第169話 導かれた者たち。


「シンジ~! やっと帰ってきた~! ボク寂しかったんだからね~!」


「シンジ様! わたくしは! このセレスめはシンジ様にお会いしとうございましたわ!」


 いやいや、まだ離れてから10日くらいしか経っていないからね? そこまで熱烈な出迎えにはならなくていいと思うの。



「シンジ様! わたくしにも、『時空の女神様』からの神託がありましたの! シンジ様と愛を育むようにと! さあ、しとねに参りましょう!」


「ボクにも神託来たよ~! ボクも『時空の女神様』に認められたんだよね~、へへっ。あ、ボクはセレス様の後でいいからね~」




 おい、クウちゃん、なにしてけつかんねん! いたいけな異世界の民に神を騙って何を吹き込んでくれてんねん!


「あ……わたし、には、しんたく、きてない、です。ぐすん」



 しかも手落ちがあるんかい! ほらみろ! お前クウちゃんが中途半端に余計なことしたからノエル様が悲しんでしまったじゃないか!


 おっと、全力で脳内ツッコミを入れている場合ではない。


 クウちゃんの上司に頼まれた件があるのだ。先ずはそっちから片づけなければ。




「シンジ様。褥の件は夜まで置いておくとして、時空の女神様の上位存在、『調和の神』様からも神託を受けております。それによると、たこ焼き屋台は明日、朝日が昇ってから行うようにとの仰せでした。」



 おおい!



 『調和の神』って、絶対あのクウちゃんの上司のあの人だよな! あの人も『神』を名乗っちゃってるの?!


 ていうか、確かに高次元の存在だから、オレ達にとってみれば神みたいな存在なんだろうけど、なんか解せないと思うオレは悪くないはずだ。はあ。








◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 







「おはようございます。シンジ様。うふふ。」


「おはよ~? シンジ~。」


「お、おはよう、ござい、ます。」



「ああ、おはよう、セレス様、ミネット、それにノエル様。」


 ここは軽トラの荷台、『キャンピングカー』の室内だ。つまり、あの趣味が悪く無駄に広いお部屋である。

 

 まあるいベッドの上に横たわっているオレ達は、全員裸だ。


 昨夜、女神様から神託を受けたという女性たちの猛烈なアタックを受け、オレはとうとう――、






 4人一緒に風呂に入った。


 うむ、ヘタレと呼んでくれて構わない。


 だが、言わせてもらおう。



 オレにはこれが精一杯だ!



 セレス様はまあいいとしても、ミネットやノエル様なんて何をかいわんやである。


 まあ、みんな一緒にお風呂に入って、ほのぼのさせてもらったし眼福でもあった。それでいいじゃないか。



 ということで、目覚めたオレ達は備え付けのタオルローブを羽織り、『キャンピングカー』の室内で今日もたくさん作る予定のたこ焼きの試作品を皆でいただくのであった。

 





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 






 ペペーポパペポ♪ ペペーポパペポ♪




 オレ達はメオンの街に戻り、クウちゃんの上司である『調和の神』とやら名乗る方の依頼? 神託? に基づいて屋台を開いている。



 たこ焼きはメオンの街でも好評で、開店から長蛇の列は途切れていない。


 それでも、セイブルの街に比べて人口が少ないせいか、用意した1000食が無くなりそうになる事には人の集まりもまばらになってきた。



「よし、ここからは孤児院の子たちの分を焼いていくか」


 孤児院の年長の子供たちは、自発的にこの屋台の手伝いをしてくれていた。



 前にオークヤキニクを振舞った8歳のケモミミ孤児のゼスタや、その妹の6歳になるヴィスタをはじめ、みんながタコの仕込みやらたこ焼きの返し、笹の葉みたいなものへの盛り付け、行列の整理などと健気に働いてくれていたのだ。 



「よーし、休憩だ。みんな、たくさん食べろよ! タコだけじゃなく、ウインナーの入ったパワー焼きもあるぞ!」


 子供たちが殺到してくる。この世界ではたこ焼きは正月などのハレの日にも食べられる、めでたく有名な料理であり、子供たちにも人気は高いのだがやはり中身は魚介類。育ち盛りの子供たちには肉も必要かなと思い、ウインナーも具材にしてみた。


 おっと、ノエル様。ウインナーの製法は内緒にしておいてくれよな?




 子供たちの腹もくちくなったようで、たこ焼きを焼く手を緩める。


「それにしても、神託? どおりにここメオンの街で屋台をやったはいいが、どんな意図があったのやら……」



 そうつぶやいた時、通りを歩いてくる冒険者たちが目に入る。


「シンジ殿、ご無沙汰しておりました」



 そこに現れたのは、冒険者パーティー『青銅家族』ブロンズ・ファミリアの面々。リーダーで長兄のセヴラルドが代表してあいさつをしてくれる。


「おお、みんな元気だったか?」


「はい、お陰様で。ところで、昨日の夜不思議な夢を見まして。なにやら神々しいお声で、『明日、たこ焼きの屋台に兄妹全員で行くように』とのお告げのような夢を兄妹全員が見たのです。で、来てみればシンジ殿がいらっしゃるではありませんか。これはなにかあると思い、お声を掛けさせていただいたのです。」


 ふむ、なるほど。神々しい声とはクウちゃんの上司の事だろう。


 クウちゃんに神々しさはないからな。





 次兄のソヴル、姉のランスに妹のリンス、それぞれすでにたこ焼きをほおばっている。いや、孤児たちには無料で上げたがお前らからは金取るからね?


 特にランス、極太ウインナーとたこ焼き2個を並べてからかぶりつくのはやめなさい。子供が見ているじゃないですか。


 で、これから何が起きるのだろうか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る