第185話 現行犯逮捕。
「よし! 追いついた!」
一時停止標識を無視して高速で走るスポーツカーを追尾していたオレ達は、なぜか軽トラのオートマシフトレバーに新たに発生していたボタンを押すことで一気に加速、なんと140㎞/hオーバーのスピードで一気にフェア〇ディに追いついた。
「前の車! 止まりなさい!」
軽トラのパトカーカスタマイズ時に装着された車外マイクで前の暴走車に呼びかける。
ちなみに、車外マイクと無線のマイクは位置が隣り合っていて間違う事も多々あり、県内全域の無線に「止まりなさい!」などと流れることも多い。
まあ、今回は間違うことなく無事に車外マイクだったようだ。
で、呼びかけられたフェア〇ディだが、呼びかけに応じることもなく、更なる加速をしやがった。
畜生、逃げる気だな!
オレはなぜかパワーアップした軽トラをフェア〇ディの後ろにつけ、速度を計測する。
「ルン! そこの速度計のところについている『計測』ボタンを押してくれ!」
「は、はい!」
ルンがそのボタンを押すと、レシートのような紙に現在の速度が印字されて出てくる。その速度は158㎞/h。確実に50㎞/h以上の速度超過なので、これだけでも減点は12点になる。
さらに、免停期間中なので無免許運転となり25点の減点で合計37点となり、免停期間中という事は少なくとも1回は行政処分歴があることになるから、最低でも4年間の免許取り消し処分となるだろう。
あ、一時不停止の2点も合計されて39点か。もう1点以上過去の違反があれば取り消し期間は5年になるな。
4年から5年も車を運転できないとなれば、当然仕事に通ったりするのにも支障が出るだろうし、現在勤めているのであればその職場からも何らかのペナルティーを食らうだろう。その会社によってはクビになってもおかしくはない。
なんて馬鹿な事をしでかすんだろうと思いつつ、コイツを無事取り締まって反省してもらうのがオレ達の仕事だ。なにより、こんな危険な運転をするやつを野放しにしては他のドライバーが迷惑だし危なくて仕方がない。
だが、暴走車の運転手は速度を緩めるどころか追跡を振り切ろうとして逃走を続けている。
まあ、捕まれば免許取り消しが待っているのだ。必死に逃げようとする気持ちもわからないではないのだが、それにしても危険すぎる。
「やばいな、このままじゃ事故ってしまうぞ」
かといって、ここで追跡を断念するわけにもいかない。
とりあえず、相手の興奮が落ち着くことを願い車間距離を開けて様子を見ていくしかないか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
暴走するフェア〇ディの追走を続けているが、相手は止まる気配を見せない。
このままでは、検挙する前に相手が重大な事故を起こす可能性が高くなってきた。
そろそろ限界か? 幸い、車両ナンバーは記録している。現行犯は無理でも、今後の捜査での検挙を考えるべきか?
そんな葛藤を抱いていたその時、
「晴兄ちゃん! このままだとあの人ぶつかって死んじゃう! わたし、なんとかしてみるからもうちょっと近づいて!」
ルンがなにかするようだ。
いったんは開けた車間距離を再び詰める。軽トラもゆうに150㎞/h以上は速度が出ているのだが、そこからでもアクセルを踏み込むと加速はスムーズ。
この不可思議な軽トラのパワーアップは何なんだろうと疑問を持ちながらもこの場で考えていても答えがわかるわけではないと思い直す。
スムーズな加速でフェア〇ディのすぐ後ろに着ける。
すると、ルンは両手を祈るように握り合わせ、前方に熱い視線を送る。
フェア〇ディの運転手がルームミラーをちらっと見て、ルンと目が合う!
「前の
ルンの祝詞のような祈りの言葉が口から流れ、ルンの目から魔力のような光が瞬く。
その光がフェア〇ディのルームミラー越しに相手の目に吸い込まれる!
変化は劇的だった。
フェアレ〇ィは徐々に速度を落とし、左側に寄せて停止する。
徒歩での逃走を警戒してオレと緒方巡査が車両両脇から近づいていくと――
その運転手は、滂沱の涙を流しながら両手を挙げて車から降りてきた。
「
「よし、そうだ。本当に危なかったんだからな。これから、心を入れ替えて再出発できるようになるためにも、あなたを逮捕します。手を出してください。
「
「〇月×日、11時37分、現行犯逮捕します!」
オレはフェア〇ディの運転手に手錠をかけた。
さて、本来ならば手錠をかけた相手をパトカーの後部座席に乗せて本署まで移送するところなのだが、あいにく軽トラパトカーには後部座席がない。
荷台に乗せるのも、もし逃走を図られた場合非常に危険であるので、素直に交通課員の応援をその場で待ち、普通のパトカーの到着を待って交通課員に引き渡した。
「ルン、ありがとうな」
「そうです! ルンちゃんはすごいです! 今日、私たちは一人を逮捕するとともに、一人の命と将来を救ったんです! 私、感動しました!」
「ああ。ルンのおかげだ。」
こんな時は、警察官やっててよかったなって思えるな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます