第56話 地上編・集う者達
とあるギルドが本拠地をおくビル内の会議室。
そこには、60人からなる人間がとある会議のために集められていた。
その人数の多さに、集められた者達も困惑している様子が見て取れる。
長方形に組まれた会議室の机のうち、1番前方、主催者の席に座る眼鏡の男性は、先程からしきりに腕時計を確認していた。
メガネをかけた細身の風体とその身にまとったピシリとしたスーツ。
その容姿だけを見れば、ただのサラリーマンに過ぎないようにも見えるその男性。
しかし、部屋に集まった者達は、その男性から得も言われぬ圧を感じ取っていた。
そんな男性がしきりに腕時計を気にしているのは、会議が始まる時間が近づいているにも関わらず、来ていない人物がいるからだ。
この会議の立役者と言っても過言ではない重要人物は、しかし、他の参加者が集まりきっても未だに姿を見せないでいた。
そのため、その人物が来るのを当然として集まっていた探索者たちは、時間が迫るにつれ少しずつだがざわつき始める。
そんな一団の中に、ダンジョンスターズのメンバー達はいた。
「すごい人ばっかりだね、エリカちゃん。さっきからなんか肌がピリピリする」
「そういう会議だからな。この場所は」
雨宮かなたの言葉に、ダンジョンスターズの中では最も年上であり、かつ探索者としての能力が秀でていたのでこういう攻略会議の場に慣れている白瀬エリカが答える。
「あかんなあ、流石に強い気配が多すぎてピリついてるわ」
「ん。精霊達も怯えてる」
他にもダンジョンスターズから参加している八条寺茜と耀ノアの2人も、室内に集められたメンバー達が自然と纏う圧によって張り詰める会議室内の空気に冷や汗を流す。
端的に言えば、ダンジョンスターズのメンバーは白瀬エリカを除き、この場所にいる者達の中では実力的に劣る者ばかりだ。
そのため、他のより上位の能力を持つ探索者の放つ圧、オーラとも呼べるそれに気圧されているのである。
そして会議が始まる予定時刻の一分前。
カチャリというドアノブが回る静かな音とともに、会議室のドアがゆっくりと開く。
室内にいた者達は、自然と会話をやめてそちらへと注目した。
「すまない。日課をこなしていたら遅れた」
そう言いながら入ってきたのは、いかにも探索者然とした風格をした1人の男。
その身にまとうのは、この部屋に集まる多くの探索者が身につけているような探索用の装備ではなく、街を歩くような私服だ。
だが、その放つ圧はこの強者が集まる会議室の中でも群を抜いている。
それに匹敵することが出来るのは、せいぜい1人か2人、いるかどうかといった程度だ。
「遅いでござるぞ。鋼殿」
「すまん、景虎」
その1人が上げた咎める声に、鋼と呼ばれた男は素直に謝罪をし、そのまま主催者席に1席だけ空いていた眼鏡の男性の隣の席へとつく。
そこで初めて、眼鏡の男性が口を開いた。
「さて、では参加者も揃ったので会議を始めさせてもらいたいと思うが、良いだろうか」
眼鏡の男性の言葉に、部屋中から視線が集まる。
特に異論は出ない、と判断して男性が口を開こうとしたタイミングで、別の探索者が口を挟んだ。
「始める分には構わねえが、そもそもあんた誰だ? 今日はそっちの“
始めから無礼な口調で眼鏡の男性に話しかけたのは、髪の毛を刈り上げピアスやタトゥーなどを入れた、少々やんちゃな見た目をした若者たちの代表として座っている若い男だ。
探索者としての圧の開放とともに明らかに喧嘩を売りにいっているその発言だが、眼鏡の男性はその全てをそよ風の如く受け流して答える。
「これは失礼。私は高宮というものだ。この場にはギルド《パイオニア》のスポンサーとして参加させて貰っている。そして私自身は探索者ではない。これで十分か?」
煽るような若者の言葉に対して、あまりにも容赦の無い対応をする高宮。
これには威勢よく喧嘩を売った若者も、流石に返す言葉に詰まった。
こういう煽るような文句を吐いたとき、一番困るのはその一切を相手にされないことなのだ。
