第168話 れべらっぷ 18→20


「ちょっとー! 商売ばっかしてないで、早くレベルを上げなさいよー!」


 軽トラのスピーカーから、クウちゃんの声が響き渡ってきた。



「はいはい、明日海フロアでタコ倒しますから、それでいいでしょ」


「むー、シンジが冷たいわー!」



「だって、この前チェンジしたはずじゃねえか」


「アレは無効よ!」




 なんてやり取りを続けていたところ、



「話に割り入ってすまない。」


 スピーカーからは別の声が。




 おや? この声は初めて聞くな。男性っぽい。と言っても、軽トラスピーカーからはクウちゃん以外の声など、無機質な機械音声しか聞いたことはないのだが。



「自分は、時空の女神クウちゃんとやらぬかす奴の上司であり、司令官のアシュトーというものだ。」


「ぐはぁっ!」



 おお、クウちゃんの上司なんていたのか。高次元の存在だというクウちゃんの上司という事は、さらに高位の存在だという事か。


 それにしても、何故クウちゃんはダメージを受けているのだろう?



「実は、シンジ殿にお願いがあるのだ。聞いてもらえるだろうか」


「あっハイ」



「感謝する。お願いというのは、メオンの街に戻り、タコ焼屋台を開いて欲しいのだ。」


「へ?」



 クウちゃんの上司だというから、どんな無理難題を吹っ掛けられるかと思ったが、そんなことでいいのか? 正直意味が解らんが。



「詳しいことは後で説明するが、これはクウちゃんと、自分が行った一連の措置に関する、いわば免罪符的というか、アフターフォローというか。ともかく、シンジ殿には迷惑をかけてしまうが、なんとかお願いしたい」


 ふむ、別にメオンの街に戻るのはやぶさかではない。ミネットやセレス様ともしばらく会っていないしな。



 それにしても、高次元のクウちゃんのさらに上位の存在なのであれば、わざわざお願いなどしなくとも、指先ひとつ動かすだけで目的など達せられるのではないのか?



「自分たちは、もうこれ以上その世界に干渉するリソースはないのだ。シンジ殿がリソースを稼いでくれる働きに頼るしかない。申し訳ないが、よろしく頼む。」



 そうなのか。クウちゃんも同じようなことを言っていたな。


 この人が同じことを言うってことは、クウちゃんの話は眉唾じゃなかったってことか。



「シンジ殿に迷惑をかける分、のちほどこの自称時空の女神様をそちらの世界に使わそう。存分にこき使ってくれて構わない」


「あ、そういうのいいんで」



「……むむむ、そうか。」


「ってちょっとー! 勝手に渡して勝手に断られないでよー!」








◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 クウちゃんの上司とかいう司令官様の依頼に基づき、オレ達はメオンの街に向かっている。



 依頼を受けた翌日は、たこ焼き屋台の仕込みというか、ダンジョンの海フロアでタコを狩り、羊たちの畑フロアで小麦を促進栽培&羊たちの製粉作業で小麦粉を調達した。


 タコ退治の時には、放った雷魔法レベル3が強力で他の魚介系魔物も多く仕留めてしまったほか、張り切った羊たちがミノタウロスやらコカトリスやらを狩りまくってしまったので、また軽トラのレベルが18→20まで上がってしまった。



 これにより、SPは8、8と手に入り16ポイントが追加され、溜まっていた35ポイントと合わせ合計51ポイントとなった。



 『時空魔法』はまだ上げない。いまのところ必要がないからというのもあるが、なんというか、軽トラレベルも時空魔法も順調に上がって行けば、それだけクウちゃんがこっちの世界に顕現するのが早まってしまうという一種の懼れもあったのは内緒だ。


 それに、レベルが20になったことで、新たなオプション、『軽トラ荷台ステージ』が発現した。


 これは、読んで字の通り、軽トラの荷台をステージとして使えるものであり、音響や電飾、ドライアイスのスモークやら花火演出やらスポットライトやらとありとあらゆる設備が揃っており、本格的なコンサートにも耐えうるのではと思われる。



 もしかして、クウちゃんはこの世界に来てアニソンアイドルでもやるつもりなのだろうか?


 これは、断固この世界への顕現を阻止しなければ。



 アキン・ドーの大阪文化に加えて、クウちゃんのアニソン文明まで広めてしまってはこの世界に対して申し訳が立たなくなってしまう。

 

 まあ、別に大阪文化もアニソン文明も悪いというわけではなのだが、物には限度というか、中庸が望ましいというか、ほどほどのものがよいと思うのだ。

 

 この世界はほかの対抗する文化がまだないから、日本のそれは異様な伝播力を持ってしまう。その結果、猫も杓子もたこ焼き大好きになってしまったという事だろう。

 


 何か別の食べ物を布教しようかとも考えてはみたが、たこ焼きのあの売れ行きを経験してしまうと、おいそれと他の食べ物を販売できないという謎の抑止力が働いてしまう。


 はっ! もしかしてアキン・ドーもこんなビッグウェーブに巻き込まれて大阪文化の普及に異様な加速度がかかったのでは……?





 そんな益体もないことを考えているうちに、オレとノエル様、そしてライムはメオンの街に到着した。


 


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