令成2年。異世界にて。

佐藤真治、異世界で邪教と対決する。

第221話 戦乱の予感。

 ※ここから、異世界に軽トラごと転移したおっさん、佐藤真治の登場する時系列での物語となります。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 セイブル辺境伯軍の皆さんとの模擬戦と宴会からしばらくの間、オレ達はセイブルの街とメオンの街を行き来しながらそれぞれの街で屋台を行っていた。


 『時空魔法』で内部のスペースが大幅に広がった軽トラの『キッチンカー』だが、さすがに某ビール園並みの広さを持つ空間に客を招き入れては異世界軽トラの異常性が広く一般市民に知られてしまい、その結果王都の連中の警戒を招くと思われたため、拡張前の通常サイズ、外見上は見た目と変わらないキッチンタイプで営業を行っている。


 まあ、とはいってもキッチン内部はそれなりの人数が動き回れるほどの広さはあって、中ではノエル様やセレス様、ミネットをはじめたぬき獣人のラクアさんたち辺境伯領の暗部の皆様方が交代で手伝ってくれているわけなのだが。


 おかげで調理のスピードは捗り、並んでいるお客様を待たせることなく大量提供が行えている。


 外から見ると、カウンターに立つオレとミネット以外は見えないはずだから、ノエル様が元気に働いている姿を敵に感づかれることはないはずである。







 たこ焼きの売れ行きが鈍くなってくれば鉄板のアタッチメントを変えて今川焼にしたり、お好み焼きにしたり、またお弁当用のサンドイッチやハンバーガーも合わせて販売し、結構な額を稼ぐことが出来た。


 その金額は、なんと純利益で780万円! もちろん、手伝いのラクアさん達やノエル様などにも相場を上回る日当を支払ってのこの収益である。


 ノエル様やセレス様は日当を受け取ることを遠慮していたが、正当な労働対価を支払わないことは正常な商売たり得ないと説得して何とか受け取ってもらった。



 ということで、1年分以上の仕送り金額が手元にある状況が出来てしまった。


 これを一気に日本に送ってしまえば今後妻や子供たちが変に期待をしてしまうと思い、最初の予定どおり日本での時間経過に合わせて一か月に50万円という額で続けていきたいと思う。

 

 この世界に飛ばされてきてから2か月間ほど経過した。日本ではまだ1週間ほどしか経っていない計算になる。次の仕送りまで3週間、こっちの世界では200日以上もある。






 最初は、この10倍の時間の流れの違いをラッキーだと思っていた。単純に仕送り額を稼ぐための時間的スパンも10倍になるからである。


 しかし、クウちゃんやその上司から聞いた話だと、この時間経過のズレは闇の勢力とやらが、魔王みたいな存在をこっちの世界で育てるために操作した結果だというのだ。


 仕送りの金稼ぎの目途が立った今、早いとこ、『時空魔法』のレベルを上げて、時間経過のズレを改善しなくてはなどと考えていたその時、今日は辺境伯の側で仕事をしていたはずのラクアさんが、気配を殺しながらもオレのところに急いでやってきた。

 

 そして告げる。


「王都で不穏な動きあり――」と。









 辺境柏領の暗部筆頭であり、たぬき獣人のラクアさんからの情報はこうだ。




 王都に忍んでいるキツネ獣人の暗部の者から連絡があった。


 なんでも、王都では正規軍の編成が始まったようで騎士団や戦士団、魔法師団への招集がかかったらしい。


 それに合わせ、兵糧や軍需物資、武器防具等の準備等も慌ただしく、流通も大混乱だとか。


 その矛先の向かう先はいまだ不明ではある。




 今現在、オレ達がいるこの『クスバリ王国』は対外的な戦はしておらず、また表立って敵対しているような隣国も存在しない。


 となれば、王都の人族至上主義の連中がその存在を疎ましく思っている獣人の国、『セタン王国』への侵略か。


 はたまた、『セタン王国』への侵攻を命じられていながらその命に従わず、王都に反抗的な態度を見せながらも、卑劣な手段でノエル様という人質をとられ面従腹背していた、ここ、セイブル辺境伯への威圧か制圧をもくろんでいるのか。



 たしか、王都を牛耳る『コウリ教』の教義では同国人同士の命の奪い合いを固く禁じていると言っていたが、奴らは『獣人』を『人』とは定義していない。


 その獣人が治めるセタン王国を侵略するのか、それとも、獣人を保護している辺境伯領を『邪教徒』にでも認定して世の中の浄化だとか言う名目で攻めてくるのか。


 いずれにせよ、地理的にはこちらに向けて軍を動かすことは間違いないであろう。







 ここで、地理的な配置を再確認しておく。



 ここ、『セイブル辺境伯領』は王都の西側、約600㎞のところに位置している。


 セイブル辺境伯領は『クスバリ王国』の西端に位置し、その西側、セイブルの街から約100㎞の距離に、獣人の国『セタン王国』との国境がある。


 このため、王都の軍がセタン王国に向かうのであれ、ここ辺境伯領に向かうのであれ、王都から西側に向けて軍を進めるのは間違いないと思われる。


 そうなると、辺境伯領より東北東約200㎞に位置する、セレス様の領地「メオン男爵領」が、一番早く王都の軍に接敵されることになる。


 王都から見て、辺境伯領は西に約600㎞。メオン男爵領は西南西に約400㎞。


 仮に辺境伯領を攻めるのであれば、王都軍はその背後を取られないためにも、たとえ、メオン男爵領に『軍勢』と呼ばれる戦力がないとしても、先にメオン男爵領を落としにかかるのではないか。


 その場合、先に落とされた男爵領は、対辺境伯領のための王都軍の中間補給基地とされてしまい、軍や兵士たちのモラル次第では略奪の被害などに遭ってしまうだろう。


 いや、獣人をさげすむ王都軍からして、確実に獣人たちは暴虐の限りを尽くされてしまうに違いない。


 男爵領にいる獣人の孤児、ゼスタとヴィスタの兄妹の事が頭に浮かぶ。


 王都の連中は、子供だろうが関係なく、獣人に対して排斥や狼藉を働くことは目に見える。




 そんなことを、断じて許容するわけにはいかない。



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