第200話 地震。
我が家の車庫にできたダンジョンの2階層、その最深部。
おそらくはこのフロアで最後となるであろうエリアへと続く扉の鍵を、今開ける。
「開けるぞ」
「「はい(にゃ)」」
カチリ
オレは鍵を開け扉を開ける。
「……やっぱり、行き止まりか」
扉の先には、その扉以外出口のない、行き止まりの玄室。
そこには魔物もポップせず、やたらと静かな空間が広がっていた。
「なんにせよ、これで我が家のダンジョンは踏破したということだな」
「にゃー、なんかさみしいのニャ」
「そうですね。さみしいというか、物足りないというか……」
オレも全く同感だ。
これまでのダンジョン探索は、危険もあったが総じて楽しかった。
この扉の奥には何があるんだろう。
まだ見たことのない魔物はどんな戦い方をして、どんなお宝を落とすのだろうと。
期待と興奮が不安や恐怖を上回る冒険。
美剣とマナミサン。この二人がいたからこそ。
一人では決して味わえない感動や共感。
例えるなら、お気に入りの映画が終わってしまったような寂寥感。
念のためにカーナビのマップも確認する。
未探索の場所も、隠し扉がありそうなエリアも見当たらない。
「今日のところは帰るか」
「はい、踏破のお祝いしましょうね」
「にゃー、オーク肉は飽きたのニャ」
オレ達は、さみしい気持ちを抱えながらもダンジョンの来た道を軽トラに乗って戻っていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
最初の玄室に戻り、軽トラから降りる。
「あ、そういえば、さっきのレベルアップで火魔法が強化されたみたいです」
マナミサンの話によると、どうやらこれまでは敵単体に対して1発という単位でしか撃てなかった魔法が、広範囲の敵複数に対して使えるようになったイメージが湧いてきたとの事。
「そういえば、オレもなんだか新たなイメージがあるような……」
まだ実感としてはイマイチだが、何となく盾に関する技というか、コツのようなものがつかめた感覚がある。
「にゃー、美剣はなにも新技ないニャよ。」
「美剣は、十分強力なスキルをもう持ってるじゃないか」
「それでもなんかさみしいニャ」
「新しい技は、今度周回するときにでも試してみようか」
「はい!」
そうだ。今までは「探索」だったのだが、次からは「周回」になるのだ。
単に言葉が変わっただけとはいえ、改めてさみしさを感じる。
そんなとき、
「地震にゃ!」
突然の揺れ。
ダンジョン内でまさかの地震に遭遇した。
結構強い揺れ。震度にして4から5くらい。1分も揺れただろうか。
いや、実際にはもっと短い時間だったのかもしれない。
その地震が収まった後、
『このダンジョンの成長可能性は割と高くDランクです』
オレはなぜか、ダンジョン調査員の、あの日のその言葉を思い出していた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ダンジョン入り口の玄室で、オレ達は地震に遭った。
「結構デカい地震だったな。とりあえず、家の方が心配だ。様子を見に行こう」
ひとまずオレ達はダンジョン出口の階段を上り、家の中に急いだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……なんとも……なってないな」
「おうちは揺れなかったんでしょうかね?」
玄関の中に入ると、玄関に飾られていた招き猫などの置物も、部屋の中の本棚の中も、食器棚の皿も何もかもが普段通りに並んでいる。
「にゃー、ダンジョンの中だけ揺れたのかニャー?」
あれ?
なんだろう、この違和感は。
今、美剣が首を傾げた。
それと同時にネコミミも横に傾く。
ネコのクセに人間みたいな仕草がうまいなって、さっき思った。
ネコのクセに……いや、ネコっていうか……!
「美剣! お前、人型のままだぞ!!」
「にゃっ!!!」
「あっ! 言われてみれば!」
オレも驚いたが、美剣も、マナミサンも驚いている。
確かに美剣は軽トラの側にいればダンジョンの外でも人の姿になっていた。
だが、今軽トラはダンジョンの中にあるのだ!
そんな馬鹿な、と。
なにが起きているんだと考えた―――
その時、強烈な頭痛と眩暈がオレを襲った!
「くっ! なんだいきなり!」
オレはたまらず頭を抱えてその場にしゃがみ込む。
見ると、マナミサンも、人型のままの美剣も同様に頭を押さえている。
「これは……同じニャ」
「なに!?」
「ご主人! あの時と同じニャ! わたしがネコから人の姿になった時! あの時も、けいとらの中にいたときに突然揺れて、気が付いて少ししたら頭が痛くなって、人の姿になってたのニャ!」
ということは……
さらなる異質化!?
そういえば、あの時美剣は言っていた。
『なんか、
と。
で、あるならば。
わかる、分かる、解る。
たった今、自分の身体に起きた変化がわかる!
「美剣、まだ頭は痛いか?」
「にゃー、まだ少し痛いのニャ」
「よし、そのままじっとしてろ」
「にゃ?」
「『
「「おおおおおおおおおおお!」」
オレに、治癒魔法が生えてきた!
「先輩? 私もわかりました。私たち、【異質化】したんですね?」
「ああ、そうなんだろう。真奈美はなんか変化はあるか?」
「そうですね、こんなことが出来るようになりました」
マナミサンは左手に持っていた刀を鞘から抜くと、右手だけで柄を持ったままこう叫んだ。
「『
マナミサンの持つ刀の刀身から、一瞬にして焔が立ち上ったのだ!
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