第302話 女神の過誤。
「シンジ! 女神の加護をその身で体感するのよ!」
うん。嫌な予感。
そして、クウちゃんがおもむろにどや顔で何かのチカラを行使した。
――その後。
どぱーーん
― かいしんのいちげき! ―
どぱーーん
― かいしんのいちげき! ―
どぱーーん
― かいしんのいちげき! ―
なんと、クウちゃんの加護を得てからはすべての攻撃が『会心の一撃』となり、あの硬いメタルなあんちくしょうもワンターン・キルである。
しかも、この『虎の穴』ダンジョン。
1階層ではあのオーソドックスなメタルなスライム。
2階層ではそいつらの団体様。
3階層では、バブリーな見た目のはぐれてしまいそうなメタルなやつ。
4階層でははぐれてしまいそうな奴の団体様。
そして5階層では。
なんと、オーソドックスなやつが8体くらい合体したようなでかいキング様。
今は5階層で大きなキングを大量殺戮中である。
おかげで、どんどん軽トラのレベルが上がっていき、レベル上げは順調なのだが、
「おえ~~~~~~」
シンジは車酔いした!
急激なレベルアップの影響なのか、それともクウちゃんの加護の副作用なのか、とっても気持ちが悪い。おそらく後者だ。
運転席の窓を開け、朝食の変わり果てた姿のモノをキラキラとダンジョンにぶちまける。
運転していて車酔いするのは免許を取ってから初めての経験だな。
「も~、シンジったら情けないわねぇ。そんなんじゃ、わたしとの夜の時間までスタミナがもたないぞっ」
うるせえ。
たしかこの異世界仕様の軽トラって『搭乗者保護』の機能でオレに状態異常は効かないはずなのに‥‥‥。
保護を突き破ってバッドステータスを与えてくるあたり、さすが女神のチカラと言えばいいのか。
やはりこのチカラは加護というより過誤のほうだな。
なんてことを考えているうちに、胃袋の中も空っぽになり、胃液と唾液を少し放出して少し楽になってきた。
「ふう、けっこうレベルも上がったし、今日のところはこの辺で勘弁してやろうかな」
「シンジ~。もうやめちゃうの~? わたしはもっと欲しいな~?」
だからなぜそんな言い方をするんだコイツは。
「いや、欲張るといいことはない。そんなことを昔の親友が言っていた。」
「え~、でも、もうちょっとでカンストするわよ?」
なんだと?
たくさんの経験値と怒涛のレベルアップ、それに車酔いも合わさってどれだけレベルが上がったかを正確に把握はしていなかったが、まさかそこまでレベルが上がっていたとは。
「だから~、最後にもう一発ぅ。んー、じゃものたりないから3発くらい頑張ってね?」
オレは無言で3匹のメタルなでかいキングを葬った。
◇ ◇ ◇ ◇
「シンジ! おめでとー! 軽トラがカンストして『時空魔法』も最大レベルの10に到達したわよ! これで、日本に帰るもギャルの着替えの更衣室に転移するもシンジの自由よ!」
いや、軽トラごと更衣室に転移したらギャルがつぶれてしまうだろうに。
それに通報されてしまうわ。
逃げる気になればさらに転移で逃げられるだろうけども、この軽トラにはナンバープレートもついているのだ。
日本の警察の皆さんならば、そのナンバーからすぐに特定されてしまうだろう。
ん? 警察?
そういえば、何かを忘れていたような。ああ、思い出した。
「そういえばクウちゃん、たしかこっちの世界からオレとの『等価交換』のとばっちりで日本に飛ばされた女の子がいたよな。駐在所で生活してるっていう。『時空魔法』がカンストした今なら彼女もこっちに戻せるんじゃないのか?」
「それな」
「むかつく反応やめんかい!」
「はいはい、怒っぽいのと早いのは嫌われるわよ? えっと、その件なんだけど、まだ無理なのよ。シンジはこっちの世界で条件を満たしたけれど、あっちはあっちで
条件? 刻?
「その条件とか、刻ってのはなんなんだ?」
「そうね! なにしろ異なる世界間のいろんな力場や意識や現象が錯綜しているから、その条件はとても複雑なのよ! 一言で説明は出来ないと思ってちょうだい!」
いや、どうせその複雑にした要因の一つはお前だろうと強く思ったがあえて口には出さない。もっと面倒くさくなりそうだからな。
「でもねシンジ! その複雑な条件の中に、一つとってもシンプルなものがあるのよ! 聞きたい?」
うわー、聞きたくねえー。
「かつてトラニャリスちゃんとアキン・ドーがそうだったように、世界のはざまに掛かった戒めの鍵を開けるために、その錠を鍵で開けなくてはならないのよ! つまり、トラニャリスちゃんが『錠』で、アキン・ドーが『鍵』になるわね! 鍵を錠の鍵穴に突っ込んで解錠するのよ!」
えーっと、つまり?
「そうよ! 『錠』はわたしで、『鍵』はシンジよ! さあ、鍵を開けましょう!」
「チェンジで」
「こらぁ~~~~!!」
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