第165話 タコ、出現。
軽トラの進行に合わせて周囲の海水が軽トラを避けるように除けられていく!
かつて海を割ったと言われる旧約聖書のモーゼにあやかり、これから聖書にちなんだ壮大な物語が始まっていくのか?
もしかして、オレが地球に戻った時に紀元前の世界に飛ばされて、聖書に描かれる奇跡を起こすのかもしれない。
とも一瞬思ったが、海を二つに割ったわけではなく、単に軽トラの周りから海水が除けられただけだ。
あとをついてくるヘブライ人も、そのあとを追ってくるギリシア軍も存在しない。
ちなみに、ヘブライ人はついてはこないが羊軍団の一部はついてくる!
みると、つじちゃんと白と黒の各1号が軽トラの後ろにぴったりとくっついてきている。スリップストリームかな?
で、その海水が除けられる範囲は、軽トラを中心にだいたい半径2.5mほど。直径で言うと5mくらいだ。
「ん? けっこう広い範囲開けていくな?」
そういえば、この異世界に来て初めて軽トラから降りて死にかけた時は1mくらい離れればアウトだったはずだ。
この水を除ける範囲が、軽トラの『搭乗者保護』の範囲だとすると、明らかに広がっているという事になる。
ふと思い出し、オレは軽トラの「取り扱い説明書」を助手席のダッシュボードから取り出してみると、
―――――――――――――――――――――――――――――
【運転手保護機能】
当軽トラは、異世界の過酷な環境から地球人を保護するため、
この機能は、軽トラ内部空間のほか、軽トラ周囲の一定の範囲が適用になり、その範囲は軽トラのレベルアップによって拡大されていきます。
この機能の範囲内にいる運転手、および登録を済ませた同乗人は周辺環境からの絶対保護を受け、ほぼ地球(日本:トーキョー)と同じような環境のもと、快適な異世界軽トラライフを送ることが可能です。
―――――――――――――――――――――――――――――
今にして思えば、クウちゃんがその当時書いたと思われる文章がそこに載っている。
この説明によると、この保護機能は軽トラのレベルアップにより範囲が拡大されていくとある。
最初、オレが軽トラから離れても平気だった距離は約1m。そして、今の軽トラのレベルは15。
ということは、レベルが1上がるごとに、保護範囲が10㎝づつ広がっていくと考えるとだいたいの辻褄は合う。
なるほど、これは『保護機能』がいい感じに応用できたということだな!
よし、今から軽トラによる海中散歩の始まりだ!
意気揚々と海中に進んだオレ達は――、いきなりスタックした。
後ろをついてきていた羊たちが次々に軽トラにぶつかってくる。おまえら急停止苦手なのか?
海水を除けたとはいえ、今走っている路面は直前まで海底だったところ。やはりというか、当然ぬかるんでいた。
うーむ、さっきまでは砂浜の延長だったから、海水に濡れた砂がいい感じに固まってて無難に走れていたのだが……。
ぬかるんだ海底の泥は、4WDの軽トラでも満足に走ることはかなわなかった。
「こんな時は、軽トラ魔法の出番だな。おーい、ノエル様ー!」
いまだにタコヤキトリップしているノエル様の肩をゆすってこちらの世界に引き戻す。このやり取り何度目だろう?
「はっ! たこは……タコは、どこ、ですか?」
「タコならこれから獲りに行くところだ。だから、ノエル様はそのアイパッ〇を使って、魔法で路面を均してくれ」
「はい! のえるに、まかせて、ください!」
復活したノエル様が、土魔法5を発動させ、目の前の凸凹を均すとともに、風魔法1、水魔法1で地面の水分を飛ばして走行可能な状態に変えていく。
「よーし、そこで「タコ」で『検索』をかけてくれ。」
「はいっ! ぐふふ、たこ、タコ、蛸、凧ぉーーー!」
ノエル様? ぐふふなんていっちゃいけませんよ?! それになんか別の物も検索しちゃってますからね?
すると、『タコ』を示す赤い光点が軽トラの進行方向の先に現れる。
よし、栄えあるタコ討伐の一匹目はお前だ!
オレは頭の中でタコの倒し方をイメージする。
おそらく、海水から強制的に出された『タコ』は、むき出しの海底では機動力を発揮できないはず。
そこを、地上のスライムと同じ感じで、軽トラで轢き潰せば……
なんて思ってた自分がいかに甘い考えだったのか。
「でかい!」
目の前に現れた『タコ』は、本体の直径部分が約1mほど、足を伸ばせ全長は5mくらいになろうかという巨大さだった。
くっ! 異世界の生態を見誤っていた!
地球のタコと同じ大きさを想像してしまっていたが、ここは異世界。
タコというよりはクラーケンと呼んだ方がふさわしい大きさのタコが軽トラに向かってぬるぬるとにじり寄ってくる!
このサイズだと、轢くのは無理だ。
とりあえず、轢くのは無理なら撥ねてみるか!
ぬちゃっ
だめだ! 軟体生物に打撃は効かない!
べたっ ぴとっ
効かないどころか、その長い足を絡めてきて、軽トラはその吸盤でからめとられてしまったではないか!
やばい、このままでは身動きが取れない!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます