第170話 異世界間通信。


 メオンの街でたこ焼き屋台を開いていたところに、『青銅家族ブロンズ・ファミリア』の面々がやってきた。


 なんでも、兄妹全員同じ夢を見てこの場に来るように言われたとか。



『全員揃ったようだな』


 不意に、軽トラのスピーカーから男性の声が鳴り響く。



『シンジよ。これから、今から言う番号に電話を掛けるのだ。080―●◇▽◆ー※〇□×—――』


「ちょっと待って! もっとゆっくり言うか、紙かなんかにメモってくれ!」



 もう、こっちはおっさんなんだから、そんな早口で11桁の番号言われても暗記できないっつうの!



『あ、うん。ごめん。じゃあ、『軽トラ取扱説明書』の空白のところに書いておくからな』


「あっハイ」



 なんか、素の反応で神の威厳もなにもないような口調に戻っちゃったが大丈夫かな? ほかの人達も聞いてるんだけど。



「で、この番号はどこの誰に通じているんですか?」


『まずは掛けて見てくれ。そして、シンジの名前を名乗ってくれ。それで、すべてが繋がるはずだ』



 って、そんな。



 それじゃ、こっちから電話かけておいて、あなたは誰ですかって聞けってことだよな? なんて失礼で非常識なことをオレにさせようというのだ。全く。


 まあ、言われたからには掛けるけど!




 オレは『軽トラ取扱説明書』に書きなぐられた番号に電話する。クウちゃんの上司、字が下手だな。数字なのに字が下手とわかるとは相当だ。



 数回のコール音の後、




『—――――――はい、もしもし』


 先方が電話に出た。



 

 知らない番号からかかってきたからか、少し警戒してる感じがする。



「――もしもし。わたし、佐藤真治と申すものなのですが……」


『――! えっ?! サトウシンジさん? さとうシンジさんってあの、軽トラと一緒に失踪した?!』



 おや、なにやら向こうはこちらの事を知っているようだ。


「――はい、多分そのサトウシンジで合っていると思います。」


『――今、どこにいるんですか?! やっぱり『異世界』なんですか?!』



 おお、異世界のことまでわかっているとは。さて、どこまでこっちの事情を話してもいいものやら。


「――こちらからかけておいて大変失礼なんですが、そちら様はどなた様になりますでしょうか?」


『――あ、申し遅れました! 自分は、晴田県警丸舘署、上中岡駐在所勤務の武藤と申します!』



 なんだと? お巡りさん!? しかも、オレの住んで居た市町村を管轄する署じゃないか! もしや、昨夜ミネットやノエル様と一緒に風呂に入った件がばれたのか?! やばい! オレは不名誉な逮捕をされて、地元紙とローカル局のニュースに晒されてしまうのか?!


『――もしもし? 佐藤さん? もしもーし! 繋がってますか?』


 おっとやばい、不審な態度を見せるべきではないな。



「――はいはい、繋がってますよー」


『――ああ良かった。伺いたいことが沢山あるんです! とりあえず、その場にセヴラルドさんという方はいらっしゃいますか?』





 なんだと? 




 なぜ、日本にいるお巡りさんが、こっちの世界の冒険者の名前を知っているのだ?



「――は、はい! おりますが……、どうしてその名前を?」


『――いるんですね! よかった! 詳しいことは後で説明します! とりあえず、その方と電話を代わってもらってもよろしいでしょうか?!』



 おおう、なにやら興奮されていらっしゃる。セヴルさんと電話を代わる? 


 それはいいのだが、セヴルさん電話の使いかたわかるかな? あ、そうそう、そこをこうして持って、ここに耳を近づけて……

 



 なんてやっていると、電話の向こう側でも何やら人を呼ぶような声がして、若い女性と思われる声が電話から聞こえてきた。




『――セヴルにい? セヴル兄なの?! わたしよ! ルンシールよ!』


「――ルン!! 無事だったか! 良かった! 心配したんだぞ!! ルンは今どこに……」

 


 どうやら、電話口の向こうにいるのは、突然姿を消したと聞いていた、セヴルたち『青銅家族ブロンズ・ファミリア』の末の妹であるらしい。

 







 その後、『青銅家族ブロンズ・ファミリア』の兄妹たちはそれぞれ電話を代わり、かれこれ1時間近くは通話をしている。


 皆、涙を流しながらの笑顔で行方知れずだった妹の無事を喜んでいる。ああ、ソヴル、鼻水をスマホに垂らすな。よし、リンスがしっかり拭いてから電話を代わっているな。



 ところで、ふと思ったが通話料金はかからないんだろうか?


 異世界間の通話ともなれば、地球の国際電話なんかとは比べ物にならないくらい高そうなのだが……。


 というか、たしかこの異世界の軽トラ保護範囲内ではWifiしか繋がってないんじゃなかったっけか? 普通の電話は使えないはずだったのでは?  


 まあ、『神』を語るような存在のやる事だ。何とかなっているのだろう。





 兄妹たちがひとしきり電話を終えた後、改めて向こうの電話の持ち主であるお巡りさんと会話する。


 それによると、ルンシールという名前の兄妹の末っ子は、突然お巡りさんの私用車である軽トラの中に現れたこと、また、それはどうやらオレがこっちの世界に飛ばされたのと同じタイミングだったことなどの事実が明らかになる。


 他には、このお巡りさんはオレの失踪事件の捜査として我が家に訪れ妻と話をしていたこととか、その際、妻はこちらの世界にオレが飛ばされたこととか、電話が通じることなどは秘密にしてくれていたことなど、様々なことを知ることが出来た。


 で、この電話が通じることは、警察の上司には報告するそうだが、マスコミや一般には漏洩させないという事だ。まあ、大騒ぎにならなければそれでいい。


 妻も、いつまでも秘密を守れるタイプじゃないから少しは気楽になるだろう。





 今後も定期的に連絡を取る旨の約束を交わし、異世界間の通話は一旦終了した。



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