第268話 別れの挨拶。
♪ペペーポパペポ~ペペーポパペポ~
無事、王様になることを回避したオレは王都を後にした。
で、
また屋台をやっている。
「シンジ~? なんか、いつも同じことやってる気がするんだけど~?」
おっとミネットよ。
確かにお前の言うとおりだが、やっていることは同じでも、やっている場所が違う!
今いるのはセイブル辺境伯のおひざ元、セイブルの街の中だ。
ここに来るまでのあいだにしっかりメオンの街にも寄ってきたぞ。
孤児のゼスタやヴィスタらをはじめ、ギルマスのドニやら他の冒険者パーティーやら、とにかく街中の人たちにタコヤキを振舞ってきた。
もちろんここ、セイブルの街でも無料。
いつもは手伝いばかりでゆっくり食べることのできなかったタヌキ獣人のラクアさんとか、王都のコウリ教がいなくなったことで業務がひと段落した、隠密のキツネ獣人の人たちも笑顔でほおばっている。
「だんな、さま? どうして、みんなに、こうやってたこやきをふるまっているの?」
ノエル様が不安そうな表情で聞いてくる。
「まるで、みんなにお別れのあいさつでもしているかのようですわ」
ミネットやセレス様も不安と怪訝がまじりあったような表情でこちらを伺っている。
さすがにみんな察してしまうか。
「ああ、オレは明日から旅に出る。」
「「「!!!!!!」」」
「シンジ様!? もちろん、わたしも連れて行ってくださいますわよね?!」
「シンジ~? ついていくからね~」
「だんな、さま? ノエルはいっしょ、ですよ?」
「いや、みんなには悪いが、今回の旅はオレ一人で行く。いや、正確にはライムと二人か」
「「「なんで(どうして)(ですの)!!!!!!!!」」」
「えーと、そのことなんだが」
オレは神妙になってみんなに向き直る。
極力真面目な顔をしているが、後で聞いたところによるとこのときオレの口元にはタコヤキのお好み焼き風味(なんだそれ同じじゃねえか)に使った青のりがついていたらしい。
だが、その時のオレはそんなことは知らないので、至極真面目な顔でみんなに語りかける。
「この国は平和になった」
「「「……」」」
「だが、まだだ。コウリ教に虐げられていた人たちは、まだマイナスの地点にいる。その人たちは、まずはプラスマイナスゼロに戻って、そしてプラス、つまりは幸せにならなくてはならない。」
「「「……」」」
「そして、それをするのはオレじゃない。ここにいるみんなの役目だと思う。」
「「「!」」」
「セレス様。メオン男爵領の人たちは、冒険者ギルドの力も借りて周辺の魔物の討伐や、各村々の生活レベルの向上を図ることが求められていますね」
「は、はい!」
「ミネット。トランシープ商会はこれからますます流通網の発展に邁進しなくてはならないな」
「う~」
「ノエル様。ここ辺境伯領には、コウリ教の非道な仕打ちを受けた人々が多数移り住んでくると聞きます。獣人の孤児たちを扶けるにあたり、お父様をお手伝いする機会もあるでしょう」
「は、はい。」
「これまで、オレたちはチームのようなものでした。大きな悪に立ち向かうために、力を合わせることが必要でした。しかし、悪が倒れた今、各個人の役割が細分化されると思います。ここは、いったん解散して、各自自分の出来ること、自分しかできないことを頑張っていく時が来たのです。」
「それは~、そうなのかも~、だけど~」
「わたしも領主の端くれです。たしかに、シンジ様の仰る通りです」
「じゃあ、だんな、さまは、どうするの、ですか? どこに、いくの、ですか?」
「オレか? オレは、とりあえずは隣の獣人の国、セタン王国に行ってみようと思っている。長い旅になるかもしれない。」
そう、かつての転移者と目されるアキン・ドーが拓いたという国。
獣人や亜人たちが笑顔でいきいきと暮らす生命力に満ち溢れた国。
そこに、行かなくてはならないと思うのだ。
コウリ教の首魁はこの国から追い払ったとはいえ、いまだにこの世界のどこかに潜んでいるのだろう。
つまり、悪の根源。闇の勢力は健在だ。
そしておそらく、奴らは『魔王』たる存在を顕現させることをもって、この世界や次元の違う地球まで、おそらくはあまねく宇宙中に闇の勢力下に置こうとしているのであろう。
その『魔王』には、まかり間違えばオレがなるところだったのだ。
オレの代わりに魔王にさせられる存在を救うのか、討伐するのかはその時になってみないとわからないが、オレが知らないふりをすることはかなわないだろう。
その為には、チカラも、情報も足りない。
危険なこともあるだろう。
だから、オレ一人で行く。
「なあに、
「え~と?」
「あ、あはは」
あれ? なんかみんなの反応が思っていたのと違うなあ?
「シンジ様。あの、言いにくいのですが」
「セレス様? どうしました?」
「セタン王国は、この国の王都より近くにありまして……。ここセイブル辺境伯領のお隣なんです……。私の領地に行くより近いんですの……」
めっちゃ近くだったー。
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