第164話 軽トラ、海を割る。
「ノエル様、のえるさま―――――!!」
タコヤキフリーズしているノエル様の耳元で大声をだし、意識を現世に揺り戻す。
「はっ! わたし、は、なに、を……」
おお、ノエル様が我に返った。
「タコ焼き用のタコを探しますよ。その〇イパッドで『タコ』と入力してください。」
「は、はい……。「た・こ」……タコぉぉぉぉぉ!!!!!?」
「落ち着けノエル様! タコヤキが食いたいんだろぅ! 気をしっかり持て!」
「は……はい! もう、だいじょうぶ、です! わたし、は、タコの、ために、がんばり、ます!」
よしよし。これで大丈夫だろう。
ノエル様が『検索』の対象に『タコ』と打ち込んだところ、さっきの光点の数からは大幅に減ったが、それでも多数の光点が軽トラのフロントガラスのマップ画面上にヒットする。
「タコ、いましたよ! ノエル様」
「おっ、おう、たこぉ……じゅるる」
あらら、また逝ってしまわれた。仕方がない。もうすこしトリップしたままにさせておこう。
さて、ダンジョン内のこの海の中にタコが生息するのは分かった。
問題は、どうやって海中にいるタコを捕獲するかだ。
今、オレが乗っているのは軽トラ。オレは軽トラから離れると死んでしまうから、降りて素潜りなんてことはできない。まあ、オレは泳げないので素潜りだけでも普通に死にそうだが。
軽トラというのは、水陸両用ではない(あたりまえだ)。そう、あくまでも陸上用のジ〇であってズゴッ〇ではないのである(意味不明)。
つまりは、海中の敵には軽トラの『轢く』アタックは通用しないのだ。
うーむと頭を悩ますオレの視界、軽トラのドアミラーに羊の姿が映った。おお、こいつら、またオレの事を追ってきたんだな。いくらテイムの効果とはいえ、こんなになついてくれると情も移ってくる。
「もしかして、お前らがタコを獲って来てくれるのか?」
一斉に頷く羊たち。羊で何とかできるのだろうか?
さっそく、先発部隊の一頭が海に向かって行く。名札には『白28』と書かれている。がんばれ白の28号。
ところで、羊って泳げるんだろうか?
颯爽と海に飛び込んだ白28号は、華麗に泳いだ!
……というか、もふもふの羊毛が撥水して浮いているだけだなアレは。
実際、地球の羊は泳げるようなのだが、異世界の魔羊達はもふもふが極まりすぎて浮くことはできても潜ったりはできないようだ。
すると、今度は
「おお、次は白の14号か!」
もう一匹の羊が羊毛をパージして海に突っ込んでいった!
白14号は海面に浮くこともなく海中に突入する!
……だめか。
白14号は砂浜に戻ってきて肩で息をしている。羊に肩はあるのかという疑問は置いておいて、やはりというか、どうやら息が続かないらしい。
魔物も酸素呼吸必要なのか? という疑問が残るが、もしかしたら空中の魔素を呼吸のような感じて取り込んでいるのかな? 知らんけど。
ということで、羊による海中アタックは今のところ失敗。ちなみに最初に突っ込んだ白28号はいまだ海面上でぷかぷか浮かんでいる。どうやら推進力がないようだ。
あっ! 風が吹いて28号が沖に流されていく! 助けなくていいのかアレ。
これまで勇敢な白の羊たちがアタックしていたわけだが、黒の羊たちはどうしたのだろうかと思って軽トラのバックミラーを見て見ると、
「おおう、これまた大掛かりな……」
なんと、黒の羊たちはその羊毛を使い、一心不乱に網を編んでいた!
いったいその
できた投網に土魔法で作った重りをくくり付け、白羊たちの風魔法のチカラを借りて網を海面に放り投げる!
……これもダメか。
なんと、羊毛で作った網の撥水効果と浮力が強すぎて、いくら重りを重くしても網は海面に浮かんでいるだけになっている!
これでは海中の魚介類を引っ掛けることはできないな。
うーむと悩んでいると、白羊たちが風魔法を操って白28号を救出していた。よかった。無事戻ったか。
うーん、こうなったら。
やはりここは軽トラで何とかするしかないだろう。
軽トラは、当たり前のことだが水陸両用ではないし、いまのところそんなスキルも生えてはいない。
だが、水陸両用ではないとしても、海の底を地面と見做したら?
軽トラは地面のあるところなら走れる。
海中に沈むかもしれないが、軽トラには『搭乗者保護』の機能がある!
なんせ、この機能は『魔素』なんて言う謎物質からもオレを守ってくれているのだ。海水なんて既知の物を防ぐのは容易なのではなかろうか?
中にいるオレ達が窒息することはないと思いたい。
オレは軽トラを砂浜から波打ち際に進ませる。
すると……!
「海が……割れていく!」
なんと、軽トラの進行に合わせて周囲の海水が軽トラを避けるように除けられていくではないか!
オレは、いや、軽トラは異世界のモーゼになってしまったのか?!
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