令成2年。異世界にて。

佐藤真治、獣人の国に行く。

第265話 王都奪還タコヤキパーティー。

 ――コウリ教。


 人族至上主義を掲げ、ここクスバリ王国の国教とまで登りつめた邪なる教え。


 その教団を。


 この国で獣人や亜人、弱者を迫害し、踏みにじり、悲しみの連鎖を生み出した。


 狂気の集団を。



 見事打ち払い、ここ、クスバリ王国王都には十数年ぶりの平穏が訪れた。


 悪の根源、邪なる教団を討ち滅ぼしたのは、異方より現われし者。


 その者、白く大きな聖なる魔道具を用い、この地を平定す。



 この叙事詩は


 永久に語り継がれるであろう。


 人が生きる世であれば、永久とこしえに――。








「婿殿、婿殿を称える叙事詩はこんな感じでどうだろうか?」


「いや、大げさすぎます。叙事詩は却下です。」



「むう、いい出来だと思ったのだが」


「それよりも辺境伯殿。そっちの鉄板が焦げています。早くひっくり返してください。」



「おっ、おう! わかった、よし、これを、こうして、うわっちゃっちゃ! 熱い!」


「もう、おとうさま、そこは、てくびを、こう、くるんと、まわすのです、よ?」




 ここはクスバリ王国の王都。


 王都に街の名前はない。『王都』それこそが名前でもある。


 では、他国の王都とどのように呼び分けるのか?


 それはそれほどの問題には至らない。


 なぜならば、この国、この地域、この大陸、そして、この時代。


 国をまたいでの移動をするものなど滅多にいないのだから。



「はーい! おまたせ~、タコヤキ~3丁あがり~!」


「シンジ殿! もっともっと追加ですわよ!」




 で、その王都にて。


 オレたちは今、『王都奪還タコヤキ無料キャンペーン』を屋台にて行っている。



 何でこうなっているのかって?


 だって、この国には幸せが戻ってきたんだ。


 だったら、お祭りをしなくては!


 お祭りといったら、この国ではタコヤキだ!


 ということで、軽トラのオプション『キッチンカー』を惜しみなく使い、拡張された荷台の空間内で絶賛調理中&ふるまい中なのである。



 え? 説明になってない?


 うん、たしかに、薬物と魔法による洗脳が解けて正気を取り戻した王様から、王城に来てほしいって呼ばれたんだよ。


 だけど、お断りしておいた。


 だって、王都の謁見室って言われたって、オレは軽トラから降りられないんだもん。どうやってそこに入るんだよって感じ。


 だから、代わりにセイブル辺境伯のミシェル様とか、メオン男爵領の領主セレス様とかが行けばいいじゃないって言ったんだけど拒否られた。


 なんでも、王都奪還の立役者であるオレを抜きに王に謁見するなんてとんでもないんだってさ。オレは別にいいのに。


 だったらみんなで焼こうじゃないかという事で、王都の民を巻き込んだタコパに突入したって訳なんだ。

 

 ほら、大行列が出来てるじゃないか。オレは間違っていない。



「シンジ殿ーー! どうか、どうか王の御前までいらしてはくれぬかーー! 何卒ーー! 後生であるからにしてーー!」


 そんなことをしていたら、クスバリ王国大将軍、グレーザー元帥が迎えに来てくれたようだ。


「お願いですーー! 王様が待ってますからーー! 来てくれなくちゃ王様が自分でこっちに来るって言っちゃってるからーー! お願い! 謁見室には魔道具軽トラごと入れるからーー! いちおう国の行事というか、慶事だからなんとか王城で儀式的なことやりたいんだってばーー! だからおねがいーー!」


 うーん、大将軍が必死だな。


 そこまで言われたのでは、やっぱり行かなくてはならないのだろうか。懸念であった軽トラごとの王城入りも大丈夫だって言うし。なにより、大将軍がなんかかわいそうだし。


「わかりましたー! でも、この行列が掃けるまでここを動けませんので、そのあとでー! あ、先にこれ持って行って食べていてください!」 


 オレはたった今焼きあがったタコヤキを10パック程大将軍に手渡す。


 王様と、大将軍と、あとは正気に戻った宰相と、まあ、10パックあれば足りるだろう。


 大将軍は釈然としない顔をしながらもタコヤキを持って王城に帰って行った。


 ごめんよ、後で絶対行くからね。





◇ ◇ ◇ ◇



「この度は、この国を、そして予の心までも救ってくださり、心よりの感謝をささげる」


 あれから数時間経ち、ようやくタコヤキの行列がひと段落したので大将軍の言う通り王城まで来てみた。


 城の入り口とか、謁見室の入り口とか、軽トラが入れるように壁とか扉とか壊しちゃてたんだけれど大丈夫なのかな?




 で、謁見室ってとこに入った途端、王様が軽トラに乗ったままのオレに向かって立ち上がって頭を下げてきた。


 いやいや、王様って軽々しく頭下げちゃまずいでしょ。


 見ると、王様だけじゃなく、大臣とか貴族みたいな人たちまで頭を下げている。そして、さっきオレを呼びに来た大将軍まで。あ、あの時敵として戦った宰相までいるぞ。


「して、褒美と言ってはおこがましいのだが。シンジ殿。聞けばそなたはかのアキン・ドーと同じ世界から来たというではないか。ここは、アキン・ドーの故事に倣い、どうかこの国の王となってはいただけないだろうか!」


 

 


 

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