのは、初めての経験でした。


 文化祭当日に何があったのかは省きます。というより、いっぱいいっぱいで何も覚えていません。テンパってとんでもない事を仕出かしたような気がしますが、クラスメイトのフォローで何とか乗り切れました。当日の記憶はありませんが、今まで味わった事のない充足感がありました。

 だからでしょう。高校を出た私は接客業に就きました。アルバイトの経験もなかった私ですが、思ったよりも大丈夫でした。心臓が破裂するのではないかと思うほど、内心ドキドキでしたが、表面上は普通に、平静を装えたと思います。


 これらの経験が、私の未来を変えました。すっかり人慣れした私は今、メイド喫茶で、多くのお客様を前に笑顔でいます。


「いらっしゃいませ! ご主人様!」

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