第46話 消えた住民

 城の門から出た俺達を、先に回っていたロボが出迎える。

 と、なぜかロボを見た女王が体を震わして後退り始めた。


「フェンリル、の幼生!?」

「俺の友達だ。ロボという」

「とも、だち」


 信じられない、と言いたげにつぶやく女王。

 確かに俺も、ロボの成長後の予想図を見た上でそれと友達といえる人間がいたら、そいつの顔が見てみたい。

 それぐらいロボの種族というのはやばいのだ。

 

 :フェンリル!? 

 :フェンリルって言ったか!?

 :ロボってそんなやべい種族だったの?

 :というかやっぱり北欧神話的世界観なんかな

 

 

 しかし、それで怯えられていては話が進まない。

 俺はロボを呼び寄せて、その顎を撫でて見せることで脅威がないことを彼女に示すことのする。


「そーれワシャワシャー」


 :ああでも撫でられて気持ちよさそうなのは普通にロボだな

 :フェンリルだけどロボだったわ

 :でっかいわんこ 


 とは言えそれは種族の話であって、個体としてのロボの話ではない。

 俺がロボの顎を撫でる様子を見せると、呆然としながらも納得してくれた。

 ついでにコメント欄も、ロボはロボだな、という結論に落ち着いたらしい。


「そ、それでは行きましょう」

「ああ」


 二人と一匹で城から出て、一番近くの家へと向かう。

 なお女王はずっとロボにビクビクしていた。

 

 その家についた後は扉を開き、中へとお邪魔する。

 どうやらこの世界の家は、まだ鍵という概念がないレベルらしい。

 あるいは必要がないほど善良な人の多い世界だったのか。


 しかし。


「いないぞ……?」


 もぬけの殻になっている寝具を見て俺が呟いた直後、弾かれたように女王様が走り出した。

 俺も後を追うと、そのまま隣の家に飛び込み、飛び出してきて、そしてまた別の家に飛び込みと、眠っている人を一人でも探すかのように走り回る。


 :え、まさかそういう感じ?

 :一気にホラーになったんだが

 :人がいない、なんで?

 :女王様めっちゃ慌ててるじゃん


 俺も彼女程全力で走るわけではないが、彼女に続いて何箇所かの家を確認したが、やはり気配感知の通りどこにも人の姿はなかった。

 

 まあ、正直な話をすれば、この状況は俺の予想通りだったりするのだが。

 むしろ女王が存在していることこそ俺にとっては疑問である。

 あるいは、彼女に風の民、風の子の血が混ざっているのが原因かもしれないなんて考えてみるが、果さて。


 いくつかの家を走った彼女は、そのまま街にいくつかある広場に入ったところで崩れ落ちてしまう。

 

「どういう、ことなの」


 震えながらつぶやく女王に配慮しつつ、話を先に進めるために俺は話すべきことを考える。

 ここでまた彼女を慰めていても、何も進まないのだ。


「あんたが封印している間に、他の何かが人の体を持っていってしまった、ということはないか? それこそ、黒い塊みたいなやつとか」


 一瞬浮かんだ想像を口にしてみるが、家々を巡っている中でその気配を感じることはなかったし、女王が居た部屋にあったような陣も書かれていなかったのでその可能性は薄いだろう。

 あるいは、自然とぱっと消えてしまったなんて想像も出来るが、流石にそれは突飛が無さすぎる。


 だがそれ以上に、女王は呆然としていた。


「けど、あの封印は、そんな、神の、破れないもので──」


 焦燥感に、言葉が無茶苦茶になりつつある彼女をなだめようとしたところで、丁度辺りがふっ、と暗くなる。

 この街は周囲を山に囲まれているので、自然と日照時間が短くなるのだ。

 

 というか本当に、よくこの場所に街を作ろうと思ったものだ。

 あるいは、彼女が眠っていたという数百年の間にそれほどに大きく地形が変わってしまったのか。

 

 そんな無駄な思考を横に押しやって、彼女に対応する。


「落ち着け落ち着け。取り敢えず一旦落ち着ける場所に行こう」


 一旦城へ、と考えたが、城は彼女にとって思い出の場所である。

 下手に近づいてしまうと、民との思い出を思い出して更に荒ぶる可能性がある。


 であるならば、あえて引き離す方向で行こう。


「一旦俺達のキャンプ地に連れて行くぞ」


 彼女の反応は無かったが、彼女が抵抗しないのを良いことに、俺は彼女を抱えてロボに乗り昨晩のキャンプ地まで移動する。

 そうこうしているうちに完全に日が街に当たらなくなり、辺りが薄暗くなってきた。

 

