第305話 光と闇②
全宇宙の唯一にして最後の牢獄と化した地球。
だが、そこに居る魂は『悪』ばかりではない。
もとから地球で生まれ育った者、闇と対立し力及ばず破れて虜囚となった者など、救うべき存在も多い。
それらの魂を救うべく、プレアデス星団に本拠を置く光の勢力は、地球に介入をはじめたのだ。
ただし、銀河法典という宇宙高次の取り決めにより、他の惑星や生態系に上位の行為の存在が直接関与することは禁じられている。
つまりは光の勢力は地球の支配を力ずくで闇から取り戻したりという有形力の行使は不可能であるのだ。
地球に住む魂たちが闇から解き放たれる為には、その魂たちが闇に支配されていることを認識し、目覚め、自分達のチカラで自らの拠って起つことを定めなければならないということでもある。
そのため、光の勢力は間接的な介入しかできなかったが、それでも様々な干渉を、闇の支配する地球に対して行った。
今現在の文化の系譜でいえば、光の現身であるイエスを遣わしたり、聖人と呼ばれる高潔な魂を持った現地の生者に啓示を与えたりと。
だが、闇の勢力はイエスの存在を逆手に取り、民衆を支配する道具としての『宗教』を作りだした。
自分達の都合の良いように聖書を改ざんして民衆を衆愚に変えて考える力を奪っていく。
宗教を拠り所に暴力での強奪を正当化し、十字軍という正義の皮を被った侵略強盗暴力集団を生み出したりと、闇の勢力はまさにやりたい放題。
自らのチカラと能力で、農作物という『財』を生み出す農耕が発展していくと、それらの財を効率よく搾取するために『貨幣制度』を浸透させ、『税』という大義名分をもって効率的に搾取を行っていく。
それに合わせ、自ら財を生み出す農民たちのチカラがこれ以上増えないよう『種苗』を管理し、本来住民たちの所有しているものである『土地』に値段をつけて税もむしり取る。
富を集めた支配層は『財閥』と化して地球中の富を集めたり、『国』を造って効率よく財を搾取した。
このころから、闇の勢力は『ディープ・ステイト』と呼ばれるようになり、フリーメイソンやイルミナティなどという秘密結社の存在が囁かれた。
支配層の欲は留まることを知らない。
貴族と庶民。
大名と平民。
ブルジョワジーとプロレタリアートの階級社会のようなわかりやすい2分化された社会構造を、より複雑で庶民の理解が及ばない様に変質させていく。
搾取する『富』をさらに増やすべく、労働しなくては生命の維持が出来ないような社会体制を作りだす。
『電気』という生活必需品を庶民に開放し、電気を買うための財貨を獲得するための労働を庶民に強いた。
ここに有名な逸話がある。
かの有名な『電気』の発明家。
彼が電気を発明するまでは、人間は朝と夕の一日2食という生活様式であった。
そんな中。発明家の彼は『電気』をもっともっと売りだすべく、オーブントースターという機械と、『昼食』という新たな文化を世に放った。
これにより、食事を作るための電気を使用する機会は一日2回から3回に。
単純計算で、支配層に流入する富が1.5倍になったわけである。
その間、光の勢力も手をこまねいてはいない。
『電気』を無償で生み出し、送電線なしでそれを配布するコイルを開発して世に送り出そうとするが、闇の勢力に属した電気の発明家の名声の陰に隠されてしまう。
そして、電気の普及で機が熟した闇の勢力は、今生の文化で最悪の『洗脳装置』を世に放つ。
それは、『テレビ』という存在。
一方的に、支配者に都合の良い情報を大衆に瞬時に浸透させることが出来るこの装置は猛威を振るう。
どんな学問も、どんな研究の成果も。
どれほど正しい世の中の真理でさえ、この『テレビ』によって支配者のいいように常識を上書きされてしまうのだ。
「ああ。あのテレビというやつはまさに悪魔のように人々の心と生活に巣食って行ったんだ」
ここまでの話を終えたアシュトーさんは、おもむろに缶ビール(6本目)を飲み切り、話をいったん区切り、
「そろそろ日本酒をいただきたいのだが?」
すこしは遠慮しろ!
そして、オレの秘蔵の酒が熱燗になってテーブルに出てくると、その湯気の立つお猪口をグイッと飲みほして話の続きを始める。
「そんな時だ。私が銀河方面地球対策班の主任として赴任したのは。」
アシュトーさんは、そんな地球を救うべく意欲を持ってその任務に取り組んだそうな。
で、闇の勢力が操る『テレビ』というチカラを逆手にとれないかと画策したらしい。
敵をよりよく知るために、アシュトーさんはテレビの番組を隅から隅まで視聴したそうな。
「だが、まさにミイラ取りがミイラになってしまったのだよ」
アシュトーさんは陰の射す表情をして、ため息交じりにそう言い放つ。
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