第166話 新たな魔法。
ダンジョンにある海フロア。
軽トラの【搭乗者保護機能】でその海の海水を押しのけ、海底を走っていたオレたちの前に現れた巨大タコ。
そのタコには軽トラの打撃も効かず、軽トラはその長い足と吸盤でからめとられてしまった!
「やばい! 身動きが取れない!」
さっきから前進、後進とギアを入れ替えて離脱しようと試みてはいるのだが、いかんせん車体が浮かされているのか、タイヤのグリップ力もなく空転するばかりである。
「いかん! このタコ足は……!」
あえて口には出さなかったが、うねうねのタコ足はいわば触手。そしてこの軽トラには齢8歳の幼女が乗っている!
そんな展開にするわけにはいかない!
「くっ……、ここはせめて別のお約束の、タコの墨で真っ暗になるほうの展開で……」
ん? まてよ? 真っ暗? ……フロントガラスが真っ暗! これだ!
「ウインドウウォッシャーだ!」
オレは軽トラのフロントガラスのウォッシャー液を噴射させる!
すると、ウォッシャー液の洗剤成分、界面活性剤がタコの吸盤に入り込み吸着を弱くする!
……などと勘違いしたオレを殴ってやりたい。
「吸着力が増強されただと!」
そう、後で調べてみたのだが、吸盤の表面に洗剤を使うと吸着力は弱まるどころか増強されてしまうのだ!
むう、困ったことになったぞ。
どうにかしてこのタコ吸盤ハグアタックから逃れないと。
巨大タコの長い足はその吸盤のチカラも相まって、どんどん軽トラのボディを締め付けてくる。
【搭乗者保護】があるとはいえ、軽トラ自体が破壊されでもしたらそんな機能も働かなくなるだろう。
それはつまり、この異世界では生存できないオレの死を意味する。
「異世界でタコに殺されるなど笑い話にもならねーよ!」
万策尽きたかに思えたその時、ウォッシャー液を噴出させたレバーにまだ左手をかけていることに気が付いた。
無駄だとは思うが……
「ワイパー!」
それはただの悪あがき。
そこに思惑も狙いも何もなく、
たまたま手にしていたワイパーのスイッチを入れただけの事。
すると、ワイパーが力強く動き出し……!
なんと! あれだけぎっちりと締め付けていたタコの足を払ったではないか!
「ワイパーすげえ!」
なんと、ワイパーが動くごとに絡まってきたタコの足をはねのけ、軽トラはタコの足から解放される!
それだけではない。
執拗に足を絡みつけようとしてくるタコであるが、そのことごとくがワイパーに弾かれ、少しづつではあるがタコにもダメージが通っているようである!
よーし、ここから反撃だ!
でも、どうしよう。
現状ではダメージを与えられる手段がない。
助手席のノエル様とライムが不安そうにこっちを見ている!
物理の
魔法か? だが、今
火魔法のレベルを上げるか?
だが、極力
逃げるか?
オレはともかく、ノエル様を危険にさらすわけにはいかないのだが、かといってノエル様のタコ焼きに対する執着も目にしているので、何としてでもこのタコをやっつけてタコ焼きを食べさせてやりたい!
それに、ノエル様とライムの不安そうな目の正体は、身の危険を感じているそれではなく、「タコ焼きが食べられないのでは?」といった方のそれだ!
ここでタコを倒さずに撤退したらノエル様は悲しむだろう。
ノエル様には、今まで苦しんだ分、もっと笑顔になって欲しいのだ!
よし、こうなったら、
オレはスマホを取り出し、軽トラアプリを開く。
火魔法を強化しようかと思ったが、ふと思い直し、地球での『雷』を強くイメージして、新たに『雷魔法』のアイコンを出現させ、そこにポイントを振り分ける。
水生生物は電気に弱いはずだという思い込みが当たっていることを願いながら。
それでも魔法レベル1では不足だろう。最低でも3はほしい。
『雷魔法』0→3にあげ、ポイントを1+2+3の6ポイント消費。残りは12ポイントだ。
本当は、『時空魔法』のためにSPはとっておきたかったのだが、途中で死んでは意味がないし、軽トラの能力を上げることは効率的なレベルアップにもつながるはずだと自分に言い聞かせる。
「ノエル様! アイパッ〇で雷魔法を!」
「はい!」
ノエル様がアイパッ〇を操作し、新たに取得した雷魔法の発動を準備する!
それに合わせ、オレは軽トラのオートマのシフトをニュートラルに入れ、サイドブレーキをしてエンジン回転数を3,000rpmまで上げる!
そういえば、ギアがマニュアルからオートマになってから、魔法発動時のエンジン回転数を上げるのが面倒になったんだよなあ……。
マニュアルに戻せるかな?
結局、後日マニュアルとオートマの切り替えは軽トラアプリで簡単に行えることが判明し、軽トラで轢いたり撥ねたりするときはオートマ、魔法発動時はマニュアルと使い分けしていく事になった。
「いき、ます!」
どがしゃーん
タコに雷魔法が炸裂した!
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