第173話 模擬戦①
「「「「「「ほえー」」」」」」
メオンの街で一行を加え、大人数となったオレ達は、セイブル辺境伯のおひざ元、セイブルの街の中にあるダンジョンの3層に戻ってきていた。
そこでは、すっかりこのフロアの主となってしまった魔羊達と、セイブル辺境伯の兵士たちが模擬戦を行っていた!
魔羊達は白48黒48に、つじちゃんを入れて97匹。対する辺境伯軍もほぼ同数の100人という陣容だ。
開始の合図とともに、魔羊達が陣形を組み上げる!
「羊毛ファランクスだと!」
説明しよう。
羊毛ファランクスとは、白の羊たちが横一列となり、その羊毛を並べて敵の攻撃を防ぎながら前進し、接敵した際にはその隙間から黒羊たちが角を突き出し、槍衾ならぬ角衾を形成して敵を正面から撃破する陣形である!
正面からでは分が悪いと踏んだ辺境伯の軍は、強固な羊たちの陣形の側面を突くべく部隊を二手に分け、再突入を図る。
羊たちもそれを黙ってみているわけではない。
羊たちのリーダー、つじちゃんの号令により、生き物のごとくその陣形を変えていく。
「今度は方円陣か!」
左右からの挟撃に対し、円形のような陣に組み換え対応する。
円形と化した羊たちの陣形に側面というものは存在せず、対する辺境伯軍は軍を二手に分けてしまたっため、各個撃破される危険性が出てきた。
これを避けようと、辺境伯軍が再び一つ所にまとまろうというところで、また羊たちが陣形を変える。
「鶴翼の陣!」
一つ所、指揮官いる中央地点に終結していく辺境伯軍を、まるで鳥が翼を広げたかのような陣形で包囲していく羊たち。
「そこまで! 勝負あり! この模擬戦、羊たちの勝利である!」
おお、この模擬戦の審判というか見届け人というか、自ら軍勢を率いてダンジョンに足を踏み入れていたセイブル辺境伯ミシェル様の号令の下、模擬戦は終わりを告げる。
「おお、婿殿。来ておられたのですな。」
「
「なに、問題はありません。われらは、これまでもノエルの秘薬を探すという名目でダンジョンに潜っていたことがあるのでな。今回も、その類と思われるようなお触れも出してきた。心配はいらぬ」
「そうでしたか」
「それにしても驚いたぞ、婿殿。
辺境伯の後ろから現れた軍の指揮官の人が、バツが悪そうな顔をして近づいてくる。
おお、この人は狼の獣人かな? それともワンコかな?
「お初にお目にかかります。自分、辺境伯軍指揮官、ウォルフと申します。」
辺境伯軍の指揮官、ウォルフと名乗る人物は、31歳になる狼獣人だった。
「いやー、つじちゃん殿にはしてやられました。しかし、これでわが軍ももっと強くなれます! これからも、模擬戦しかり、合同教練しかり、互いに高め合っていきましょうぞ!」
獣人だからなのか、羊たちに負けたわだかまりはないみたいだ。
みると、獣人を多く含んだ辺境伯軍の皆さんは、羊たちのもとに駆けより、肩を叩いたりして親睦を深め合っている。あれって、言葉とか通じてんのかな……? 戦ったもの同士に通じ合う謎の友情とかいうやつかな……。
ふうむ。これはうかうかしてはいられない。
こうした模擬戦を見せられると、否が応でも王都の連中との軍同士の激突が近いことを思い知らされてしまう。
王都軍。敵とは言え、相手は人間。これまでの魔物との戦いとは全く異なる戦いになるであろう。
それに、クウちゃんの話を信じるならば、相手は闇の勢力に操られている人間。戦う事は不可避となっても、その命を奪う事は忍びない。
そんなことを思うと、自然と言葉が口を突いて出た。
「ミシェル様、ウォルフさん、もしよろしければ、この
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
軽トラ1台 VS 辺境伯軍100名
軽トラの運転手はもちろんオレ。助手席にはいまだ軽トラから離れると苦痛が襲ってくるノエル様が乗車。さらには助手の助手としてノエル様の膝の上にライムという陣容。
人命第一の戦法を確立するための模擬戦であるため、魔法は封印。
対する辺境伯軍は、ウォルフさんを指揮官とした、獣人たちがそのほとんどを占める、膂力や俊敏さ、頑健さを誇る精鋭部隊である。
その装備は、刃物を大量に準備すると王都に目を付けられることから皆がこん棒を所持している。だが、このこん棒はダンジョン内のコボルドからのレアドロップ品であり、通常のこん棒よりも耐久力、打撃力に優れているものだ。
そして、防具は魔羊達の羊毛から作られた、見た目こそ普通の衣服だが魔法防御にも物理防御にも優れた「魔羊の羽衣」であり、これなら軽トラの撥ね飛ばしでも致命傷を負う事はないであろう。
いまいち勝敗のわかりにくい勝負になりそうだったので、「軽トラ」は大型魔獣という設定にして、辺境伯軍がこん棒で10発の打撃を入れられたら辺境伯軍の勝ち。
逆に、辺境伯軍の7割を転倒させたり、または行動不能に準ずる状態に持ち込めば軽トラの勝ちとする独自ルールを定める。
審判及び見届け人はセイブル辺境伯、ミシェル様だ。
「それでは、始め!」
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