第198話 試食。
オレが以前ダンジョン内に植えたプランターのプチトマト。
ふとその存在を思い出して見てみると。そこにはたわわに実ったたくさんのプチトマトの実。
「で、食べても問題ないのかな?」
「大丈夫だと思いますよ? ネットでは、ダンジョン内で栽培に成功したほうれん草を食べてパワーアップした人とかいましたから」
アメリカの水兵さんのアニメかな?
まあ、ダンジョンは脳内イメージとか潜在意識とかが思わぬ形で具現化するみたいだし、そういう事もありなのだろう。
なら、トマトはどんな効果をもたらすのか?
「トマトの印象は……体に良い?」
「ヨーロッパには『トマトが赤くなると医者が青くなる』ってことわざ? もありますよね」
「にゃー、普通のネコはトマト食べないのかにゃー?」
つまりは、健康になるってことでいいのだろうか。
とりあえず、植えた者の責任として、オレが一番手で試食してみるか。
もし毒があったとしても解毒ポーションもあるし大丈夫だろう。
「どれ。では、食べてみるぞ?」
オレはたわわに実った実の中からほどよい一個を選んでもぎ取り、ヘタを取って口に運ぶ。
その実を咀嚼すると、中からは濃厚なトマトの果汁が口腔内に飛び散り、口の中を満たしていく!
「あンまぁぁぁぁぁぁあああああああああーーーーーーい!!」
なんという美味! これはもはや野菜ではない。糖度の高い果実よりも濃厚な甘さが舌の味蕾を刺激する!
砂糖とはまた違う、果実特有のさわやかな甘さ! 喉を動かさなくても自然に食道内に流れ込んでいくその果汁!
「はあ……。何と表現すればいいのか……。甘くてさわやかでうまいとしか言いようがない……」
オレの反応を見て、マナミサンも美剣もプチトマトをもぎ取って口に運び、そのうまさに悶絶している。
「これは! メロンよりも甘くてイチゴよりもさわやかです!」
「にゃー! おかわりにゃ! 肉でも魚でもお菓子でもないのに美味いのにゃーーー!!」
そして、2個目、3個目を食べたオレ達だが、ふとその脳内に危険を知らせる直感が走る。
「なんだ……! なぜかはわからないが、今日はこれ以上食べたらダメな気がする!」
「そうですね。なんというか、体内のキャパがあふれそうな感じがします」
「にゃー、とっても身体が軽いのにゃー! 通常の3倍速く動けるかもにゃー!」
美剣の言葉で気づく。自分の身体が力に満ち溢れ、脳が全能感に浸っていることに。
これは……とんでもない合法ドーピングアイテムなのではないだろうか……?
ダンジョン内で栽培? に成功したプチトマトを食べたら、とても甘露だったうえに、なんと体中からチカラがわいてきた。
今なら、空も飛べそうな気がする!
「よし! この勢いでダンジョン攻略だ!」
「「はい(にゃ)!!」」
そしてオレ達は走り出し、数十秒後に軽トラを忘れていたことに気付いて戻り、気を取り直して軽トラに乗りこむ。
よし、まずはあのデカい奴で腕試しだ!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「これほどとは……」
1階層のボス、大きなホネを掲げるとポップする大きな狼と取り巻きのコボルドたち。
もとより苦戦する相手ではないが、それほど楽勝とも言えなかった相手に対し、まさに鎧袖一触。
まずは試しにと一人で吶喊してみたオレは、盾を数回振り回したくらいの感覚で敵を全滅させていた。
敵の動きが遅い。
ひと当てした時の感覚が軽い。
なにより、イメージに対する体の動きにタイムラグがない。
感覚も、身体操作も、最適化されているとはまさにこのことだろうか。
続いてポップさせた敵に向かったマナミサンも
「これは……すさまじいですね」
「にゃー、キャット空中3回転にゃー!」
美剣よ、お前のそのネタはどこから仕入れた?
「どうする? ここでレベリングするか?」
「いや、せっかくですから、未踏破のところをマッピングしちゃいませんか?」
「今宵の爪は血を欲しておるのにゃー」
だから美剣よ、お前のキャラが不安定だぞ?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
地下2階層に到着。
このフロアに出る齧歯バニーや大カエル、オークどもを倒しながら探索を続けていく。
「にゃー、このボールは便利にゃけど、あっけなさすぎてからだが
大カエルのレアドロップの『
そのうち、野球の硬球みたいなものを美剣が『投擲』スキルで敵のただなかに放り込むと、爆発を起こして敵の団体が全滅した。
「それに、ボールで倒すとレアドロップは出ませんね。これは、今の私達なら使わず売った方が正解でしょうね」
なぜか、このボールの爆発で敵を倒すと、いくら美剣が倒してもレアドロップは出てこなかった。
オレもラグビーボールの形をした毬を蹴り込んで試してみたが、結果は同じく通常の魔石のみ。
ちなみに、ボールを蹴った時に、あたらしい『蹴術』とかいうスキルは……生えてこなかった。いいよ、どうせオレなんて……。
オレの悲嘆をよそに、マナミサンの『剣舞』や美剣の『必殺』『投擲』は次々と敵を倒していくのであった。
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