第223話 れべらっぷ23→26
「我々は、『後の先』を取りましょう。」
『後の先』とは。
武術などでは、例えば剣術では相手が仕掛けてきた技に対して、その相手の防御の体制が整わない瞬間を狙う、所謂カウンターであり、柔術や相撲でも使われる技である。
また、囲碁や将棋においても相手の攻めを利用して逆に相手を攻めるといった意味でも使われる言葉である。
「相手が小癪な策略を取る理由。それは、逆に、正面から戦えば苦戦するからと自分たちで言っているようなものです。推測ですが、おそらく、上層部の腐りきった王都の体制では経済や治安も悪化していて、最大兵力を動員させることが出来ないんでしょう。だから、男爵領勢と辺境伯軍を合流させないような段取りを組み、辺境伯軍は砦などがある領都から引き離す。つまり相手は寡兵です。」
「なるほど」
「それに、コウリ教の聖騎士団が動く理由。それは、我ら勢力を国の反逆者とするほかに、邪教徒認定する意味もあるのが第一の理由。」
「ふむ」
「第二の理由としては、王都正規軍の数不足、練度不足があげられるでしょう。国の上層部が腐れば軍の上層部もまた腐るもの。そんな状況で真面目に鍛錬を続ける兵士など多くはない。洗脳では狂戦士を生み出すことはできても熟練の兵士を生みだすことは難しい。ならば、洗脳された兵士を督戦するための聖騎士団。そう考えるのが妥当かと。」
「なるほど。つまり、相手の主力は王都の正規兵などではなく、一部狂信者とその取り巻き、洗脳された有象無象という事か」
「そのとおりです。このとおり、相手の攻めの陣容はほぼ予想が出来た。あとは、それに合わせてカウンターを仕掛けるのみ。それが、後の先です。」
「具体的には、どうするのです?」
「まずは、書状への対応ですけど、無視しましょう。」
「それは……こっちの叛意を悟られることになりませぬか?」
「いや、おそらく、奴らはこう考えるでしょう。我らが王都正規軍や教会聖騎士団へのもてなしや共同出兵などで頭が回らなくなり、書状への返答を送る事さえ忘れていると。人というのは、信じたいことを信じるのです。せいぜい、こちらを侮り舐めきってもらって、奴ら自らの驕りで自らの足もとに墓穴を掘ってもらいましょう。」
「つまりは徹底的に油断させるために、あえて返信を行わないということなんですね」
「一言でいえばそうです。相手はろくに警戒も索敵もしないで悠々と進軍してくるでしょう。その鼻っ面を叩きましょう。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
対王都軍の戦略会議からおよそ2週間。
王都の軍勢は、当然のごとくセイブル辺境伯領やメオン男爵領からの返答を待つことなく軍を進め、今はメオンの街に着々と近づいてきていた。
この2週間の間、オレ達が何をしていたのかと言えば。
王都軍の進路上にある村々が略奪されないよう、その備蓄と共に村人たちを避難させて回っていた。
『軽トラキッチンカー』の某ビール工場の食堂の広さを利用して、村人たちを収容しては次々とメオンの街に移送した。
本当はセイブルの街の羊たちのいるダンジョン内にでもかくまおうかとも思ったのだが、村人たちが忽然と姿を消してしまっては敵に疑念を抱かせてしまうと判断し、あえて敵の密偵に見せびらかすようにしてメオンの街に軽トラでの移送を敢行したのだ。
どのみち、オレや軽トラの存在の情報は向こうでも把握しているだろうから、今回のこの動きでは、オレが男爵領に
それでも時間的な余裕は結構あったので、ダンジョンの海フロアなどで軽トラのレベル上げ&食材確保や、羊たちを交えての辺境伯軍との模擬戦、合同訓練をも行っている。
おかげで軽トラのレベルは23→26へとアップ。
王都軍との面倒事が終わったら『時空魔法』をレベルを上げるのもいいかもしれない。
ただ、オレには一つの懸念が。
そう、クウちゃんがこっちの世界に顕現できるようになるという、レベル30が刻々と近づいてきているのだ。
たしかに軽トラの異世界仕様やらなにやらでオレの命の恩人だという事は頭では理解してはいるのだが。
それでもあの色狂いなハーレム推しの駄女神が四六時中側にいてギャーギャー騒ぎ立てるのかと思うと今からため息が出る。
あのアシュトーとかいう上司になんとか直訴してキャンセルかチェンジしてもらえないだろうか?
まあ、クウちゃんの事はさておき、軽トラレベルが25になった時に、また新たな軽トラオプションが生えてきた。
そのオプションとは、なんと『家畜運搬車』である。
もはや、この用途は一つしか思いつかない。そう、ダンジョンの羊たちを移動させる以外に使い道はないじゃないか。
そして、軽トラ荷台での広いスペースへの収納、移動となれば、『キッチンカー』の広い内部客席だけで事足りてしまうので、これは死にスキルかと思いきや。
なんと、『キッチンカー』の某ビアホール仕様は、やはり『ジンギスカン食堂』であるため羊たちには居心地が悪かったらしく、『家畜運搬車』への乗車は羊たちに喜ばれた。
と、いうことで。
オレ達は羊たちと辺境伯軍をメオンの街までスピード移動させ、王都軍の接近を待つことになった。
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