第60話 核心に迫る
「こんなに、たくさん?」
地下室の様子を見たシレーネが、驚いたように声を漏らす。
俺もいつか人に見せたいと思っていたので、その驚いた反応は素直に嬉しい。
「結構な量あるだろ。ここから4日ぐらい行ったところに、マグノリアっていうでかい都市があってな。そこの図書館らしき場所からかっぱらってきた」
本当に。
だってこの世界基本的に人間誰もいないし、シレーネの都市のように保護の魔法がかかっていない建築物は荒れ放題だ。
そこに置いてあるものなど、俺が勝手に回収しても怒られることはないだろう。
まあ1回怒られてはいるんだけど。
「マグノリア……確か私の国と交易していたアズール王国の首都がそんな名前だったような気がします」
「王国の首都か。そりゃあ確かにでかいわけだわ」
中央にバカでかい城みたいなのもあったが、もしかしたらあっちは王城だか王宮だからしきものだったのかもしれない。
まあダンジョンの気配がしたから今のところ手を出してはいないが。
「一応こんな感じで、これまで持ち帰った物も陳列してる。だから後は、今回も棚作って持ち帰った本を並べれば良いってわけだ。まあ実際はそんな簡単にはいかないんだけど」
「簡単にはいかないのですか? 棚を作るのが難しい、とか?」
俺の言葉に、疑問を覚えたらしいシレーネが首を傾げながら俺の方を見上げてくる。
風の民って耳の長さとかから見てもエルフっぽい一族なのかなと思うけど、全員美形だったりするんだろうか。
ではなくて。
「いや、配信見てる人達にバレないように、ある程度は地上に置いておかないといけないからな。結局のところ、地上の小屋の増設は決定事項って感じだ」
「あの、あまり理解していないのですが、そもそも何故地上? の方々にはこういったものを隠していたりするのですか? 何か見せられない事情があるのでしょうか」
シレーネのその言葉に、俺はまあその話になるわなと頭をかきながら答える。
「まあ、そうだな。俺の隠したいところを隠していうなら、地上の人達にバレたら困る情報がある。そしてそれを隠すために、俺はいろんなものを地上の人達に見せないようにしている」
こればっかりは本当に、結構気を使っている。
なんならいきなり大混乱、みたいになってしまってもおかしくないような情報だ。
故に俺は、こちらの世界に来ることを地上の人達に促しつつも、大事な情報を隠し続けている。
ジレンマだよな。
進出してほしいのに、進出した結果得られる情報で地上に混乱が起こるのは困る、なんて。
だがそれが俺の偽らざる本音だ。
「そうなのですね……。その隠したいところ、というのは聞かないほうが良いのでしょうね」
「いや、全然? 配信の前で言わないなら別にシレーネに教える分には構わんよ」
俺のシリアスな口調に、感じるところがあったのだろう。
シレーネが何か遠慮しようとしてくれたが、地上の大勢に伝わった結果大混乱に陥ることが怖いのであって、俺の近くにいるシレーネ1人に伝える分には何の問題もない。
彼女がそれを地上に伝えようとすることもそう無いだろうし、しようとしたところで俺ならいくらでも制圧することが出来るし。
「良いんですか!?」
思わずといった感じで、シレーネの取り繕っていた部分が吹き飛ぶ。
俺としては、普段の女王様然、とはもうしていないが、それでも取り繕った部分のある彼女も、素を出したまだ若い女性らしい彼女もどちらも好ましいと思っているので、どちらの顔を見せてくれても良いが。
なんというか、為政者だったのだろうが、周りに微笑ましく支えられてそうだな、という感じがすごくする。
彼女を馬鹿にしているとかではなく、素直にそう思う。
「地上には凄まじい数の人間がいるからな。その分一度混乱が起こってしまえばとんでもないことになる。だから隠しておきたい。けどシレーネがいるのはこっち側だし、1人だからな。知られる分には困らないし、まあ混乱されても放っておけばいいか、って感じだ」
「ジョンさん、優しい方なのにたまに容赦ないこと言いますね」
「いやまあ慰めて欲しいなら慰めるけども」
「そう言われて素直に頷く人はいないと思います」
まあそれはそうだ。
俺もこんな言い方をしてくるやつに励ましてくれとはとてもではないが言いづらい。
「では、ジョンさんの隠しておきたいことについて教えていただけますか?」
シレーネが改めてそう問いかけてくる。
「わかった。それじゃあ、一旦地上に上がろうか」
そうして、拠点に帰還してそうそうに片付けを一旦放棄して、俺とシレーネは少しばかり真面目な話し合い、を行うことにした。
なおシレーネは、今回は足を踏み外すこおは無かった。
「さてと。それじゃあ、俺が隠していることについて、これから共犯者になる予定のシレーネさんには知っておいて貰おうか」
「え、あの、そんなに大変なものなのですか?」
生活用の室内でテーブルを挟んで向かい合う。
俺の放った言葉にシレーネは少しばかり身構えるが、まあそう身構えないでほしい。
せいぜい、1つ2つの世界が滅ぶか滅ばないかという、その程度の話だ。
「まあ真面目な話をすると、シレーネにもこの件は関わっている」
「私にも?」
「ただし」
シレーネの疑問を一旦無視させて貰って、俺はシレーネの目をじっと見つめる。
「今から聞く話は、シレーネの受け取り方次第では、シレーネの心を大きく傷つけることになると思う。だから、今改めてこの場所で、俺の話を聞くか、それとも聞かないで済ませておくか、選んでくれ」
珍しくシリアルではなくガチ目のシリアスの入った俺の言葉に、シレーネは居住まいを正して俺の方をまっすぐに見つめる。
「軽い気持ちで聞いていい話ではないということはわかりました。ですが、私はこれからジョンさんとともに過ごすことになります。そんな中で、ジョンさんの抱える秘密の1つも共に背負えないようでは、共にある者として情けないと思います。だから、聞かせてください。先程から、あなたがずっと、吐き出したいと訴えているその秘密を」
シレーネの言葉に、俺は思わず口元を抑える。
表情に出していたつもりはないのだが。
「そんなにわかり易かったか?」
「ジョンさんとの付き合いが浅い私が気づく程度には、わかりやすかったと思いますよ。誰にも知られたくない、隠しておきたい、と言いながらも、誰かに知ってほしい、1人で抱えていることは出来ない、という思いが表情に出ていました」
「どんな表情だよそれ……」
シレーネの言葉に、俺は思わず目の前のテーブルに突っ伏す。
彼女と話しているときはいつもどおり飄々としているつもりだったのだが。
その秘密の大きさゆえか、俺自身、どこか1人で抱えていることをしんどく思っている部分があったのかもしれない。
それが、シレーヌにはわかってしまった。
まあただ、これは身近で俺と接しているシレーヌだからこそだろう。
配信画面越しの視聴者達に気づかれるような大ぽかは流石にしない、と思う。
「まあ、そこまで言ってくれるなら俺も素直に話すことにするわ」
「是非、そうしてください」
シレーネに促されて、俺は話を始める。
「まあ、秘密って言っても、内容自体は単純なものなんだ。そんで、後はそれを推測させてしまうだけの傍証がたくさんあるから、それらを見せないようにしようと頑張っているだけで」
「それで、その秘密とはなんなのですか?」
少しばかり焦れたように問いかけてくるシレーネに、俺は言葉を選んでから話をすすめる。
「なあ、シレーネ。ダンジョンという存在によって、人間が消えたとしたら、どう思う?」
まあいざ話すならば、最初からアクセル全開で話した方がこの話題は話しやすいのだが。
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