第303話 すいーとまいほーむ。

 クウちゃんがとんでもないことを言い出した。


 いや、「おっぱい揉む?」まではまあよかった。


 なんと、その後は異世界と地球の時空のねじれを戻すためにクウちゃんの錠前の鍵穴オレの鍵で開けろとのたまう。


 それって、クウちゃんとアレをしろってことだよね?


 いや、オレ奥さんいるから。


 揉むまでは許容できても、最後まで行くのはいかがなものかとオレの中の倫理規定委員会が警鐘を鳴らしている。


「もーーーー! シンジったら頭が固いわね! あそこは柔らかいくせに! いいわ! じゃあ、奥さんに許可をもらいに行きましょう!」



 おい、今こいつなんつった?



「軽トラのレベルも99でカンスト! 『時空魔法』もレベル10で最高になったのよ! 地球どころか、イスカンダルまで行けるわよ!」


 いや、顔色の悪い総統様とは戦わないが。


「じゃあいくわよー! これをこうしてっと!」


 クウちゃんは慣れた手つきで軽トラのハンドルに着いたボタンを操作し、フロントガラスに映るHUDヘッドアップディスプレイの表示がどんどん切り替わっていく。


 この異世界のマップから地球のそれへと変わり、まるでグーグル先生の地図のように日本のある地点がズームアップされていく。


「シンジの家はここね! 転移! ぽちっとな!」


 おい、びっくりドッキリメカが出てくるような掛け声はやめろ。


 オレは軽トラの前面が開いて中から小さな軽トラがたくさん出てくる場面を幻視した。



 かと思いきや、一瞬のまばゆい光に包まれ、軽トラの窓に映る景色はオレの見慣れたものに。



「‥‥‥帰ってきたんだな」


 ひょんなことクウちゃんのやらかしから異世界に飛ばされ約半年も経っただろうか。


 異世界で暮らした日数およそ180日。


 地球の時間ではおよそ18日間か。


 いや、たしか途中で時空魔法のレベルが上がったときに時間の流れが揃えられたんだったか。


 ならば、こちらでも3ヶ月くらいは経過しているという事か。





 オレは、自宅の玄関を見つめる。


 この扉の向こうに妻がいる。


 決して、ラブラブ夫婦だったというわけではない。


 だが、会えない時間がその大切さを思い出させてくれた。


 きっと、妻も同じ気持ちでいるだろう。


 さあ、再会の時だ。







 自然と二人は見つめ合い、そして抱き合って愛を確かめるのだろう―――









 その時、


「じゃあ、どうもでしたー」


 自宅の玄関から若い男が出てきた!


「NTRかい!」


 オレは驚愕に慄いた。



 ◇ ◇ ◇ ◇


「あなたバカ? こんなおばちゃんに男が出来る訳ないでしょうが」


 はい、今は自宅の居間にいます。


 目の前にはコタツを挟んで妻。そしてなぜかその隣にクウちゃんという並び。


 座る場所おかしくね?


 普通、オレと妻が並んで座って、客であるクウちゃんが対面に来るのが普通だと思うのだが。


「秋美ちゃ~ん、おひさしぶりぶりー!」


「クウちゃんさんもいつも若いわねー」



 そしてこの二人、いつの間にか友人になっていただと?!



 ちなみに、さっき家の玄関から出てきた若い男は某ウーバーいーつの田舎Vr業者らしい。


 コタツの上には市内の人気ラーメン店から取り寄せたあんかけラーメンが3つ並んでいる。


 どうやら、自宅に帰ることをクウちゃんがすでに連絡していたらしく、それに合わせて妻がラーメンをお取り寄せしていたようだ。


 ラーメンが伸びないうちに食べ始める。



「で、秋美ちゃん? シンジ一晩貸してね」


「ご自由にー」


 

 おおーい!


 あっさりし過ぎだろうが!


 オレは妻を問い詰める。それでいいのかと。


「だって、いつもスマホの動画見て自家発電してたじゃない。クウちゃんさんの身体ってたしかそういうお人形なんでしょ? だったらそれと変わりないじゃない?」


「‥‥‥そのスマホの動画云々の所って」


「バレてないと思ってたの? あれだけ家揺らしておいて。」



 なん‥‥‥だと‥‥‥



「ところであなた? クウちゃんさんとってもきれいだから大丈夫だと思うけど、あなたのモノは役に立ちそうなの?」




「――――――――。」



 誰か助けて。

 




◇ ◇ ◇ ◇



 ――翌日。


 せっかくだから見学させてと意味不明なことをのたまう妻の立ち合いの元、オレは動く人形を相手にした実質自家発電と同じ行為? でさんざん絞られ、真っ白になっていた‥‥‥。


 何か大切なものを失ってしまったような喪失感がすごい。


 オレ? マグロでしたがなにか?


 もう、赤身だろうが大トロだろうが好きにしてくれ。


 こんな展開になるのはだれも望んでいないというのに!










「さてシンジ! この高次元の女神さまが現世に受肉して、性の営みを通じてクンダリーニ覚醒を果たしたわ! 喜びと幸福をこの世界に遍くいきわたらせることが出来たのよ! これで、もう闇の勢力の駆除も時間の問題ね!」



 そうか、


 この行為は地球や異世界から闇を払うために必要な行為だったのか。


 オレの心に闇が生まれそうなのだが。





 まあ、妻も公認だし。


 厳密にはお人形様で遊んだだけとも言えるし。

 

 オレは悪くない。






 さあ、まだ朝だが酒でも飲もう。


 飲んで、呑んで、そして寝よう。


 目が覚めたら、悪い夢を見ていたと思えるようになるさ‥‥‥



「シンジー! 一人で飲んでないで誘いなさいよー! あ、秋美ちゃんおつまみ作ってくれるの~、ありがとー! さあシンジ、乾杯よ!」




 タスケテ


 



 

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