第174話 模擬戦②


「それでは、始め!」



 軽トラ1台対辺境伯軍100名の模擬戦が始まった。


 辺境伯軍は鶴翼の陣を敷き、軽トラを挟み込むように両翼を広げてくる。




 さて、どうしようか。


 この模擬戦の目的は、ガチな対人戦になると思われる王都軍との戦いに向け、精神操作されているであろう敵軍の兵士を、いかにその命を奪うことなく勝利できるかという戦い方の模索にある。


 幸い、相手は「魔羊の羽衣」を装備しており防御力は折り紙付きだ。それに、多少の怪我ならば軽トラ荷台のヒーリング効果で治療もできる。


 これで、心おきなく戦いに集中することが出来る。


 とりあえず魔法は封印。レベルの高い土魔法では威力がシャレにならないし、レベルの低い火魔法などでもちょっと怖い。


 なので、軽トラの基本技? 「撥ねる」と「轢く」、そして直接攻撃スキルの「軽トラバッシュ」を運用しての戦いとなる。



 それにしても、戦闘に使える直接攻撃スキルがこれしかないことにいまさらながら呆然とする。いかに、これまで魔法頼りだったのかと。



 軽トラの構造上、進行方向となり得ない真横からの攻撃には弱い。


 なので、側面を取られないよう、常に敵とは正面で正対していたい。



 さすがに、人間相手に「轢く」は見た目がえげつないことになりそうなので、鶴翼の片翼に向かって正対し、「撥ねる」で攻撃!




 一人、二人、三人……五人ほど撥ね飛ばしたところで、人海戦術により軽トラの推進力が削られる。


 辺境伯軍は、力の強い熊獣人などを前面に出し、軽トラの速度を殺す作戦に出てきたようだ。



 やはり、魔物相手と違い、知能を持つ人族相手では、こちらの攻撃撥ねるへの対応が違う。


 魔物たちは、その身体能力にモノを言わせて単体で突っ込んでくるだけなのだが、これが知能を持つ人族になると、まるでラグビーのスクラムのように数人が力を合わせ、軽トラの速度を抑えるただその目的のためだけに、突っ込んでくるのではなく抑えにかかってくるのだ。



 次々と組みかかってくる獣人たちに押さえつけられ、持ち上げられて前輪を浮かされる前に急いで後退。


 全力のバック走行で距離を取るも、相手も前進してきており、次の「撥ねる」の発動に思ったような助走距離は得られなさそうだ。


 一回の全力ぶちかましで、たった五人削ったのみ。戦いという目的に向けて人が集まる『軍勢』というものの怖さを改めて思い知る。


 単体なら人に圧勝できるはずの軽トラでも、相手が集団になればここまで力及ばなくなるのか。



 次は、助走距離が少なくても効果を発揮する『軽トラバッシュ』を発動させ、また鶴翼陣の片翼正面から激突。


 スキルの効果で十二人ほど撥ね飛ばしたところで、またもや推進力が削られ速度がゼロに近づく。


 すると、攻撃を加えていないもう片翼の敵陣営が、軽トラの側面に向かって突撃してくる!


 まずい!


 慌てて後退しようとするももう遅い。


 無防備な側面に、足の速い狼や犬系獣人たちによるこん棒アタックを相次いでくらい、模擬戦一戦目は軽トラの負けとなるのであった。


 うーむ。見事に負けてしまった。








 やはり、唯一の攻撃手段とも言える正面からの突進を止められると弱い。そこからバックするにもタイムラグがあるし、多数の軍勢が相手ではその隙に側面を衝かれてしまう。



 直進の推進力を弱めず、移動し続けながら敵を攻撃する方法か……。



 仮に魔法を解禁したとしても、某ファンネルやらビットとかを用いた全方向へのオールレンジ攻撃でもない限りは、いずれは物量で勢いを止められ、側面を衝かれてしまうだろう。軽トラがキュベ〇イかエル〇スにならない限りは厳しい。


 推進力を止めずに攻撃……。攻撃? そうか、今は対人戦で相手の命を取らないためのシミュレーションなんだ。ならば、である必要はないではないか!



 『攻撃』ではない『アタック』。



 言葉遊びのようだが、こう考えた時にオレの脳内にあるひらめきが生まれた。


 そして、そのひらめきと共に、軽トラに新たなスキルが生まれてきたのだ!



 それにしてもこの『軽トラ』。オレの気付きがそのままスキルになるなんて、ある意味最強のサイ〇ミュでも搭載しているのではないだろうか? それともGUNDフォー〇ットかな?


 と、いう事で第二戦目だ!







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 前回と同様、辺境伯軍は鶴翼の陣で軽トラを包囲しにかかってくる。

 

 あ、ちなみに、さっきの模擬戦で軽傷を負った兵士の皆さんは。軽トラの荷台で「ヒーリング」し、全員怪我をする前よりも元気になっている。



 オレは、さっきとは異なり、鶴翼の陣の中央部。例えるならば両翼の中間、双頭の

つなぎ目のとことに向けて軽トラを疾走させる。


 一見、中央突破の良策のようにも思えるが、実はとんでもない愚策でもある。


 この突撃で、一番分厚い陣容の中央部分を抜けなければ、左右の後方に展開した鶴翼の両翼が瞬く間に後ろに食いつき、あっという間に包囲殲滅されてしまう。


 だが、それにもかかわらず中央突破を試みたのは、新たに手に入れたこのスキルがあるからだ。



 それは――。



「軽トラパリィ!!」




 そう、「軽トラバッシュ叩く」では、推進力を打撃力に変えて敵への攻撃を行う。なので、物量で推進力を徐々に相殺され、いずれは推進力を殺されてしまう。


 対して、「軽トラパリィ受け流し」では、相手の力をそのまま利用し、相手を受け流す! これで、軽トラの推進力は削がれることなく移動を続けられるのだ!


 しかも、受け流された相手には直接のダメージを入れるわけでもなく、その多くはバランスを崩し転倒ないし衝撃を受けるため、精神操作を受けた相手を正気に戻すのにも一役買うかもしれない。


 


 この新スキルを使ったところ、


 見事、鶴翼の陣の中央を切り裂いた軽トラは、そのまま二つに分かれた辺境伯軍を各個撃破弾いて転ばせてし、見事勝利を収めたのであった。

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