第172話 再始動。


 『時空魔法』のレベルを上げて発現させた『キャンピングカー』の室内は、日本で見たいかがわしいビデオの撮影場所のような、妙にこぎれいでおしゃれでとても広いマンションのような空間だった。


 これもクウちゃんの趣味なのか? というか、これって完全にオレの脳内からイメージ抽出しているよな?



 くっ……! すべてはクウちゃんの性癖のせいだと思っていたが、実はオレの内面が反映されていたとは!




 たしかに、あのときビデオで見た通り、広めのベランダもあるじゃないか。


 ここから見える風景はフェイクだとはわかってはいるが、見事な日本の都会の夜の風景じゃないか!


 たしかあのビデオでは、このベランダのへりに手をついたうら若きコスプレイヤーの女性が複数の男たちにゲフンゲフン。



 おっといけない、オレの性癖が駄々洩れするところだった。





 とはいえ、オレの変な記憶の事を除けば、これは立派なマンションだ。


 リビングは広く、部屋数もあるし、キッチン、トイレ、風呂も完備。


 まあ、風呂に関してはあの悪趣味な部屋の物よりは一般体な家庭用になって狭くはなったのだが。



 だが、それでもセヴルたち男性陣がひとつマンションのなかで一緒に過ごせるかというのは話は別なのだが。




 ふと思い、玄関のドアを開けてみる。


 フェイクだと思ったドアが開き、廊下と思しき所に出てみると。



「他の部屋もある……だと?」


 オレは廊下を歩き隣のドアを開けてみる。



 そこには、ビジネスホテルのツインルームのような部屋。


 そして、他のドアも開けてみると、そこも同じようにツインルームの部屋であり、他の階層も含めると全部で50部屋はありそうであった。




「空間、広がりすぎだろ!」


 時空魔法のレベルを3にしただけでここまで広がるのか? 


 まあ、考えてみればレベルを10にすれば、異世界間をも移動できるほどの魔法なのだ。地球規模どころか、宇宙規模、次元規模の魔法なのだ。  


 そう考えれば、むしろこれでも狭すぎるのかもしれない。




 で、この一棟のマンションのような軽トラ荷台の内部空間から外に出るにはどうすれば……おおう、一階の玄関エントランスから出ればいいのか。インターフォンとかも付いていて無駄にセキュリティーが高い。



 内部空間にセレス様やミネットにノエル様、『青銅家族ブロンズ・ファミリア』の面々を呼び寄せて探索をしていると、屋上に男女に分かれた展望大浴場まであった。


 まるで、マンションとホテルのいいとこどりをしたような作りであった。





 やりすぎだろ、クウちゃん……。













◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「だんな、さま。だんなさまの、せかいは、こんなに、きれい、なのですね」


「すごいね~。これって魔法の光~? 夜なのにこんなに明るくなるんだね~」


「ああ! この一つ一つの明かりの奥に民の生活の営みがあるのですね! なんと豊かで広い世界なのでしょう! わたくしも、いつかシンジ様の世界に行ってみたいですわ!」


 ノエル様、ミネット、セレス様が各々感想を述べている。


 今、オレ達は『軽トラキャンピングカー』、いや、『軽トラマンション』の一室、一番大きな部屋のベランダに陣取り、そこから見えるフェイクの夜景、日本の夜の風景を眺めている。



「ほえ~! すんごいねー! ルンはこんな世界に行っちゃったってこと!?」


「……ぐふふ」



青銅家族ブロンズ・ファミリア』の妹、リンスは元気いっぱいだな。それに比べて姉のランス、何を妄想しているのやら見当もつかないな。



「これは……なんと荘厳な……。シンジ殿、このような素晴らしい場所にご招待いただき、感謝にたえませんぞ!」


「ピッカピカでフィーバーだな! シンジさん? 今度女の子ナンパして連れ込んでもいいかい?」


 長兄のセヴルは相変わらずまじめだし、次兄のソヴルは相変わらずチャラい。


 兄妹でここまで性格が違うのも珍しいのだろうか? 


 オレと交換で地球に飛ばされたという末の妹もまた性格はこいつらと違うんだろうな。



 

 皆一様にこの軽トラマンションに感動しているようだが、いつまでもこの場にとどまっているわけにもいくまい。


「じゃあ、移動の問題は解決した所で、オレ達はセイブルの街で屋台をしながらダンジョンを攻略しに行こうと思うのだが、皆さんもそれで大丈夫かな?」


「はい! 後事は執事のバトラーと、衛兵隊長のガエタンに言い含めてますし、王都の動きは冒険者を通じてギルマスが探ってくれていますので! わたくしが同行するのに一切の問題はございません!」


「ボクも~、おじいちゃんも戻ってきたし~、商会は大丈夫~。」



「自分たちは、受けた依頼も完遂しましたし、この地にとどまる理由はないのですが……ただ、ひとつ懸念が……」


「金がないんだよぉ。おれたち。いくらか蓄えはあるんだけどよ、セイブルの街は宿屋も高えし。あっちに行ったらギルドの依頼うけて稼がねえとな」


 セヴルとソヴルがこう話す。なるほど、金の心配か。



「それはダンジョンの素材を売るとか、屋台の手伝いで何とかなるだろ。宿屋だって、この『軽トラマンション』があるからいらないと思うぞ?」


「おお、ありがたい。何から何までお世話になります」


「うち、屋台手伝うよー! 頑張るんだからねー!」


「で、屋台はわたしたちはノーパンで接待すればいいのかしらん?」



 ランスは黙ってなさい!


 

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