第158話 捜索④

 

 ここは、陽介君たちを見事に救出して、オレの株を上げなければ!


 そんな決意を新たに、ダンジョンの中を軽トラで進んでいく。



 その途中、オレの三半規管に一瞬の違和感が生じる。


「にゃー、今なんか目が回ったニャよ」



 軽トラフロントガラスのHUDヘッドアップディスプレイに投影されたマップを見ると、案の定自分の向いている方向がさっきと異なっている。



 これは、回転床だ。



 某線画ダンジョンゲームでも厄介だった仕掛け。ダンジョン内の同じような風景の中で、突然自分の向いている方向を変えられてしまえば、よっぽど気をつけていない限り迷わないはずがない。まして、ここはダークゾーンの真っただ中なのだ。


 まあ、実際にターンテーブルのような装置で回されたのなら慣性が働いて転倒したりしそうだから大体の方向は感覚でわかるかもしれないが、ダンジョン内のそれは空間そのものに干渉してくるので、美剣みけのような動物的な勘でも持っていなければなかなか気づけないだろう。



 じゃあ、なんでオレがそれに気づいたのかって? 



「「あんちゃん、よく気づけたな。俺たちは訓練されているからどうにか気づけたが、素人には難しいだろうに」」


 

 いや、長文を一字一句たがわず二人で同時にしゃべるほど難しくはないぞ?



 実は、オレは昔から微妙な気圧の変化に敏感なのだ。天気の変わり目さえ予想がつくほどに。おかげで、トンネルの中に入った時などは常に唾をのんで耳の空気抜きをしなければならないほど違和感を多く感じたり、台風が来るとなれば体調を崩してしまうほどだ。


 今回の場合、方向の転換と気圧がどう関連しているのかはわからないが、身体を取り巻く空気が一瞬で移動したような感覚がしたため、事前の知識と照らし合わせ回転床に気付けたというわけだ。



「たぶん、さっきの向きから右に90度回らされた。」


「「「おお、そんなことまでわかるのか(にゃ)」」」



 やばい、美剣みけまで隊長ズにシンクロし始めたぞ。


 方向か? なんでそんなことまでわかるのかって?



 何のことはない。


 カーナビの自分の方向を確認しただけだ。




「「「「……」」」」


 やばい、マナミサンまでもがシンクロの仲間に。


 まあ、仕方ないか。せっかく回転床に気付いて少しは株が上がったかと思ったのに、結局は軽トラの能力頼みなのだから……




 しかし、これで陽介君たちの未帰還の理由は分かった。


 十中八九、ここの回転床で迷ったのだろう。


 オレ達は軽トラカーナビがあるから何のことはないが、事前に磁力コンパスでも準備して、じっくりコンパスを見ていなければ方向を変えられたことにすら気づくまい。


 と、いうことはだ。


 陽介君たちは、ここを起点に迷ったはずだ。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 軽トラカーナビの画面を見ながら、回転床付近を捜索していく。


 回転床は、この手の罠にありがちな十字路の中央に設置されており、意地が悪いと言わざるを得ない。


 回転床という仕組みに気付けなければ、真っ暗闇の中、いくらマッピングしていてもパニックになってしまうであろう。それか転移罠ワープ床を疑うか。



 で、パニックに陥ったと思われる陽介君たちはどんな行動に移ったのだろうか。


 山の遭難などだったら、自分の位置を見失った時は動かずに体力の消耗を抑えて救助を待てとはよく聞く話だ。




 だが、ここはダンジョン。


 通常の国営ダンジョン等であれば、自衛隊等の組織的な救出が期待できるので山の場合と同じ対応が正しいだろう。


 しかし、ここは個人所有であり、しかもこのダンジョンに潜っているのは陽介君たちの1パーティーのみ。雇い主の社長が積極的に捜索隊を組織するとは思えない。


 捜索隊が来る望みを持つには、頼みの綱は安否確認アプリのみであり、あまりにもその綱は細い。



 ならば、自力で脱出しようとあちこち動き回るのではないだろうか?


 オレが自宅のダンジョンで迷ったとしたら、間違いなく自力で何とかしようとする。


 なら、回転床のある場所からそれなりの距離を移動しているかもしれない。


 オレたちは回転床のある場所を起点に、4方向に延びる回廊を一つづつ潰していく作戦を採った。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「敵にゃ!」



 ダークゾーンの中。軽トラのヘッドライトで進んだ先にあった玄室の扉を開けたら、バサバサと複数の羽音が聞こえてきた。


 漆黒のダークゾーンの中、ヘッドライトの範囲は狭い。


 その狭い範囲を飛び回る怪しい魔物。



「あれは……コウモリか!」


 これは、どっちのコウモリだ。


 コウモリ系の魔物には、大きく分けてそこらへんにいるコウモリのような比較的弱いタイプと、危険な方、つまりはヴァンパイアのしもべたるコウモリが存在する。


 もし後者だった場合、このダンジョンにはヴァンパイアまでもが存在する確率が高い。



 はやいところモンスター名を確定させたいが、いかんせん相手は飛び回っており、軽トラのライトの範囲に入る一瞬のうちに視認するのはなかなか難しい。


 一体でも倒すことが出来れば、その死体を見分してどっちのコウモリなのか判断できそうなのだが、さてどうするか。



「「さすがに暗いし、狙撃は厳しいぞ!!」」


 隊長ズの銃射撃は厳しそうだ。ダンジョン内では暗視スコープも使えない。



「にゃー、投げる物手裏剣みたいなさえあればあんな奴ら瞬殺なのにニャー」


 さすが猫の美剣。ネコの暗視能力は人より優れているからな。



 しかし、弾がフォークとかなくては……あ、そういえば。


 思い出した。



「あるぞ!」


「にゃー!」



 マナミサンに目くばせし、軽トラ荷台の『収納』からこの前買っておいたカトラリーのフォークとナイフをいかにも小物入れか何かから取り出す風を装って取り出してもらう。

 

 さすがに、『収納』の事は隊長ズにも隠しておきたい。まあ、バレるのは時間の問題と言う気もするのだが。


 取り出したフォークは3本、オレたちの人数分ネコ含むだ。あとは十得ナイフが1本のみ。


 対するコウモリはと言えば、確実に10羽以上はいるであろう。


 やばい、手数が足りないな。


 



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