第206話 新規入場契約。


「こんにちはー! 先日は、本当にありがとうございました!!!」


 陽介君が到着した。妹の美夏さん、彼女の堀北御園さんも陽介君のお礼の言葉に合わせて深々と頭を下げてくる。



「これは、少ないですが捜索の日当とお礼です。本当はもっとお包みしたかったのですが……いろいろとありまして……」


 陽介君はそう言って結構な厚みの『お礼』と書かれた熨斗袋のしぶくろを手渡して来る。




 日当か。たしか、ダンジョン捜索隊の場合の相場は一人1日5万円ほど。


 あの時の場合だと、美剣の存在は一般には明かしてないことになっているから、オレとマナミサンが1日間で計10万円もあれば十分なはずだ。



 なのにこの熨斗袋の厚み。なんとなくだが、50万円ほどは入っていそうだ。


「陽介君? こんなにはいらないよ? 相場の額でも十分すぎるくらいだし。それに、妹さんの入院やら、ホームのダンジョンがあんなことになったりして、色々と物入りなんじゃない? だから、本当に気持ちだけでもありがたいんだけど……」



 と、見栄や遠慮ではなく正直なところを言葉にする。かといって、もらったものを相手につき返すのも失礼になってしまうし、うーん、どうすればいいんだ。


「それで……、実は言いにくいんですが、今日はお礼のほかにも、お願いというか、ご相談もありまして……」



 陽介君をはじめ、3人そろって都合の悪そうな表情になる。何だろうと思ったが、陽介君たちの現状を鑑みると、一瞬でその言いたいことが理解できた。横に立っていたマナミサンもオレの脇腹を小突いてくる。ちょっと、マナミサン、力加減というものをだね……。


「わかりました。自由に潜ってくれて構いませんよ?」


「「「えっ……!」」」



「我が家のダンジョンを拠点にしたいという話ではないのですか? ならば、ご自由に入っていただいて構いませんよ。」


「は……はい! 実はそのことをお願いしたいと思っていました。例の件でホームのダンジョンが無くなるし、色々と物入りだし、正直困ってて……。でも、命を助けていただいたうえに、こんなずうずうしいお願いをするのも気が引けて……。とても言い出しにくかったんですけど、そう言っていただけるなら……。ありがとうございます!」



「ただし、ダンジョン内及び我が家のダンジョンに関することで見聞きしたことは決して他言無用です。この条件を飲んでいただけるのが条件になりますが」


「はい! もちろんです! 誓約書も書かせていただきます!」



「わかりました。では、先ほど頂いたお礼の中から捜索隊お礼の相場の分を除いた額で、入場権利と今年の年間パス分は頂いたという事にして、成果物は全て陽介君たちの自由ということでどうでしょう?」


「は……はい! ありがとうございます!!」



 こうして、我が家のダンジョンに初めて他のパーティーが出入りすることになったのであった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇










陽介君たちが我が家のダンジョンをホームにすることになった。


 懸念となるのは、やはり軽トラと美剣みけの秘密の事だが、まあ、国などにはすでに露見しているわけだし、守秘に関する誓約書も交わしてくれるというので大丈夫だろう。


 それに、既に陽介君たちを救出するときに軽トラと美剣のことは見られているのだ。まあ、陽介君たちはそれどころじゃなかったから、せいぜい軽トラの記憶くらいしか残ってはいないと思うのだが。



「にゃー、わたしはあの人たちの前で戦っても大丈夫なのかニャ?」


「ああ、最初は驚かれるかもしれないが、陽介君たちならきちんと秘密は守ってくれるだろう」


「そうですね」



 で、その陽介君たちと言えば、我が家のダンジョンをホームにするにあたり、ここ丸舘市内に住居を定めるべく賃貸住宅を探しに不動産を回ってくるという。


 実家は晴田市にあるらしいが、さすがに毎日通うのはきついのだろう。丸舘市に比べて晴田市から1時間も近い熊岱市のダンジョンでも、あの社長が経営するアパートを寮として住んでいたみたいだし。



「でも、九嶋さんたちが来るのなら、これまで通りに自由にダンジョンで育めなくなりますね」


「にゃー、美剣は家でも人型になれるにゃよ? あ、でもやっぱりダンジョンの方がいいのにゃ。」


 そうか、そのことを失念していたな。まあ、向こうもカップルがいるのだ。お互い時間や日にちを決めるなどすれば何とかなるだろう。



「でも、妹さんってその時どうしてるんでしょうね……。まさか、兄妹いっしょにとか!」


 おっと、マナミサン。それ以上はストップだ。


 他人の家庭の寝床事情に興味を持つのはやめておきなさい。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇








「とりあえず、契約書作っておくか。たしか専用サイトから様式ダウンロードできたよな?」


「あ、わたしが作っておきますね。えっと、入場権利が30万円、年間使用料が10万円で、取得物の権利は手数料なしの全渡しでいいですね?」



「ああ、それでいこう」


「あと、守秘の誓約書もですね。これは、知りえた事柄のすべてを対象という事で」



「よろしく頼む」



 こうして午前中は陽介君たちが訪れる準備を整えつつ、午後からダンジョンに向かう。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「やっぱりいないな」


「狼さんと同じように、何かのアイテムが必要なんでしょうね」


「にゃー、わたしが、この宝箱を開けられさえすれば大豚野郎なんて倒し放題なのににゃー」



 オレ達は2階層のボス部屋に来て、ボスがリポップしていないことを確認する。

 

 隣の部屋の宝箱に美剣が再度挑むも、自信がないという事で保留にさせた。


「もし1階層下にテレポートさせられても、ダンジョンが『成長』した今ならどうにかなるんじゃないですか?」


「そんな気もしないでもないが、まずは3階層の様子を見てからだな。どんなフロアなのか想像もつかない。」


「にゃー! あたらしい狩場にレッツゴーなのにゃ!」





 オレ達は、3階層へと続く階段を軽トラで降りて行った。


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