【第3章完結(次章執筆中)】ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン籠もり10年目にしてダンジョン配信者になることになった男の話
第52話 組織の立て直しは死ぬほどめんどくさいという話
第52話 組織の立て直しは死ぬほどめんどくさいという話
ダンジョン協会と探索者組合に巣食っていた病原菌達は、そのほとんどが駆逐された。
ダンジョン協会の会長や探索者組合の組合長など、明確には悪事をなしてこずに、そのポストからうまい給料を吸ってきた者たちはまだ残っているが、そうした者たちにはもはや力はない。
故に、ダンジョン省の手によって、探索者組合とダンジョン協会は、ある程度の健全化が行われた、と言ってもいい。
だがここで1つ疑問が浮かんでくる。
ダンジョンが出現し、ある程度の法整備が整ってから10年近くににも及ぶ長い期間の間、なぜこれほど腐り切るほどまでにこの2つの組織が放置されていたのか。
それを語るには、まず2つの組織の立ち位置、そしてダンジョン省の通常の業務について確認をする必要があるだろう。
まず探索者組合とダンジョン協会は、それぞれの組織として、省から独立した組織として運営されている。
これは、ダンジョン省とその下部組織が作られる際に、1つでもポストを増やしておきたい、天下り先を残しておきたいと考えた官僚の怠慢と。
そしてダンジョンという、これからの世界の根幹を担うであろう産業が、外部からの強い干渉によって揺らぐようなことがあってはならない、とそれぞれの領分において強い権力を持たせようとしたことが原因だ。
そうした思惑の中でダンジョン省とダンジョン協会、そして探索者組合は作られた。
そのために、ダンジョン省ですら生半可なことでは関与することが出来ないほどの独立性が、探索者組合とダンジョン協会には備えられていたのである。
またダンジョン協会と探索者組合という、ダンジョン探索の主要要素であるダンジョンと探索者を管轄する組織を独立させたことから、ダンジョン省はそちらに関わる権力をほとんど喪失してしまった。
そして出来上がったのが、ダンジョン産のアイテムに関する研究の管理などを行い、またアイテムの物流、ダンジョン産資源を使用した新しい商品や産業の創出などを担当する、ダンジョンに関わることの出来ないダンジョン省、という笑えない代物だった。
なお多くの国民は、当時は省庁云々を気にしていなかった。
ダンジョン探索黎明期だったために、組織としての組合や協会に目を向けるより、ダンジョン内から持ち帰られるアイテムや資源、そしてダンジョン内での撮影技術が無かった当時では、実際に探索をした者たちから聞いた武勇伝などに夢中になっていた。
そして一般市民の目がそれている間に、運営するものにとってだけ都合の良いダンジョン組合と探索者協会が発足し。
始めから腐り始めていた組織は、そのまま順調に腐っていった。
というのが、これまでのことの流れである。
「何か、質問がある者はいるか?」
大勢の職員が集められた大会議室。
前に立って話す、パンツスーツをまとった監察官の言葉に、聞いていたダンジョン協会と探索者組合の職員たちは顔を見合わせる。
大半のものが不正に絡んでいた2つの組織においては、この場にいるのは不正を拒んで出世できなかったものか、そもそも若年でまだ出世出来ていない若者しかいない。
そのため誰も、まともに協会や組合全体のことを考えて判断することが出来ないのである。
それでも、そんな中でまっすぐに手を上げて、監察官に問いかけるような熱意のある若者もいる。
「ではこれから私達は何をすれば良いのでしょうか」
そう問いかけたのは、まだ若いながらも少しばかり風格をまとった青年だ。
風格と言っても、官僚としての風格というよりは探索者としての風格と言ったほうが正確かもしれないが。
その青年の言葉に、監察官は楽しげな笑みを浮かべる。
「良い質問だ。君、名前は?」
「鷹司真司です。ダンジョン協会にて、ダンジョン環境部に所属していました。活動内容は主に上層の安全確認です」
青年の言葉に、監察官は笑みを深めた。
「ほう? 確かその仕事に割り当てられた予算は、馬鹿ドモに吸い取られていたはずだが。君はどうやって上層の安全を確認していたんだ?」
「予算が降りず探索者に依頼することが出来たなかったため、自分の目で見て回っておりました。何か問題がありますでしょうか」
