第266話 シンジ、国王になる。
「シンジ殿! アキン・ドーの故事に倣い、どうかこの国の王となってはいただけないだろうか!」
はい?
オレが国王?
なんでそうなる?
「いや、無理です」
「ええええええーーーー! そこを何とか!」
「だが断る!」
「ええええええーーーー! そこを曲げて!」
いやー、『だが断る』ってどっかで言ってみたかったんだよな。
まさか、国王になるのを断るときに使うとは思ってみなかったけど。
「いや! そこは引き受けてもらわねば困るのです! 初代国王、はるか昔のご先祖様からの言い伝えなのです! 『異界の地より来たりし者、我が国を救いしとき、その者に全てをゆだねるべし』と! 他の何事をおいても、どうかこのことだけは受け入れてくださいませ!」
「「「そうですぞ! 何卒!」」」
「「「お願い致します!」」」
「「「シンジ殿! どうか我らの王に!」」」
大将軍や大臣たちがこぞってオレにお願いをしてくる。
困ったオレは、横に控えていたミシェル辺境伯様やセレスさまに視線を送り、助けを求めたのだが――
なんと、お二人ともオレの方を向いて跪いていらっしゃる?
「婿殿。我からもお願い申す。どうか、我らを導いていただきたい。」
「シンジ殿。これは運命、定めなのです。わたくしの婿――いえ、夫となり、どうかこの国を、民を導いていただけますよう」
おーい、あんたらもかい!
って、ノエル様やミネットまでもがそれに倣って跪いているし。
オレに味方はいないのか?
うーむ、これは『はい』と答えるまで延々と会話が終わらない、国民的RPGゲームによくあるあのパターンなのか?
もしそうならば、ここは受けざるをえない流れに乗ってしまっているという事か……『いいえ』は選択できない? 不可避?
こうなったら、仕方がない!
「わかりました! その話、受けさせていただきます!」
「「「「「「おおおおおおおおお!!!!」」」」」」
場内がどよめく。
「新しい王の誕生だ! シンジ王万歳!」
「「「「「「万歳!!!」」」」」」
そのどよめきは留まることを知らず、それどころか徐々に大きくなっていく。
王、いや、ややこしいが元王様は玉座の前を恭しく退き、オレの乗る軽トラの前に進み出て、玉座の方へ導き始める。
どうしよう、こういったばあい、軽トラから降りて玉座に座ったほうがいいんだろうか?
軽トラのレベルが結構上がっているから、これくらいの距離なら軽トラから離れても大丈夫そうなんだが……でもなあ。はっ! 玉座とはその椅子そのものではない。王様が座っているのが玉座。ということは、軽トラの運転席こそが玉座……?
「ささ、
あ、思考がトリップしていた。
玉座とかそんなことは今はどうでもいい。
とりあえず、この場を修めなければ!
「静まれい!」
元王様の誘導に習い玉座の前まで来たオレは王としての第一声を放つ。
まあ、軽トラを何回も切り返して運転席側の窓をみんなの方に向けたりとか、しゃべる前に運転席側の窓を開けたりとかいろいろマヌケだったんだけど。
ともかく、オレの声を聴いて皆が静まり、あたりは一転、静寂と化す。
「今、この時よりオレは王となった! 王として、最初の勅令を言い渡す!」
元王様をはじめ、その場にいるすべての人が跪いて頭を下げ、オレの言葉を聞く体勢に入る。
「心して聞け!」
皆がさらに頭を下げ神妙にする。
「えーと、今この瞬間をもって王様を辞めます!」
「「「「「「???????????」」」」」」
「で、元王様。また王様やってね! 以上! あとよろしくー!」
「「「「「なんじゃそりゃーーーーーー!!!」」」」」
よし、狙い通りだ。
だって、『異界の地より来たりし者、我が国を救いしとき、その者に全てをゆだねるべし』って言い伝えだったんでしょ?
王様になれなんて言ってないじゃんか。
言い伝え通り、すべてをゆだねられたんだから、オレの裁量で王様を辞めて新しい王様を決めても悪くはないはずだ。
そして、王様でなくなったオレにはもう
「じゃあ、オレは失礼します! 皆さんお幸せに! じゃあねー!」
オレは軽トラを走らせる!
「「「「シンジ殿!(だんなさま)(シンジ~!)(婿殿ー!)、待ってー!!」」」」
セレス様、ノエル様、ミネット、ミシェル辺境伯様がオレを追いかけてくる。うーん、さすがに置いてけぼりをくらわすのは悪いのでいったん軽トラを止めて、皆を乗せてまた走り出す。
「では、失礼致します!」
「ふ、ふふ、ふはーっはっはっは!」
「王?」
「さすがじゃ! 一本食わされたわ! やむを得ん! シンジ前王に託されたのならば仕方がない! 言いつけの通りこの国を治めることを全うしようぞ! 将軍! 大臣たち! シンジ殿に恥じないよう励むように!」
「「「「「「御意!!!!」」」」」
こうして、ここクスバリ王国の王国史には、任期3分という歴代最短の王の名前としてシンジの名が刻まれたのであった……。
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