第237話 決着。


 そうだ、があったのを忘れていた。


 軽トラハンドルのコントローラーを操作して、とあるオプションを発動。


 そのオプションとは――



「ウインチ、射出!」


 この前のレベルアップで新たに得た「ウインチ」だ。



 悪路走行くらいにしか使い道が無いかと思われたこのオプションだが、使い方によっては空飛ぶ敵に対する凶悪な攻撃補助手段となり得ることに気が付いたのだ。


 射出されたウインチのフック部分に風魔法をまとわせ速度を上げる。


 風魔法に覆われたフックはワイバーンに迫り、ワイバーンは先ほどと同じように風魔法を相殺するが、物理のフックの質量までは相殺できない!



「よし!」


 見事、フックはワイバーンに当たり、その首根っこにフックが引っ掛かる!



「巻き上げ!」


 ウインチのロープを高速で巻き上げると、フックの引っ掛かったワイバーンはみるみるうちに地上に引きずり込まれてくる。



「軽トラバッシュ!」



 どぱーん



 殺傷能力を上げた『軽トラバッシュ』にて、ウインチで引っ張られた速度との相乗効果でワイバーンが爆散する。


 血と肉片、内臓などが草原に広範囲に飛び散っていく。

 

 やっべ、この世界に来て最大のグロ案件になってしまった。





「きゃあああああああああ~!」


 その様子を観ていたミネットから悲鳴が上がる。


 ミネットも、いくら商会の仕事で世間の荒波にもまれているとはいえ、まだうら若き女の子なのだ。


 そんな女の子がこんな光景を見せられたらトラウマになってしまうだろう。




「あ、あうあああああああ~!!!!」


 やばい? パニックやトラウマでとどまらず精神をやられてしまったか?



「お、お……にく……」


「?」



「ワイバーンの美味しいお肉が~! プロック肉で食べたい肉が~、バラ肉になってしまった~!」


 そっちかよ!



 どうやらミネットはグロい光景にショックを受けたのではなく、美味しく食するお肉が爆散してしまったことにショックを受けていたようだ。



 嘆いているミネットをこれ以上刺激しないように、残りのワイバーンは殺傷能力を抑え、程よく撥ねた後にゆっくりと轢き、みごとブロック肉を手に入れることに成功した。兵士の皆さん、せっかく戦いに来たのに解体ばかりさせちゃってごめんなさいね。


「ぐぬう……! 虎の子のワイバーンがこうもあっさり……。はっ! 何をしている! お前ら! あの魔道具軽トラを破壊しろ!」



 王国宰相、ヤーコブ・ハーネイがそう叫ぶと、彼の周りを固めていた教会の息のかかった騎士や兵士たちは、いかにも洗脳されている濁ったうつろな目をしたまま軽トラに向かって無秩序に群がってきた。


 




 どぱーん どぱーん



 群がる敵兵を『軽トラパリィ』で撥ね飛ばしていく。


 およそ2.000人に及ぶ敵兵を撥ね飛ばし、その後ろから羊たちが睡眠魔法をかけ、そのあとから辺境伯領や王都正規軍の兵士たちが後ろ手に縛って身柄を拘束していく。




 勝負は決した。








 次々と周りの兵が倒されていく中、敵の大将であるヤーコブ・ハーネイ宰相は口を開けた驚愕の表情でその場に立ち尽くしていた。


「馬鹿な……。栄光あるコウリ教の祝福洗脳を受けた者たちがこれほどまでにあっさりと……。あの方はおっしゃったではないか……。真の人族の神、真神まじん様のご威光の前に跪かない者などいないと……。こんな、こんな……」


「宰相、お祈りは済んだか?」



 呆然とするハーネイのそばに馬を寄せてきたグレーザー大将軍が語り掛ける。


「で、おぬしはどっちなんだ? 本物信徒か? それとも偽物洗脳されたか?」


 グレーザーからの問いかけに、何のことだかわからないといった表情を浮かべるハーネイ。




『本物? 偽物? こいつは何を言っているのだ? 我の信仰は確かに我のもの。この国をより良くするためには真神まじん様の教えが……、ん? 国の為? 国の為に真神様の教えを? ならば、なぜその教えに従っているのに国は、王都は騒乱と化した? なぜに? なにゆえに? 我は……我は! ああ!』



 ハーネイの思考はそこで途切れた。



 グレーザーが、肩に掲げるその偃月等を一振り――はせずに、シリアスな空気を読めない軽トラがその場に乱入して撥ね飛ばしたからだ。


「よっし! これで全員撥ね飛ばしたな!」


「あの……、えっと、もうすこしでこいつが洗脳されたかどうなのか独白するところだったのだが……」



「え?」


「……そうか! 異方の魔道具使いよ。そなたは彼奴宰相の名誉を救ったのだな。国の重鎮たる彼奴が人心を惑わす宗教などに操られたのではなく、彼奴なりに国を思って行動したのだと。そのように後世に伝わる様にするために、彼奴の独白を止めたのだな……!」



「へ?」


「え?」



「……」


「……」



「ヴェエエエエエエ!」


「あ、ひつじさんお願いします」



「メエエエエエ!」



 微妙に会話がかみ合わない空気のまま、ハーネイ宰相はひつじの睡眠魔法でダメ押しの睡眠に陥り、辺境柏領の兵士に問答無用で拘束されて運ばれていったのであった……。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 王都コウリ教大聖堂の奥まった部屋。この部屋には、頭部から禍々しい角を生やし、きらびやかな装飾の入った衣服と鎧をまとった異形の人影が二つ蠢いていた。


「ふ、奴は失敗したか。魔の笛とワイバーンまで与えたのだがな。所詮は操った駒にすぎぬか。」


「この国からはもっと負の感情魔のリソースを絞りとる目論見だったのだがな。まあ仕方ない。次の畑を探すとしよう。」




 この会話を最後に教会内からは人の気配は消え、どれほど捜索しても聖騎士団騎士団長のストライム・ドゥーガルと、コウリ教枢機卿のマルティム・ ガロワの姿は発見されることは無かった……。

 




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