今高宮は、自分のことを木っ端だと、探索者なら弱すぎると詰った相手に対して、そもそも探索者ではないし、ギルド《パイオニア》のスポンサーをしているので木っ端でも無い、と示すことで、相手の売ってきた喧嘩を無視して言葉だけ真っ向から返した。
喧嘩を売った側からすれば、変に言い返されるより、こうして相手をされないことの方が遥かに堪えるのだ。
ちなみにギルド《パイオニア》とは、最後に会議室に入ってきた鋼と呼ばれた男性が所属しているギルドであり、現段階では日本最強と目されている探索者の集団である。
なお
そのスポンサーとはすなわち、最強を支えている立役者である、と言い換えることも出来る。
この一連のやり取りだけで、高宮は自分の発言力を一気に高め、そして若者は道化にされた。
それでもすぐにキレるだけの短絡さが若者に無かったことが、彼の身をすくった。
ここで暴走していれば、以後探索者界隈でまともな付き合いは出来ていなかっただろう。
「……特に無いようだな。では、改めて、会議を始めさせてもらう」
そして言い返せない若者から視線を切ると、高宮は何事も無かったかのように話を進めた。
高宮に喧嘩を売った若者も、探索者としてこの場に呼ばれている以上は相応の能力があることは保証されている。
だが言葉という舞台の上では、高宮の方が何枚の上手だった。
「今回の会議は、パイオニアのスポンサーとしての私が、探索者の皆様方に、合同での大規模攻略の実施について提案させてもらうものだ。ここまでは事前に送った連絡で読んでもらっていると思うが、質問があるものがいれば聞いてくれて構わない」
そう高宮は言うが、つい今の今、喧嘩を売った若者が恥を欠かされたばかりだ。
積極的に高宮に対して口でかかっていきたいという者はいない。
いないが。
「では、拙者が」
それでも、、この時点で既に疑問を抱いている者は存在している。
手を上げたのは、先程鋼に対して遅いと文句を言った和装の女性だ。
「長尾さん、どうぞ」
「《アナザー・フロンティア》の長尾でござる。確かに大規模攻略と聞いて来たでござるが、この人数は聞いていないでござる。高宮殿は、本気でこの大人数でダンジョンの攻略を同時に行えると考えているのでござるか?」
その質問の内容に、室内に集まっている多くの探索者達が声を出さずとも頷いたりその雰囲気で賛同の意を示す。
それほどに、60人の大集団でのダンジョンの攻略というのは、日本の探索者たちにとっては常軌を逸していた。
そもそもこれまで行われてきた複数ギルド合同での攻略は、多くても30人ほど。
基本的には6人パーティーが3から5個集まって1つの集団を形成し、攻略を行うというものであった。
その集まったパーティーの中で、相互に補助しあい、休憩中の安全を確保しながら探索を効率化する。
それが、これまで行われてきた合同探索のあり方であった。
「本気で言っている。そして私には、そのためのプランがあるので、まずは話を聞いてもらいたい」
そして高宮は、ギルド《パイオニア》のスポンサーとして。
そして自社に多くの探索者を従業員として抱える大企業の社長として、その常識を知っていた。
知っている上で、今回はこれを叩き壊しに来たのだ。
あくまで淡々と語る高宮を見て、長尾景虎は一旦矛先を収めることにする。
常識外れではあるが、常識を覆る全く新しい発想が出てくるかもしれないし、探索者ではないとは言えトップギルドであるパイオニアのスポンサーだ。
そのことを考えた上で、まずは一度話を聞いてみるべきだと判断したのだ。
「わかったでござるよ。そこまで言うならば、高宮殿のプランを聞かせてもらいたいでござる」
「感謝する。では、端的に今回私から提案させてもらいたいプランについて説明する」
景虎に軽く頭を下げた高宮は、改めて全体に向けて、今回自分が提案するプランを発表した。
「今回私が提案したいのは、深層第12地区、第13地区、第14地区の同時攻略だ」
高宮の言葉に、その場の空気が固まった。
~~~~~~
もうちょっと地上編は続くんじゃ。
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