第304話 光と闇①

「「「カンパーイ!(‥‥‥)」」」


 どうしてこうなった。



 オレが大切なナニカを失い、失意を酒で慰めようとしていたところ、


 なぜかクウちゃんと妻も便乗して朝から自宅飲み会になってしまった。


 クウちゃんの身体はドールなはずだが酒飲めるのか?




 缶ビールで乾杯した後は、妻の作った料理をつまみにまったりと過ごす。


 うん、妻の料理は久々に味わうな。




 クウちゃんはオレの異世界での活躍? を楽しそうに妻に話して教えている。


 異世界でのオレの行動には、おっさんのくせに厨二じみた言動があったりで確かに恥ずかしい思いはあるのだが、昨夜のことに比べれば些末なことに思えた。


 オレは悟りでも開いてしまったのだろうか。



 時折その話に相槌を打ったり否定したりしながら時間は過ぎていく。







 それなりに話題も尽きてきたころ。


 オレは、ふと気になったことをクウちゃんに尋ねてみた。



「なあ、ところで、あの異世界にオレの前に転移してきたアキン・ドーって人は結局何者だったんだ? いつの時代の人で、ここと同じ次元の地球の日本の人なのか?」



 そう、それは正体不明のあの人物の事。


 オレが異世界に飛ばされる数百年前にはすでに向こうの世界に存在していたという日本人と思われる人物。


 異世界で国を作り、子作り? までもしていたかはわからないが、地球や日本の文化を持ち込み、文化の成熟度を進めた実績を持つ人物。


 もし、彼の存在がなければ、オレが転移したところからなにもかにも1から始めなければならず、闇を払うだのといったなんだかんだはもっと時間がかかっていたのだろうと思われる。





「それはわたしから説明しよう」



 おおーい! いつの間に!



 コタツの一画には、いつの間にか現れたナイスミドルの欧米のような男性がビールを片手に座っていた。

 お前、勝手に冷蔵庫開けただろ? 乾杯もしないで酒に口をつけるのは晴田県ではマナー違反だぞ?



「アシュトー司令官‥‥‥!」



 クウちゃんがそう呼んだ人物は、どうやらクウちゃんの上司に当たる人物? 存在? のようで、これまでも夢の中で啓示を与えてきたり、念話のようなもので関わったことがある人? のようだ。



「そう、わたしもあの頃は若く、未熟だったのだ‥‥‥」



 そしていきなり語り始めるアシュトーさん。



 あれ? ビール一口で酔っぱらった?


 若い時とか言ってるけど、高次元の存在なのに「若い」とかあるのかな?



「あのころのわたしは、自分が何でもできる存在で、決して取り乱すことなどないとうぬぼれていたのだよ」


 そこからアシュトーさんの語りは続く。


 足りなくなったつまみや酒を補充しつつ、オレたちはその話を聞かざるを得ない状況になってしまった。あ、クウちゃん、その日本酒はオレのとっておきだからまだ飲まないで。






 アシュトーさん曰く、


 この地球という惑星は、闇の勢力によって魂を檻に入れられた牢獄だと。


 宇宙では通常、『魂』は輪廻を繰り返し、様々な時代、年代、星系、惑星を移り変わる。


 その『せい』の営みの中で、各々の魂はその位階を磨き、次元上昇を果たしてより高次元の存在へと昇っていくのだとか。


 だが、この地球の魂は違う。


 はるか昔、この惑星に降り立った闇の異星人が作り出した生命。それが人間。


 人間は猿から進化した存在にあらず。


 この地で繁殖していた猿のDNAをもとに、外から訪れた生命体の下僕、労働力として作られた存在。


 その異星人たちは、異星人の種族同士で争いを繰り返し、地球もその戦いの舞台にされた。


 そのたび、文明は発展し、滅亡し。


 支配層が勢力争いで交代しても、それら「人間」は、時には宇宙にも至る知識能力を身に着け、時には地べたで狩猟をするような知能、文化にとどまったり。


 その在り方は支配する者たちの胸先三寸でいかようにも変えられていた。


 そんな地球の『魂』たち。すなわち人間たちは、その支配者がいいように扱いやすくするために、宇宙全体の『輪廻の輪』から隔離され、同じ惑星の中でのみ輪廻を繰り返すようになった。


 まるで牢獄のように。


 そして、名は体を現すかの如く、全宇宙中で罪を犯した魂、道理に逆らった魂、そして大いなる闇に魅入られたり闇と対立した魂らは、次々と闇の勢力にとらわれて地球に送られ、文字通りの、宇宙における魂の牢獄と化していた。



 全宇宙唯一にして最終の流刑地。それが地球。





 そして、奴らは気づいてしまった。


 それらの囚われた魂が、何もかもをを搾取されながら生を繰り返している最中で抱くマイナスの感情。


 それらがとても甘露で甘美、美味な快楽であることに。


 それらが自分たちの能力、美を高めるエネルギーとなることに。





 それに気づいた闇の勢力の行動は分かりやすかった。


 積極的に地球に肉体を持って顕現し、直接支配をする者。


 それらを統括してを掠める者。


 そして、支配層におもねる現地の魂たちが、より弱いものを虐げ搾取し支配する闇の支配体制が確立されてくる。


 そして、さらに魂を地球に縛り付け、そして地球外からも都合の良い魂を呼び寄せる体制の強化もエスカレートされていったのだ。



 だが、そこに居る魂は『悪』ばかりではない。


 もとから地球で生まれ育った者、闇と対立し力及ばず破れて虜囚となった者など、救うべき存在も多い。


 それらの魂を救うべく、プレアデス星団に本拠を置く光の勢力は、地球に介入をはじめたのだ。

 

 ただし、銀河法典という宇宙高次の取り決めにより、他の惑星や生態系に上位の行為の存在が直接関与することは禁じられている。


 つまりは光の勢力は地球の支配を力ずくで闇から取り戻したりという有形力の行使は不可能であるのだ。


 地球に住む魂たちが闇から解き放たれる為には、その魂たちが闇に支配されていることを認識し、目覚め、自分達のチカラで自らの拠って起つことを定めなければならないということでもある。





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