 ついでにこの街、なぜか月明かりも星の明かりも入らない謎の空間だったのを思い出す。

 本当の暗闇の中で寂れた町並みを行くのは流石に俺でも少しビビる。


 一旦移動した後、インベントリに持っていた綺麗めな椅子を平らなところに置いて、女王様を座らせる。

 そして俺は呆然とする彼女を一旦放っておいて、料理を始めた。

 

 今彼女に声をかけても、混乱している状態ではかえって逆効果になりかねない。

 それよりも、腹が減ったという現象によって彼女の意識がそれたときに惹きつけられるように食事を用意しておいた方がいい、という判断だ。


 ついでに普通に昼食わずに探索していたので俺もお腹が空いているしロボも腹ペコだ。

 

 小さな木のまな板の上で、ナイフで人参じゃがいも玉ねぎと順に刻んでいく。

 肉はベーコンだとちょっと味が強すぎるので持ってきた干し肉を使うとして──


『バウッ』


 と思ったらロボがなんかでかめの鹿みたいな動物、モンスターを狩ってきたので、一旦料理を中断してそっちを解体して今晩の料理に使うことにする。

 シチューと、デカめの焼いた肉。

 後昨晩仕込んでおいたナンもどきのパンが今晩の食事だ。


『グギュゥゥゥゥゥゥ……』


 と、そこで間の抜けた音が辺りに響く。

 音の発生源に顔を向けると、女王がぽかんとした顔でこちらを見ていた。

 そして数秒して状況がわかったのか、また最初のときの様に顔を真赤にして隠してしまう。


「み、見ないでください……」

「取り敢えず腹が減っているのはわかった」


 :赤面する美女、(・∀・)イイネ!!

 :そりゃあ何百年も、腹減るわ 

 :時の狭間ってジョン言ってたよな

 :どういうことになってたのか解説してほしいわ


 なにせ100年以上、彼女も正確な時間を計測できていないであろうほどに氷の中にいたのだ。

 いくら時の狭間にいようとも腹ぐらいは減るだろう。


 取り敢えずちゃっちゃと食事を作り上げてしまおうと料理の手を早め、完成させる。

 そして出来上がったものを、普段は一人で地面に座り込んで食べているのだが、今日は女王がいるので机を出して置き、その上に並べる。

 また近くに、明かりとなる魔道具も槍の柄に引っ掛けて複数設置しておいた。


「女王様に出すには質素かもしれないが、どうぞ」


 そう言ってまずはシチューを彼女の前に出すと、女王は寂しそうな顔で笑った。


「シレーネと呼んでください。民なき今は、もう……」


 そう言われると俺もそう考えるしかなくなる。

 改めて、シレーネの前に残りの料理、焼いた肉とナンを並べる。

 ちなみにナンなのにカレーじゃなくてシチューなのは俺の気分だ。


「わかった。では、シレーネ、熱いから気をつけてな」

「はい、ありがとうございます。申し訳ありません。色々と聞いていただいただけでなく、このような……」


 申し訳無さそうにする彼女に俺は首を振る。


「俺こそ、ことの真相がある程度わかって助かった」


 これは本当に。

 彼女がいなければ、あるいはこうして話してくれなければ、俺がこの状況の真相を知ることは無かったのだ。


 そのまま対面に座って食事をする。


 :なんか急に飯テロ始まったな

 :俺も腹減った

 :ナンにシチューは許せん

 :そこはカレーだろJK

 

 互いに会話はないが、シレーネの様子を見ると目を輝かせているので、ちゃんと美味しいと感じてくれているらしい。

 それを嬉しく思いながら、俺達は二人、いや、ロボも含めて三名で食事をとるのだった。


~~~~~~~~~~~~~



皆さんお気づきかもしれませんが、新作投稿しています。


【ダンジョン配信×死にゲー】 【悲報】探索者さん、分身スキルで死にゲーをやっているところを晒され世界に狂気を見せつけてしまう~『死んで死んで死んで、その先に勝てば俺の勝ちだ』

https://kakuyomu.jp/works/16818093075426242643


本作を基準にして考えるならば、一人ダンジョンで暮らすほどには振り切らなかったジョンが、他者との交流を深めつつ、ダンジョンの深淵を最前線で攻略していく話となっています。


こちらでも多くの人と関わる運命になりながらも、ただダンジョン探索に生きる我道を行く主人公が出てきます。


是非、読んでみてください。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る