第202話 『君主』の悲劇。


 なんと、軽トラの荷台がとんでもなく広くなっていた。


 荷台から降り、外側から見ると普通の軽トラの大きさであるし、幌の覆いを開けていても見た目上は普通に見える。


 荷台の中に乗って初めてその広さがわかるというもの。




 のちの検証で、運転席のHUDヘッドアップディスプレイ画面とハンドルのコントローラで荷台の広さは任意で1倍~100倍にまで自由に設定できることが分かった。


「これなら、軍隊だって運べますね」


「ガンダ〇だって運べるぞ?」


 白い軽トラがますますホワイ〇ベースと化してきたな。



 思えば、元々軽トラの荷台には、容量が無限と思われる『収納』の機能があった。


 収納内部の不思議空間の能力の一部が荷台の上にまで及んだという事だろうか?





 他にも変化しているところはないかいろいろと調べた結果、他に二つの相違点があることが分かった。


 まず一つ目は、これまでの『防御結界』は外側からの攻撃を防ぎ、その分内側から外部への攻撃も通さなかったのだが、今度は内側からの攻撃が有効になっていた。もちろん、外部からの攻撃はこれまで通り防いでくれる。


「これって、無敵だよな」


「はい。美剣みけちゃんが荷台の内側から『投擲』スキルで砲台と化せば、まさに無敵の移動砲台ですね」



 ますますホワイトベー〇になってるじゃねえか!


 これで、大カエルからのレアドロップの、爆発する『金鞠』でも投げたらまさにメガ粒子砲並みだ。割り箸投擲は速射砲かな? 左舷の弾幕をきちんと張らなくては。




 そして、もう一つ。


 思うところがあり、自分でわざと手の甲に切り傷を付け、荷台に乗り込んでみたところ、


「傷が治っていくニャ」


「治癒の効果ですかね?」



 そうだ。なんと、軽トラの荷台や運転席、助手席には乗車している者の傷を治す「ヒーリング」効果もあることが判明したのだ。


 これではまるで、某線画ダンジョンゲームの『君主ロード』レアな専用装備、『聖なる鎧』ではないか。



 正直、無敵になったこの軽トラでヒーリングの出番があるかどうかはわからないのだが、広さを自在に変えれる荷台と、このヒーリング効果を使えば大規模な負傷者を一気に運びながら回復出来てしまうという事だな。



「今度は病院船か。ホワ〇トベースもサイド7出発時は民間の負傷者が多く乗り込んでいたんだよな」


「なんの話か分からないのニャ」


「美剣ちゃん、今度一緒に見ましょうね」





 それにしても。


 それにしてもだ。


 オレにせっかく『君主ロード』が発現したのはいいが。


 軽トラが無敵移動砲台と化し、ダメージを負う危険がほぼなくなり。


 さらに乗車した者に対するヒーリング効果。





 これって、オレの存在自体が「死にスキル」になっちゃってないかーー!?






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇













 軽トラの【再異質化】の検証を終えたオレ達は、今度はダンジョン自体の確認をすることにした。


 昨日の、このダンジョンだけに発生した地震。


 このダンジョンの『成長可能性』は、『D』と他のそれと比べて高い評価だった。


 ということは、ダンジョンが『成長』し、その成長に巻き込まれた軽トラが【再異質化】したという事だろうと推測できる。





 とりあえず、軽トラフロントガラスのHUDヘッドアップディスプレイのカーナビマップを確認。ハンドルのコントローラーで画面を移動したり、拡大させたりして詳細を確認していく。


 マップ上は、2階層までの表示。ここまでは変わりない。だが、このカーナビは新しいフロアに入った時に、そのフロアのマップを自動ダウンロードするような仕様になっているため、3階層の有無は実際に行ってみないとわからないし、2階層から3階層に通じる階段の有無も、2階層に行ってみないと判明しないのだ。



 それでも、もしかしたら自動アップデートがなされていない可能性もあるため、オレ達は「無敵移動砲台」と化した軽トラを駆り、まずは1階層を実際に検証して回る。


「にゃー、結局、魔物を倒すのはよくても、魔石を拾いに降りなきゃいけないのニャ」


「軽トラさん、自動で魔石を集めてくれたりしませんかね?」



 なにやら、美剣みけとマナミサンが現代文明の利器に慣れ切った贅沢な現代人のようなことをおっしゃっておられる。

 

 まったく、人間というものは便利になればなるほど怠惰になっていくものなのだろうか?


 なんて、運転席から動かないお前が言うなって? はいはい。





 結局、1階層も2階層も以前の探索時と構造に変わりはなく、残すは例の、鍵のかかっていた玄室を残すのみとなっていた。





 マップには、玄室内に階段のマークが出現していた。




「階段が出現しているのは確定だろうな。」


「はい、私もそう思いますね」


「にゃー、おなか減ったのニャ」



 美剣よ、『収納』に缶詰いっぱい入っているからな。サ〇ウのご飯もあるぞ! 電子レンジはさすがにないが。



「開けるぞー」


「「はい(にゃ)」」




 鍵のかかっていた扉の向こう、その玄室の床には――


「やっぱりあったな」


「予想通りです」


「おなか減ったのにゃ」



 地下3階層へと通じる階段が新たに現れていたのであった。


「どうします? この先を確認しますか?」


「いや、楽しみは後に取っておこう。砲台の弾割り箸とかも足りなくなってきたし、美剣も腹減ったようだしな。」


「美剣ははんばーぐの気分なのにゃ」



「最近思ったんだが……猫なのに魚より肉の方が好きなんだよな」


「気のせいにゃよ」


「はいはい、オーク肉をミンサーで挽きますからね。牛肉残っていたかしら?」



 オレ達は、この日は一旦探索を取りやめ、体勢を新たに整えた割り箸の補充とかのちに再開することとした。


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