第222話 王都の蠢動。
「婿殿。王都より、こんな書状が届きました」
王都での不穏な動きがあるとの報告がなされてから数日間、オレ達はセイブルの街の隠れ家的な宿屋にて今後の対応に関する話し合いを行っていた。
もちろん、セイブル辺境伯ミシェル様も邸宅から地下の秘密通路を通ってきてこの場に居る。他にはノエル様に暗部のラクアさん、辺境伯軍指揮官のウォルフさん。セレス様にミネットだ。
行動を共にしていた『青銅家族』の面々だが、「辺境伯様と同席など恐れ多い」とのことで、今はセイブルの街のギルドでの依頼を受けながら情報収集に当たっている。
そんななか、ミシェル様が取り出した一通の書状。それは王都からもたらされたもので、その内容は、
『セイブル辺境伯領 領主 ミシェル・セイブル辺境伯殿。近日、我が王都正規軍はコウリ教聖騎士団と共に『境界の森』において、魔物討伐を兼ねた大規模軍事教練を執り行う。貴公も辺境伯軍を従軍させ参加されたし。』
といったもの。
続いてセレスさまより、
「わたくしの領地にも、このような書状が届いています。」
『メオン男爵領 領主 セレスティーヌ・メオン男爵殿。近日、我が王都正規軍はコウリ教聖騎士団と共に『境界の森』において、魔物討伐を兼ねた大規模軍事教練を執り行う。その際に軍の居留地として貴領のメオンの街への滞在する予定であるため、万事準備なされたし。』
と、セレス様。
ちなみに、『境界の森』とはメオンの街から北に約120㎞のところにある、以前オークの集落を潰した森だ。
その森は、険しさと魔物の強さから一定の深さ以上には人が踏み入ることが出来ず、その全体像は杳として知れず。地理的には森の反対側には険しい山脈があり、その山脈の向こう側に何があるのかはいまだにだれも知らない。
そういえば、あの時も王都なりコウリ教なりの策略の影が見え隠れしていたんだっけな。
「婿殿。これらの書状、どう考える?」
と、ミシェル様からの問いかけ。なぜオレに聞く?
確かにオレはこの中では最年長のおっさんだし、軽トラというこの世界では規格外な魔道具を持つものだけれど、ついこの間までサラリーマンだった平民だ。
高度な軍事的判断なんて求められても困るのだが。
だが、そんなオレの思いとは裏腹に皆期待してオレの顔を見つめてくる。
えーい、こうなったら現代日本の歴史とか国際情勢とか、戦記物の小説とかラノベとかラノベとか、そんな知識しかないが意見を言わせてもらうぞ。
「まあ、間違いなく何かは企んでいるな。文面通りではないだろう」
セイブル辺境伯領とメオン男爵領宛に送られた2通の書状。それらについての意見を求められたオレは、求められるがまま自分の考えを述べる。
「おそらく、この文面通りにこちらが行動したとして、メオン男爵領は兵士の滞在という名目でメオンの街に侵入され、そのまま何かしらの難癖をつけられて占領されるだろう。」
「わたくしもそう思いますわ」
セレス様が追従してくれる。よかった、的外れじゃなくて。
「兵士が滞在するとなれば、領主――セレス様の邸宅に向こうの司令官なりを招かないわけにはいかない。おそらくはそのタイミングで、セレス様が謀反を企んでいたとか、獣人の国、セタン王国と内通していただとかの証拠を見つけたとか騒いでそのままなし崩しに占領、領内の獣人たちは皆殺されるか奴隷にされるだろう。」
「許せない~!」
そしてミネットが怒る。まあ、当然だ。
「で、その時すでに軍勢を率いて出発しているはずのセイブル辺境伯軍は、領地から引き離されて地理的有利のない状況で、メオン男爵領と共謀の証拠が見つかったとかで各個撃破される。セイブル辺境伯軍が自領の砦にこもればその撃破は困難だが、この方法なら比較的楽に辺境伯軍を葬ることが出来るという算段だろう。」
「なるほど。その見解には自分も同意する。そうして、奴らにとって目障りなわれらを一気に葬ってしまう算段か。」
「ええ、そうでもなければ事前に書状など出さないでしょう。そうして、メオン男爵領とセイブル辺境伯内を占領し、獣人たちを虐殺したのち、奴らは少数の獣人を人質として捕らえ、その足で隣国、セタン王国への宣戦布告を行う。もちろん、言い分としては、『セタン王国は自国の辺境伯領らと共謀して、『クスバリ王国』への侵略を企てていた』とかそういう事をでっちあげて大義名分にするだろう。そこまでがセットになっているんじゃないかな」
「むう、こうかつ、です。わるぢえが、はたらくやつが、いるのですね」
ノエル様も怒る。幼女の怒る表情は可愛いな。思わずなでてしまった。
「で、き奴らの狡猾なこの策略。婿殿はどのように対処すべきと考えるのだ?」
問題はそこだ。
「自分のいた日本という国では、『先んずれば人を制す』ということわざがあります。だが、今の状況は敵に先に動かれてしまっている。」
「むう。ならばどうします?」
「日本には、このような言葉もある。『後の先を取る』と。我々は、後の先を取りに行きましょう」
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