つまり青年は、探索者に依頼するための金が中抜きでほとんど消えてしまい、探索者に依頼することが出来なかったので、自ら探索者になってダンジョンに入り、その目でダンジョンを見ていた、と言ったのだ。
こういう人材が、権力を与えられたときに世界を大きく変える。
監察官は、自身もまたそうであったためにそのことをよく知っていた。
「いや、これまでの件について、諸君らの力不足に一切諸君らの責任は無い。悪事の責任を負う者たちは全てこちらが確保している。ここにいる時点で、君たちに一切の落ち度は無い」
「はっ、失礼しました。それで、私達は以後どのようにすれば?」
監察官の言葉に、青年だけでなく集められた多くの職員達が注目した。
自分たちはこの後どうなるのか、と。
下手をすれば、このまま失職してしまう可能性すらある局面である。
必死になるのも当然というものだろう。
「君たちには、1月後より、順次アメリカとイギリスのギルド本部及び支部での研修を行ってもらう」
監察官の宣言に、場に沈黙が降りる。
監察官が何を言おうとしているのか、理解できる者がほとんどいなかったからだ。
「日本にはこれまで碌なダンジョンと探索者を管轄出来る組織が無かった。だが今から1から作り上げるには長い時間がかかる。故に、諸君らには半年の研修で、得れる限りのものを持ち帰ってもらう。そして来年のうちには、新たにダンジョン協会と探索者組合を合併した、ギルド本部を立ち上げる」
「目標未達のまま終わる公算が高いと思いますが」
大きなことを宣う監察官に、先程の青年が冷静に現実的ではないということを告げる。
だが、監察官は凶暴な笑みを浮かべて笑った。
「まさか。準備は万全だ。少なくとも私達ダンジョン省の人間はな」
「……と、おっしゃいますと?」
「権力を奪われたあの日から、私達は腐りゆく組織を見ながら、ひたすらそれを立て直すための準備を続けていたということだ」
青年を向いてやり取りをするように話していた監察官は、会議室全体へと視点を戻しながら告げる。
「後は君たちだ。実際にギルド本部、そして各ダンジョンがある地域での支部を作った際に働く君たちが実務の経験を得て帰ってきさえすれば、組織を作りあげることが出来ると、私は確信している。これで良いか、鷹司君」
「わかりました。英語の学習をしておきます」
青年の言葉に、それもそうだ、いきなり1月後から外国か、と言う声が室内に広がっていく。
そんななかに、ダンッという音が強く響いた。
監察官の女性が、会議室の前にあるホワイトボードを強く叩いたのだ。
「やめたいものがいればやめてくれて構わない。むしろそういったお荷物ありでやっていけるほどこれからのダンジョン省、そして新しくダンジョン協会と探索者組合の屍から生まれるギルド本部は暇ではない」
そして改めて、ここにいる職員たちに求める。
「我々はこれまで、探索者たちの信頼をことごとく裏切ってきた。故にこれからは、健全なダンジョン探索のために、諸君らには探索者に信頼されるように仕事をこなすという責任が発生する。それが理解出来ている者だけ、1月後からの研修に行くように。私からの話は以上だ。なお、この1月の間は新宿ダンジョンでの受付業務は私達の方で担当する。1月分は給料を出すから、必死で英語を勉強しておくように」
そこまでを告げると、監察官はそのまま部下を引き連れて会議室から出ていってしまった。
後に残されたのは、わけもわからないという表情をした下っ端職員達。
そして、少しは良くなるのではないかという希望。
その後、各地に存在する探索者組合とダンジョン協会の支部でも同様のことが告げられ、職員たちは己の進退を選ばされることになる。
しかし、それはこの腐りはてついに葬られることが決まったダンジョン協会と探索者組合にとっては、必要なことのなのであった。
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閑章は、ある程度繋がっている話については連日投稿します。
それが一段落したら、数日開けてまた繋がっている一連の話、という感じで行こうと思います。
とりあえず国家機関立て直し第一段についてはこれで終わりです。
次は以前から成長するところが見たいと言われていた、ジョンの配信の初期に触れた彼らについて数話書こうかと思います。
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