第159話 捜索⑤



「どうするにゃ?」


 フォーク手裏剣もどきを構える美剣みけが訊いてくる。



 ダークゾーン内、暗闇での狙撃、投擲。


 射撃武器に特化した者が暗闇での戦闘を繰り返すと、レベルアップの恩恵等で『暗視』が生えてくる場合もあるらしいが、隊長ズは拳銃だけを使うというわけではなく、また、暗闇で戦闘するという経験は普段ないのだろう。暗視スキルは持っていないようだ。


 それに対して美剣はネコ特有の、人間の6~8倍の暗視能力という生物本来の能力がある。


 だが、手持ちの弾フォークとかは最大4発。10匹以上はいるコウモリに対しては手数が足りなすぎる。




「ダメ元で、ちょっと試してみるか」


 オレは、軽トラのクラクションを思いっきり鳴らした!


 

コウモリは自分の位置を特定するのに視覚ではなく超音波を発していると聞いたことがある。


 ならば、おなじ『音』であるクラクションで何とかならないだろうか?


 そう思って試してみたのだが、



「にゃー。コウモリ共がボタボタと落ちてきたニャ」


 どうやら効果があったらしい。



 本来はクラクションごときの音でコウモリを駆除するのは無理らしいのだが、【異質化】軽トラの能力だろうか? 見事、クラクションは超音波と化してコウモリの平衡感覚を奪ったらしい。


 だが、中にはレジストしたのか、まだ元気に飛び回っている個体も5匹以上残っている。



「にゃー! これでもくらえにゃ!」


 叫び声と共に美剣が投擲したのは―――割り箸。



 某ホームセンターで売っているお徳用割り箸100膳パック。その包装ビニールを解いて紙の箸袋から外して次々美剣に渡すマナミサン。なんだこのコンビネーションは!


 そうして、すべてのコウモリを地に落とすことに成功する。




「「おいおい、あんちゃん! 効いたからよかったが、そもそも魔物のコウモリが実際のコウモリみたいに超音波使ってるとは限らねえんだぞ?」」


 隊長ズからツッコミが入る。



 くっ……! さすが国民の安全を守る職業の方たちだけあって指摘が的確だ!



 確かに、美剣の投擲がなければ倒しきれなかったわけだが、それでもコウモリの大半を行動不能にしたのはオレなのだ。



「大丈夫ニャ。ご主人とけいとらに任せておけば安心ニャよ」


「そうです。先輩と軽トラは頼りがいがあるんですから!」


 おお、美剣とマナミサンがオレの擁護に回ってくれた!


 だが、微妙にオレのフォローと言うよりも軽トラを褒めているような?



 まあいい。軽トラを扱っている運転のはオレだ。つまり、軽トラが褒められるということは、オレが褒められていると同義なはずだと自分に言い聞かせながら、床に落ちてもがいているコウモリ共を次々と軽トラで轢き潰していく。




「「なんか……エグいな……」」


 ぐちゃぐちゃと音をたてて肉をタイヤで潰していく感覚が体に伝わってくる。


 このダンジョン内で倒した魔物の血とか肉片とかも光の粒子になって消えるのかな?


 もし消えないなら、家に帰るとき真っ赤な血で染まった軽トラで公道を走る羽目になってしまう。通報されると困るなと思いながらも、今荷台に警察官機動隊隊長が乗っていることを思うと不思議な気持ちになる。さすがにオレたちが帰るころには隊長ズは降りているだろうが。まあ、なるようになるだろう。


 この玄室が袋小路であることを確認し、オレ達はほかの通路へと軽トラを進ませた。




  ダークゾーン内、回転床から続く通路を捜索する。


 先ほど入った玄室は、入口のみしかない袋小路の部屋だったので、次の通路へと向かう。



 回転床で回されたあと、自分の向いている方向を軽トラカーナビで確認し、まだ捜索していない通路に向かっていることを確認する。



「あ、落とし穴PITにゃよ」 



 通路の曲がり角を曲がった先に、軽トラのヘッドライトに照らされた膝の高さほどの落とし穴が見えた。



 その落とし穴には血痕があり、そこから血の雫が通路の先に続いている。



「やばい! 誰か落ちて怪我をしたみたいだ!」


 落とし穴に落ち、出血を伴う怪我をする。単にぶつけてできた裂傷とかであればまだいいが、もっと深刻な怪我かもしれない。



「「まずいな。解放骨折しているかもしれないぞ。」」


 隊長ズが心配する。なるほど、消防ではなくともいざという時のために機動隊も自衛隊も救急術を学んでいる。状況からその怪我の程度を予測したらしい。



 視界の利かない真っ暗闇でいきなり足もとの床が無くなるのだ。防御態勢も取れず、ひっかっかった足か、とっさに付いた手のどちらかを骨折している可能性が高い。まして、予想もしない方向からのチカラがかかるので、折れた骨が表皮を突き破る可能性も高い。


 とっさに降りた隊長ズが、軽トラのヘッドライトに照らされている、残されている血痕を確認する。



「「血はまだ凝固していない。ごく近い時間に怪我したと思われる。解放骨折は早い治療が必要だ! すぐ血の跡を追うぞ!」」


 あ、そのセリフ、オレが言いたかったのに……オレだって、探索者センターで学んだ知識があるんだぞ! まあ、プロと張り合っても仕方がないか。



 落とし穴から続く血痕は、すぐそばの玄室の扉に続いていた。


 隊長ズは、軽トラの荷台に戻ることもせず、すぐさま玄室に向かって走り出す。そのあとを美剣とマナミサンが荷台から飛び降りてすぐ後を追う。


 オレは軽トラを運転し、みんなが突入した直後の玄室に滑り込む!




 ―なにものかにであった!―




 中では、やはりと言うべきか、コウモリたちが部屋の中を飛び回りながら、部屋の隅の方向に向かって攻撃を加えている姿が軽トラのヘッドライトで映し出される。

 

 その部屋の片隅には、矢が尽きて弓を振り回して応戦している九嶋陽介君と、その彼女の堀北御園さんの姿。もう一人、陽介君の妹である九嶋美夏さんは、足を抱えて地面にうずくまっており、他の二人は美夏さんに襲い掛かるコウモリ達を追い払っているようだ。




「「全員無事か!!」」












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