第234話 前口上。
「セイブル辺境伯ミシェル殿! はるばる遠いこの王都まで何用で来られた!」
クスバリ王国の大将軍、グレーザーの大声が平原に響き渡る。
それに対し、セイブル辺境伯ミシェルは、
「何用だと? 大将軍ともあろうものが、わざわざ言葉にせねばわからぬか! われらの用件はただ一つ!
軽トラの荷台に乗り、軽トラオプションの『ライブステージ』で発動させたマイクを握ってこう答える。
その声は、地球産の高性能アンプと大型スピーカーにて増幅され、さらには風魔法によって王都中に届けられる。
おそらくは、王都に住むすべての人にこの声は聞こえているだろう。
「グレーザー大将軍よ! 逆に問う! 王の御身をお守りする立場でありながら、今の王国の在り方をどうお思いか!」
続けて発せられるミシェル辺境伯からの問い。
グレーザー大将軍がそれに答えようとしたとき、
「あ、ちょっと待って」
ミシェル辺境伯はその返答をいったん
「いま、
と言って、その言葉と同時にひつじの白3号に乗った虎系の獣人がマイクを持って敵陣に向かい、何事もなかったようにマイクを手渡してこちらに戻ってくる。
なんだこの緊張感のない空気。
魔道具を手にしたグレーザーは、
「あーあー。マイクテス? 本日は晴天なり?」
おい、どこで覚えたそんなこと。
異世界でもマイクテストなんて文化あるのか?
「たぶん~、アキン・ドーの伝記読んでるんだね~。アキン・ドーもセタン王国の~、支配者と戦った時に~、
そこですかさずミネットの解説が入る。なるほどな。
マイクテストを終えたグレーザー大将軍がマイクを持ってこちらに向き直る。
「えー、なんだったっけ。ああ、今の王国の在り方だったな。」
んー、グダグダだな。このやり取り、王都中に聞こえているはずなんだが大丈夫かな?
「――えー、王国のありかたということだが、もちろん憂いておるわ! 王を
おお、この大将軍様。すっかり王都側の腐った奴らのお仲間と思いきや、まともでいらっしゃる。
でも、だったらなぜこうして軍を率いて対立姿勢をとる?
「ならば、その陣を解いて道を開けよ! 大将軍と我ら、望むところは同じなはずだ!」
ミシェル辺境伯の言うとおりだ。ぜひこのまま、無血開城となってほしいところだが。
「それはならん!」
なぜかグレーザー大将軍は、ミシェル辺境伯の申出を拒むのだった。
軍勢を解いて王都への道を開けるようにとの要求をグレーザー大将軍は跳ねのける。
「なぜだ! 大将軍よ! おぬしも王都の佞臣どもを討ちたいのではないのか! それとも、おぬしも佞臣の一翼を担っているとでも申すのか!」
「さにあらず! 儂とて、皆が手を取り笑い合う民の姿を取り戻すことが望み!」
「ならばなぜ!」
「儂は、王と王国を守る大将軍なり! いかに、奸臣どもの不正を正すべく挙兵した
そうか。大将軍は、政治屋ではない。あくまで、外部の軍事力等の有形の力に対抗して国や王を守るのがその役目。
だからこそ、政治には口を出せす忸怩たる思いをしながらこの国の変わりようを見ているしかできなかったということであり、いま、この場においても政治的な立ち位置に関わらず、外部の有形力たる辺境伯の軍勢に対峙しなければならないということだろう。
この王都への道をオレたちに明け渡すことは、それすなわち大将軍と言う任務の放棄。王に忠誠を誓う忠臣として、それは許されない行為なのだろう。
「大将軍のご意向、確かに承った。ならば、我らは押し通るのみ!」
ミシェル辺境伯は右手を高々と上げ、全軍突撃の合図を出そうとする。
「しばし待てい!」
その挙動を、グレーザーの大声が遮る。
「王都をめぐるこの一戦、正々堂々と雌雄を決することは儂の望むところ。だが、王の御周りをおびただしい血で汚すことはならぬ! 儂との一騎打ちにて勝負を決めようぞ!」
なんと、大将軍様は一騎打ちを申し出てきた。三国志かな?
たしかに、いかに王都周りでの軍勢同士の衝突とはいえ目的を同じくする者たちが相争って命を散らすことは避けたいところだ。
だが、一騎打ちって。一騎打ちってことは、互いに武芸に秀でる代表一人ずつによる対決だ。
向こうは大将軍だろうが、こちらはどうするのだろう。
ミシェル様も戦えなくはないだろうが、いかんせん大将軍と戦えるほどの武力はないだろう。だとすれば、狼獣人のウォルフさんあたりかな?
「儂の相手は! そこなの
ってオレかよ!
いやいや、オレに武力なんてないんですけど? 戦闘力5以下のゴミですよ?
というか、そもそも軽トラから離れたら戦う前に死んじゃうんですけどね。
「その魔道具のチカラ、儂の前に示すがよい!」
あれ? そういう言い方をするってことは、オレは軽トラに乗ったまま戦っていいということですよね?
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