第203話 ダンジョン再調査。


「わーい、お出かけニャ」


 ダンジョンの成長を確認した翌日、オレ達は買物に向かうべく車に乗り込んだ。



 向かう先は、市内の100円ショップ各店だ。


 というのも、美剣みけの投擲スキルの弾丸として割り箸を使っていたのだが、もっと殺傷能力のあるものがいいんじゃないかという事で、100円ショップからフォークとナイフを買えるだけ買ってこようというわけだ。



「他になにか手裏剣みたいに投げられるものはないかな?」


編み棒リリアンなんてどうですか?」


「それだと、美剣にセーラー服着せなきゃいけないな」



 などと、益体もない会話を続けながら、車を発車させる。


 この車は、マナミサンの軽自動車。


 車内には、オレとマナミサン、そして、美剣みけがいる。




 そう、今日のお出かけにはもう一つの目的がある。


 以前、軽トラが地上に出られると判明した時、軽トラの近くに居れば美剣は人型のままでいられたが、半径5mくらいの範囲から外れると猫の姿に戻っていた。



 今回、新たにオレもマナミサンも、そして美剣も再び異質化と思われる能力の変化があった。


 それらの能力が、はたして軽トラの影響下にあるのか? それともオレたち自身に付与されたものなのかという検証だ。



 その検証の方法として、「軽トラのある場所からなるべく離れてみる」ことが今回のもう一つの目的だ。




 で、車を走らせたわけだが。


「あ、今なんか途切れた」


「私もです」


「にゃー」


 なんというか、自宅からある程度距離が離れたところで、何か繋がっていたものが途切れたような感覚がした。


 それまでダンジョンの外でも使えていた『治癒』の魔法も、その何かが途切れた後は使えるイメージが湧いてはこなかったのだ。


 見ると、美剣もネコの姿に戻っている。



「美剣、今から人の姿に変身できそうか?」


「にゃー、無理なのにゃ。」


「ここは……自宅から約500mといったところでしょうか」



 予想は当たった。


 オレ達の能力の変化は、やはり『軽トラの再異質化』による影響であり、その効果範囲は軽トラの周囲約500mということだろう。


「あれ? でも、ダンジョンの中って実際にそこにある空間じゃないんですよね? なんか別の位相の場所にあるらしいとか。それだと、ダンジョンから出た時点で能力が解除されるはずなんですけどね?」


「たしかにオレもそう思うんだが、ダンジョンの不思議は今に始まったことじゃない。そもそも、ダンジョン内までスマホの電波が通じることも説明がつかないんだ。そんなものだと割り切るしかないんだろうな」




「にゃー、今日こそ人の姿でレストランに入れると思ったのにニャ……」


「今度は軽トラで来ような」


 さすがに500mも範囲があれば、駐車場から店内までの距離くらいは余裕だろう。



「はいにゃ! わたしは焼きたて熱々のマンガ肉を所望するにゃ!」



 ということで、次のお出かけの目的地は美剣の希望によって決定されたのであった。


「お前猫舌じゃないのか?」


「にゃー」












◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇










「そうか……これがあったか」


 自宅の車庫にできたダンジョンが成長し、軽トラが更なる【異質化】を遂げ、その影響にオレ達も巻き込まれた形で各個人に新たな能力が増えた。



 これからも心躍るダンジョン探索は続けられるし、能力は増えるわでいいことづくめのように感じていたのだが。





『地下迷宮の広さ、質等の変化が認められた場合には、その権利者はそのことを知りえた日から遅滞なく、その旨を都道府県知事に報告しなければならない。』


『日本国土内における新たな地下迷宮の発現に伴う、その義務、権利、安全その他を包括的に定める法律(通称、ダンジョン法)』の中にこんな条文があるのである。




 つまり、ダンジョンが成長したことを当局に報告しなければならないのである。




 まあ、本来は異質化した軽トラも美剣のことも速やかに報告しなければいけなかったのだが。


 その辺は、『軽トラ』も『美剣(猫)』もダンジョン発生前からの既存の所有動産であり、必ずしもダンジョンの一部またはそれに類するものとして定義するには微妙であることもあって、報告の遅滞に対するペナルティー等は課されなかった。


 隊長ズの口添えのおかげもあるのだろうし、人命救助の功もあったからかもしれないが。


 だが、今回のダンジョンの成長の件は法律の条文そのままドストライクであるので、さすがに酌量の余地は生まれないだろう。



 オレは、スマホを手に取り電話を掛ける。



 その番号は、「ダンジョンホットダイヤル」という名称で、最初にダンジョンが出来た時にもかけた番号だ。


 この番号は、110番や119番と並んで市町村の広報誌などにも必ず載っており、年に一回、地域のごみ収集の予定日や決まり事の案内が配布される時期に同じくダンジョンに関する冊子も配布され、その冊子の表紙にもでかでかと印字されている。


 氏名、住所を告げダンジョンが拡張したらしいと告げると、



「では、明日の午後に調査の者が向かいますので」


 といった返答を持って通話を終える。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 そして翌日、


「先日はお世話になりました。」


 現れたのは、丸舘署のダンジョン課を兼務しているというどこぞの駐在所の駐在さんと、


「「ひさしぶりだな、あんちゃん! いや、そうでもないか! HAHAHA!」」


 まさかの隊長ズだった。



 もちろん、県庁の調査担当官も同行している。というか、本命は調査担当官なのであり、隊長ズ達がそれに同行してきたというのが正しいのか。


「「あんちゃんとこの調査が行われるって聞いてな!! 上司に無理言って出張してきたんだ! あんちゃんたちにはもう一度会いたかったしな!」」



 と、隊長ズの熱烈な? ご挨拶を受けた後には、


「自分も、武田さんとはもっと親しくなりたいと思っていたので、ちょうどよかったです」


 と、駐在さん。



 駐在さんの後ろには、変わらずパトカー仕様の軽トラと、その助手席にのるアニメ顔の女性署員が見えた。こちらに軽く頭を下げてくれる。





 なにやら、波乱の予感がしてきたぞ?


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