第197話 プチトマト。
個人でダンジョンを買うために必要なポイント数には、そのダンジョンの階層数やら脅威度やらが関わってくるらしい。
今回オークションに出される熊岱市のダンジョンの場合、全5階層と言われているので、5+4+3+2+1で最低でも15ポイント必要。
それに【脅威度】の値が乗算され、例えば脅威度最低のGランクなら×1、Fランクなら×2となる。熊岱市のダンジョンは脅威度が『E』だったので、15×3で45ポイントあれば購入資格があるという事になるらしい。
オレもマナミサンも53ポイントだから、これに合致するわけだ。
「なんか色々複雑だったけど、内訳とかが分かってスッキリしたな」
「はい。それにしても、わたしたちもそれなりに勉強したつもりでしたが、知らないことって多いんですね」
「にゃー? 難しい話は終わったかにゃ?」
「知らないことといえば、ちょっと違うが不思議なこともたくさんあるしな」
そうなのだ。
異質化した軽トラや美剣の存在を知った警察や自衛隊、それに支援センターの対応。
感謝状とかその他の諸々。しかし、それ以外の干渉は皆無。
警察庁長官やら、陸上総隊司令官といった組織のトップからの書状(まあ、書状に名前を付けただけなのかもしれないが)ならばなおさらなのだが、
これらが、異様に早すぎる。
まるで、こうした不可思議なことに対して何かの申し合わせでもあったかのように、どの組織も似たような対応を迅速に行ってきているのだ。
それに、気になる文言。
それは、『異世界』という言葉。
あれは、陽介君たちの救出が終わった後に隊長ズから聞いた話。
『国全体、いや、世界中に於いて、ダンジョンや異世界に関わりのあると思われる事案については、その当事者は極力自由意志が尊重されることになっている』
そうだ、あのとき確かに隊長ズは『ダンジョン』という言葉と同列に『異世界』という言葉を使っていた。
それに――思い出した。
どこかでそのワードを聞いたと思っていたのだが、以前駐在さんが我が家に来た時に、個人的な質問として『異世界とのつながりみたいなものを感じたことはないか』と言っていたではないか。
そのとき軽トラパトカーの助手席にいた女性交通指導隊員が、地球人離れした顔立ちだったのを思い出す。
もしかして、あの娘は本当に異世界から来たのではなかろうか。
そして、『ダンジョン』と『異世界』には何らかのつながりがあるのでは……
「にゃー、ご主人。顔が怖いし眉間にしわが寄ってるニャよ? 難しい事ばかり考えてないで、そろそろご飯にするニャよ。美剣は寝すぎてお腹がすいたニャ」
「はいはい」
「お手伝いしますね」
今日の食事当番であるオレは迷宮に入り込みそうな思考を中断し、夕食を作るべく台所に行って野菜を刻みはじめるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さーて、まずは我が家のダンジョンをコンプリートしなくちゃな」
陽介君たちを無事救出し、1日の休みを挟んだオレ達は、再び車庫ダンジョンの最初の玄室に来ていた。
熊岱市のダンジョンを買わないかという話には、正直興味が無いわけではない。
だが、仮に買うとしても、まずは自分のおひざ元のダンジョンをクリアもせずにあちこち手を伸ばすのはどうかと思うのだ。
それに、我が家のダンジョンは地下2階層までしかないらしい。
以前、テレポーターで飛ばされた時に、すでに2階層の半分近くを
まずはここをクリアしてからその後の事を考えよう。
「そうですね。あのダンジョンを買うにしても、軍資金が足りませんしね」
「にゃー、とっととここをやっつけて、あちこち出かけておいしいものを食べるのにゃー!」
おお、美剣がいつのまにか食いしん坊キャラになっているぞ。
そういえば、熊岱市の帰りに寄った地元名物の老舗菓子屋のあんこ餅を気に入っていたな。ダンジョンまんじゅうといい、美剣はあんこが好きなのかもしれん。
あ、そうだ。
食べ物で思い出した。
この前、この玄室の片隅にプランターでプチトマトを植えていたのだ。
たしか、ダンジョン内で酸素が足りなくなったらどうしようとか思い、光合成ですこしでも酸素の足しになればとか思って植えたんだったか。
だが、テレポーターで飛ばされたり、姉たちが来たり、陽介君たちの救出に行ったりなどしてすっかり忘れていて、植えてから肥料どころか水も上げていない。
そもそも、オレに植物を育てるという技能は最初からついていないのだ。だったらなぜ植えたというツッコミは黙殺しよう。
で、すっかり枯れているだろうと思って玄室の隅にあるプランターの方を見ると、
「たわわだな」
「たくさん実ってますね」
「にゃー、パンとはんばーぐとちーずがあればいいのににゃ」
そこには、たくさんの実をつけた、真っ赤なみずみずしいプチトマトが元気に成長していたのだった。
「どうやら適応したみたいですね。ダンジョン内で地上の植物を植えても、ほとんどはダメになっちゃうみたいですけど」
「そうなのか?」
「はい、ネットで調べました。」
どうやら、ダンジョン内で植物を育てようとした人はほかにもいたらしい。
ダンジョン内では、自生している植物が不治の病を治す薬になったりしている。
そんな不思議効果を狙って植えたのかどうかまでは知らないが、どうやらその場合の成功率はとても低いようである。
「そうか、なら、運がよかったんだな。美剣のおかげかもな」
「にゃー、チュー〇味かにゃあ?」
いやいや、さすがにそこまで都合よくはないだろう。
「で、食べても問題ないのかな?」
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