第307話 光の波動。


 アシュトー司令官率いる『光の勢力』は、銀河連合地球方面解放軍(ポンコツ主任クウちゃん含む)を、地球圏奪還に向けて派遣した。


 当初の作戦は、闇の勢力がさらなる洗脳と、民衆の怠惰を増進すべく広げた情報とコンテンツの網、『インターネット』の仕組みを逆手に取る事であった。


 インターネットはテレビによる一方的な情報発信と異なり、大衆の一人一人が発信源となり得る双方向、言語の壁を越えて一人が大多数に発信できるという特徴を持っていた。


 光の勢力は、その機能に注目した。


 この地球全体が、世界が、社会がごく一部の少数の支配者によって支配されているという現実を。

 

 そして、それを知らされることなく、搾取される為だけに生かされているという現実を。


 インターネットを利用して全世界に発信していったのだ。



 

 最初は、小さな揺らぎに過ぎなかった。


 だが、それは静謐な水面に投げられた石のごとく、広範囲に際限なく広がる波の動きとなってこの地球上に伝播していった。


 当然、闇の勢力による妨害も受けた。


 世界の真実を告げる者たちを「陰謀論者」や「オカルト主義者」等と誹謗して情報の信ぴょう性を揺らしにかかる。


 光の勢力と闇の勢力の情報戦は、闇側有利のまま時間が経過していった。



 だが、そこに「救世主」とも呼称されるような存在も現れる。



 SNSなどで、俗にいうインフルエンサーが、光の側に立った時。


 投稿する記事に多大な共感を得て、いわゆる「バズる」投稿を繰り返す者。


 素性も名前も知られていないそんな存在が、時間の経過とともに「カリスマ」と呼ばれるような存在になる。



 自らは全く意識せずとも、そんな存在になってしまった日本人がいた。


 その者の名は「佐藤真治」という。





 シンジは、田舎のブラック企業に努めるしがないサラリーマン。


 日々の愚痴や、政治への不満などを、本当にたまに某SNSに投稿したり、共感できる投稿を見ては「いいね」や「リポスト」したり。


 なんのけなしにそんな行動を繰り返していた彼は、いつの間にか「世界の真実を暴くもの」「支配から脱却するためのリーダー」「ミスター光の勢力」などといった二つ名をいつの間にか手にしていた。


 もちろん、本人のあずかり知らぬところで。


 もし、彼のSNSに収益化の手続きを行っていなのであれば、莫大な収益を得られていたであろうが、そこは残念なおっさんである。

 そもそも自身の投稿などが収益になる仕組みすらよくわかっていない。


 

 そのような存在は、当然闇の勢力からもマークされることとなる。


 他者の共感を得やすい「エンパス体質」。


 それの最たる者であるシンジを、闇の拠点を秘密裏に再構築し始めた惑星デパテラエンスに強制転移させて拉致する計画が立てられた。 


 惑星デパテラエンスは様々な『気』や『思念』、『浮遊意識』を集めやすい周波帯に存在し、以前にも闇の勢力が橋頭保を築こうと画策し、偶然のアシュトー司令官(アキン・ドー)の転移によって頓挫したという経緯を持ち、いったん光の勢力に解放されたためその存在はノーマークに近いものとなっていたからである。

 

 シンジの拉致後は、その精神を挫いて絶望を植え付けて闇落ちさせ、異世界での『魔王』としてマイナスの感情を集めるための誘蛾灯として利用する目論見であった。





 その計画を直前になって挫いたのが、クウちゃんであった。


 そのため、闇の勢力は計画が頓挫し、目標達成から大きく遠ざかることとなる。








「と、いうことなのよ! わたしを敬いなさい!」


「説明セリフ長かったな!」




「と、いう事でだな。シンジ殿は闇の勢力から狙われてしまっていたのだよ」


 アシュトーさん? そのブランデーどっから出してきたの?


 あなたたち神様みたいな存在なんだよね?


 どうして一般庶民のオッサンからお酒をせしめてるの?



 まあ、酒の金は後で請求しよう。


 なんせ、「等価交換」をつかさどる神様だ(違う)。


 きちんと代金は払ってくれると信じたい。



 というか、なぜにオレが異世界に飛ばされたんだという疑問が突然解消されたな。


 たしかに、あの頃はわけもわからずスマホをいじって、息子に教えてもらったSNSとやらのアプリを入れて、仕事の愚痴とか政治への文句とか、世界情勢への思うところとかをたまに書き込んでいたけど、まさかそれが闇の勢力に目を付けられる原因だったとは。


 おかしいとは思っていたんだ。オレみたいなおっさんが書いた記事に100万とかの反応があるんだもんな。

 SNSのことなんてよくわからなかったから、こんなもんなんだと思っていたんだよ。面白おかしくするために、本当は10くらいの反応を100万とかに水増ししてユーザーをだましているもんシステムだと思っていたんだ。


 まさかそれが、こんなことになろうとは。



「それでね! シンジを助けるときに、チカラが届かなくて『けいとら』に加護を与えたじゃない? そのときにね、シンジの軽トラだけじゃなくて、どうも『軽トラ』という存在、概念自体にも加護がついちゃったらしいのよ!」


 ん? どういうこと?


「つまり、その辺を走っている軽トラにも加護がついているということだな」


 アシュトーさん、オレのブランデー飲みすぎですよ?


「で、そのへんの軽トラにはせいぜい燃費が良くなったりバッテリーが上がりにくくなったりといった微妙な加護しかついてないのだが――」


「いや、けっこう助かるぞそれ」



「光のチカラととても親和性の高い車体も数台現れた駐在所と佳樹の家のだ。そして、その車体とその持ち主にも世界を救う一翼を担ってもらわなければならないのだ」



 


 

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