第235話 一騎打ち。


 グレーザー大将軍から、一騎打ちのお相手に指名を受けた。


 どうやら、軽トラに乗ったまま戦ってもいいらしい。



「魔道具使い、用意はいいか!」


 大将軍様からお声がかかる。


 

 用意はいいかと問われても、オレは軽トラの運転席に座っているだけで、すでに用意はできていると言えば出来ているのだが。


 っていうか、ほんとにオレが一騎打ちするのか? 軽トラで? 


 向こうはなんかでっかい薙刀みたいなもの担いで関羽みたいに見えるんですけど!



 そんな感じでひたすら戸惑っていたら、大将軍様がこちらに何やら語りかけ始めた。


「異方の地より来たりし魔道具使い殿よ。儂らが国の醜態をお見せすることになり誠にお恥ずかしい限り。国を貶める腐りし者共は一掃するが最善と思いながらも、この国を守る身分の者として、王に弓引く形を取ることは許されなんだ。」


 オレにだけ聞こえるような小声で語りかけてくる。おそらく、他の者には聞かせたくない内容なのだろう。



「儂の敗北は、すなわち腐ったこの国の敗北であり、決してこの国の善良なる民草の敗北にあらず。魔道具使い殿。頼める義理ではないのは重々承知の上でお頼み申す。国の名前やあり方などは儂とともに葬り去って、この国の民の笑顔を取り戻して頂きたい。願わくば、王の御身の無事と、その正気をも取り戻して頂きたいが、あまり多くは望むまい。せめてものその対価に、我が首をお納めくだされ。」


 っておい、この人死ぬ気だよ。



「儂が倒れた後は、配下の者には降伏するよう言ってある」

 

 正規軍の大将軍が一人で死ぬことで無駄な人死にを避け、そして正規軍の敗北をもってこの腐った国と戦を終わらせて民を守ろうって腹なのか?

 


 まあ、その件は分かった。だが、




「いや、断る」


「……何故。儂の首では足りぬと申すか」



「いや、そうではない」


「ならば、何故なにゆえ



「断る理由か? それはだな……」


 オレは一呼吸置いたのち、こう叫んだ。



「だって、おたく、そんなひそひそ話したつもりでしょうけど、しっかり手にマイク握ってるからね?! 王都中にさっきのセリフ駄々洩れだからね? この流れであんたの命奪っちゃったらオレ悪者確定でしょ?! そんな役回りはお断りです!」


 大きな口を開けて驚愕するグレーザー大将軍。その顔は恥ずかしさからか、真っ赤になっている。



 そうして、慌てて薙刀? 青龍偃月刀? を構えてオレの方に馬ごと突進してくる。


わしはずかしー! せめて一思いにコロしてくれー!」


 悲痛な叫びとともに突進してくる大将軍に向けて、


  


 どぱーん




 殺傷能力のない『軽トラパリィ』を発動させ、大将軍は戦場の端まで弾き飛ばされていったのであった……。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇








「総大将同士の一騎打ち決着! 魔道具使い殿の勝利である! よって、我ら大将軍麾下の王都軍は辺境伯軍に降伏いたす!」


 王都正規軍の副将軍と思われる人物が高らかに宣言する。オレは総大将だったのか。


 グレーザー大将軍を『軽トラパリィ』で弾き飛ばした後、大将軍麾下の王都の精鋭正規兵3.000は即座に降伏し、軍勢を真ん中から二つに分け王都の門への道を開け渡した。


 さっき撥ね飛ばされた大将軍が、その軍勢の最後尾にこそこそと加わっている。乗っている馬までこそこそしており、その姿がなんというかかわいく見える。いかついおっさんなのに。





 この後は王城に軍勢を進ませ、大将軍の言葉を信じるならば、敵に何かしらされたと思われる王の身柄を王城へと乗り込んで確保したり、非道な振る舞いを行っていた上層部連中の捕縛と言ったところだろうか。


 そんなことを考えていた時、街の門が内側より開けられ、新たな軍勢が姿を現した。



「茶番は終わりましたかの?」


 兵士が担ぐ輿のようなものから降りてきた文官のような恰好をした男がそう話す。


 その声量は大きくはなく、普通の話声のような音量であるのだが、不思議と戦場である平原に響き渡る。


 その男の周囲を固める100名ほどのいでたちは、つい先日討ち果たしたコウリ教聖騎士団のものと似通っており、自ずとその所属勢力は推し量れる。

 

 その数は目測で約2.000程。


 こちらの辺境伯軍3.000に降伏した正規軍3.000を併せた6.000に対しては寡兵であるのだが、なぜかその歩みは自信満々である。まあ、隊列などはお世辞にも整然としているとは言えないが。



「教会の狂信者どもか」


 隊列の後ろで小さくなっていたグレーザーが前に出てくる。さっきまでコソコソしていたのに今はなぜか尊大だ。



「ほうほう、わざと負けて国を売った大将軍殿ではありませぬか。よくもまあ顔を出せたものですな。面の皮が城壁並みに厚いと見える。」


 グレーザーが会話をしている相手は、ミシェル様曰く王国宰相のヤーコブ・ハーネイ。


 その尊大な態度は、いまだ自分たちが有利であると信じて疑わないそれである。



「宰相! もは王都は包囲された! お前らの逃げ場はないぞ! 観念しろ!」


「ほうほう、なぜに我らが逃げねばならんのか。大将軍が敗れて寝返った今となっては、王や民をお守りするのは我らしかいないではないか。いかに我らが寡兵といえど、屈する訳に行きますまい。まあ、屈するのはそちらの方でありましょうが。」



「なにが民を守るだ! 王を守るだ! 王を不思議な術で傀儡にし、民に暴力と圧政を強いたのは貴様ら教会派ではないか!」


「王を傀儡にですと? それは違いますよ、大将軍。王は、目覚められたのです。大いなる、我らが神の教えに!」



 宰相はそう叫ぶと、懐からなにか笛のようなものを取り出し、高らかに吹き鳴らした。



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