第160話 発見、救助。


「「全員無事か!!」」


 玄室に入るなり、コウモリ共に襲いかかられている陽介君たちの姿を確認する。



 隊長ズが無事を尋ねる問いかけを放つとともに、オレは軽トラのクラクションを鳴り響かせる!


 ボタボタと地面に落ちるコウモリ共を踏みつぶしながら、隊長ズは陽介君たちのもとに駆けていく。


 美剣みけはレジストしたコウモリ共に割り箸を投擲し、マナミサンは割り箸を美剣に手渡して装填いる。


 オレは、軽トラである程度のコウモリを轢いてから、軽トラを陽介君たちの正面に付け、ヘッドライトでその姿を照らす。





 突然のクラクションの音と、軽トラのヘッドライトに照らされて驚いたような顔をする3人。


 そしてすぐに苦痛の表情に戻る美夏さん。右足のすねから下が変な方向に折れ曲がり、そこから出血しているのが見える。やはり解放骨折か。


 その顔は青白くはなっているが、まだ意識はあるようだ。

 



 救助が来たことをすぐに察した陽介君が叫んだ第一声は、


「妹が! 美夏が大変なんです! 助けてください!」



 隊長ズが駆け寄るのを尻目に、オレは荷台の『収納』からポーション類を取り出したところ、


「「待て! まだポーションは使うな!」」


 隊長ズの叫びに制止させられる。



 隊長ズの説明によると、骨が折れた状態で治療効果の高いポーションをいきなり使うと、その骨が折れたままくっついてしまい、それを完治させるには後からまた骨を折って削って整復するという大手術が必要になってしまうようなのだ。


 かといって、今このダンジョン内で折れた骨を正しい位置に戻そうにも、折れた骨が表皮を突き破っている状態で無理に骨を戻そうとすれば、多量の出血を招いたり、雑菌が入って敗血症の原因となってしまったりする可能性があるとのことだ。


 

 そこで隊長ズが取った方法とは、


「「ペットボトル500㎖の水にポーションを数滴垂らしてよく混ぜろ。混ぜたら傷口に振りかけるんだ!」」


 

 なんと、ポーションを薄めて効果を下げ、表皮のみの止血をまずは行うようだ。


「「毒消しポーションはあるか? それはそのまま全部飲ませてやれ!」」



 そして、毒消しのポーション。これは傷口から入ったかもしれない雑菌対策という事らしい。


「「なにか担架の代わりになるものを! にいちゃん! 軽トラのに毛布か何か入ってないか!」」



 ありゃ、すっかり軽トラの『収納』のことも把握されていらっしゃる。さすがプロの観察眼だ。


 そういえばさっき何も考えずに収納からポーション出しちゃったもんな。オレが原因か。



 そして、骨折部位にコボルドこん棒で作った添え木を縛り付けた美夏さんを無事に軽トラの荷台に乗せた後は、さっきの薄めたポーション水の残りを美夏さんに飲ませている。痛み止めになるようだ。



 オレはすっかり隊長ズの知識と手際に感心してしまっていたが、急いで地上に戻らなければならないことを思い出し、すぐさま運転席に舞い戻った。






 美夏さんを軽トラの荷台に乗せた後、美剣みけが助手席に、マナミサンや隊長ズ、陽介君と堀北さんも荷台に乗り込んだことを確認したオレは軽トラを発進させながら、隊長ズに話しかける。



「隊長さん! 今のうちに救急車を呼んでください! 早い方がいいでしょう!」


「「いや、確かにその通りだが、携帯も無線もここでは使えんぞ?」」



「この軽トラの中なら使えますから!」



 オレの言葉に一瞬怪訝な顔をしたが、不思議現象は今更だと思い直したのか、機動隊の隊長がスマホで通話を始める。


 ああ、これで美剣のことも、軽トラの能力も、すべてをさらけ出してしまった。


 地上に戻ってからどんなことになるのか想像すらしたくない。


 だが、そのおかげで陽介君たちを無事助けられた。




 命。


 何よりも尊重されるべきもの。


 それを助けられたのだから、胸を張るべきだ。仮に、秘密を守ることを優先させていたら、美夏さんの命は救えなかったに違いない。




 軽トラがあったから。


 真っ暗なダークゾーンも難なく進めたし、今こうして美夏さんを運ぶこともできている。



 美剣がいたから。


 真っ暗闇な中でもコウモリを狙撃割り箸でして即座に全滅させることが出来た。もしコウモリに手古摺って到着が遅れていたら美夏さんはもっと重篤な状態に、あるいは命を落としていたかもしれない。



 つまり、


 これは最善の選択であったのだ。


 そう自分に言い聞かせながら、オレたちは無事に地上に戻ってきた。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「本当にありがとうございました。このお礼は落ち着いたら必ずします!」


 陽介君からお礼の言葉をもらう。彼らはこの後、到着した救急車に乗って現地の総合病院に運ばれていった。


 救急隊員曰く、美夏さんは処置が適切だったのですぐに元通り歩けるようになるだろうとの事。


 なにやら陽介君は後でお礼をするようなことを言っていたが、正直お礼の言葉と全員無事という結果だけで報われるのだが。


 探索者用サイトで調べたところによると、ダンジョン内で遭難し捜索を受けた場合、警察や自衛隊など、公的な機関のみが参加した場合は救助費は税金からまかなわれ、負担金はかからない。


 だが、民間の組織なり個人なりが参加した場合、負担金の相場というものがあるらしい。


 日当として、一人当たり約5万円。山岳救助のそれと比べて2~3万円少し高いがそれほどべらぼうに高い水準と言うわけでもない。あとはかかった実費とか。今回の場合は軽トラのガソリン代とポーション類のみだ。あとは割り箸代?



 もちろん、オレは請求する気はないのだが、こういったものは面倒でも最低の水準額くらいはきちんともらっておかないと、助けられたほうも気持ちの区切りとか、申し訳なさとかの気持ちの整理がつかないそうなのでしっかりもらった方がいいらしい。


 まあ、陽介君たちは知らない仲でもないのだから最低額で十分だ。



 お金のことはまあいい。



 問題はこの後だ。







「「さて、無事救助もできたことだし、少し話を聞かせてもらおうか?」」


 隊長ズへの説明が待っている。



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