令成2年。異世界にて。

佐藤真治と軽トラとひつじたち。異世界を席捲す。

第163話 海フロア。

※ここから、異世界に軽トラごと転移したおっさん、佐藤真治の登場する時系列での物語となります。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「「ほえーーーー」」


 オレとノエル様は今、異世界のセイブル辺境伯領にあるダンジョンの地下6階層にいる。




 え? 屋台をやるんじゃなかったのかって?


 屋台はやる! ただ、もっと他の食材を仕入れられないかと思っただけだ!


 で、6階層にきてみたところ、そこは一面が海のフロアであった。



 陸地部分は砂浜や岩場がフロア全体の約3割といったところだろうか。まだ全体を把握はしていないが、見た感じはそんな感じだ。


 軽トラのフロントガラス越しに見る海は、視線の先に水平線。まるで地球の海のようだ。


 だが、ここはダンジョンの中。どこかにフロアの境界線があるのだと思うと、これまた不思議な感覚になってくる。



「これが、うみ、と、いうん、ですね」


「ああ、正確には、ダンジョンの中にある海のようなフロアといったところだけどな」



「おやしき、には、うみ、に、かんする、しょもつは、ほとんど、ありません、でした。うみ、には、どんな、いきものが、いるんですか?」


「たくさんいるぞー。といっても、こっちの世界と地球が同じなのかはわからんけどな。それにここはダンジョンの中だ。そんなに種類はいないかもしれない。」



 5階層は結局コカトリス一種類、4階層はミノタウロス一種類しか生息していなかった。3階層も魔羊だけだったし、この階層も一種類しか生息していない可能性もあるな。



「これまでの流れだと、タコヤキ用のタコとかかなあ」


「タコですか!?」


 おおい、ノエル様! 口調がスムーズになってますよ! そんなにタコヤキがすきなんですか?」



「普段食べているタコは、『リクダコ』といって、正確にはタコではないのです! 本当のタコヤキは、海で取れた本物のタコを使うんです! わたしも1年に1回食べられればいい方で、それはもう、貴重な食材なのです! はっ! とり、みだし、ました。はずか、しい、です。」



 ノエル様、貴重な長台詞&スムーズな口調のギャップ萌えをありがとう。



 それにしても。そうなのか。あの時焼いたタコヤキのタコは本物のタコではなかったのか。


 言われてみれば、茹でてもいないのに真っ赤でやたらと頭部分がつるつるしていて、まるで子供が落書きで描くタコのような感じだったものな。


 異世界なのだからこんなもんかと流していたのだが、やはりあれはタコではなかったのか。食感はほぼタコだったがな。


 あんな生物が陸に存在しているとは異世界おそるべしと、改めて異世界に来ていることを思い出す。だんだん異世界に来てるっていう感覚がマヒしちゃってんだよなー。



 で、タコだ。


 セイブル辺境伯領には海はない。この国、クスバリ王国では王都を挟んだ国の反対側、距離にしておよそ1000㎞ほど離れたところにあるらしい。


 当然のごとく、その距離とこの世界の流通事情では新鮮な魚が市場に流れることはなく、せいぜいが川や湖の淡水魚か、ダンジョン内からの水揚げと、地上の魚介類に似た生物くらいのものだそうだ。


 この辺の土地の者に取っては本物のタコはマジックバックを持った商人がたまに卸しに来るくらいで非常に貴重な食材であるらしいのだ。

 

 このダンジョンだが、ダンジョンの6階層まで足を踏み入れることのできる冒険者パーティーはその数が限られているし、それらは自分たちが得たダンジョンの情報は秘匿するものだから、この階層でタコが獲れるのかどうかはいまだわからないのだが……。


 

 いかん! ノエル様の目がタコヤキになっている!


 これは、タコを捕獲しなくてはならない流れなのだろう。



 そう思ったオレは、軽トラのカーナビスキル、『索敵』を発動させる。


 すると、いるわいるわ。海の中には敵性生物を表す赤の光点がひしめき合っているではないか。



 だが、このままでは敵の魔物は多くともそのうちどれがタコの魔物なのかはわからない。


 いや待てよ? そもそもタコは魔物なのか? 単に普通のタコである可能性も……。いや、それはないか。この魔物ひしめくダンジョンの海の中で、普通の生物が生存しているとは考えにくい。


 よし、ここは新たに手に入れたあのスキルだ!



 軽トラのカーナビスキルから、『検索』を選び、『タコ』と入力。うーん、いちいち手入力しないといけないのが手間だが仕方がないのか。

 

 軽トラカーナビには、コンソールの中央にある液晶タッチパネルで文字を入力することが出来る。


 文字を入力するためには、日本の車のように、危機回避の観点から走行中では画面ロックがかかってしまうため、軽トラを停止させて行う必要があるので、いちいち行動が阻害されてしまうのだ。



 そこで、ノエル様の膝に抱かれているライムと目が合う(本人の感想です)。


 ちなみにノエル様は目がすっかりタコヤキになってしまい再起動には時間がかかりそうだ。


 ライムはまるで何かを訴えるかのような目で(あくまで本人の感想です)オレを見ているではないか。


 これは、なにかオレに訴えたいことがあるのだろうか。


 すると、ライムはシュタッとタッチペンを取り出す!


 あれ、確かそれはノエル様がライムに役割を取られて悲し気な顔をするので封印したはずでは?  



 すると、ライムはその体をうにょんと変形させて液晶パネルではなく、なにやら手元にまるでノートでも持っているような体勢で文字を書く素振りを見せ、それをノエル様に手渡すような仕草をする。


 ライムは何を持っているんだ……ノート? にしてはタッチペンとの整合性が付かない。スマホ? それにしては持っている媒体の大きさのイメージが違うような……! わかった!


「タブレットがあれば、助手席の人がもっと役に立てるという事だな!」

 

 ライムが大きくうなずいた。



 ライムの提案を受け、『お買い物アプリ』でタブレットを購入する! 画面は大きめ、せっかくだから某リンゴのメーカーの物を専用タッチペンと共に購入。代金は屋台で稼いだ金がある!


 手もとに届いたア〇パッドをBluetoothで軽トラカーナビと接続させる。うむ、うまくいった!


 よし、あとはこれをノエル様に使ってもらえば!



「ノエル様、のえるさま―――――!!」


 タコヤキフリーズしているノエル様の耳元で大声をだし、意識を現世に揺り戻す。



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