第161話 感謝状と許可証。


「「さて、無事救助もできたことだし、少し話を聞かせてもらおうか?」」


 隊長ズがにこやかな笑いを浮かべながらオレたちの方に近づいてくる。


 さすがに周囲に聞かれては困る話なので、人払いをした自衛隊のテントの中に誘導される。


そして――。




「「まあ、たいがいの事は刀のねえちゃんマナミサンから聞いたからほとんど聞くことはねえんだけどな!」」


 たしかに、軽トラの荷台の上でマナミサンが説明していたな。


「「異質化した軽トラのこと、その能力。そしてネコの嬢ちゃんのことは、上層部に報告はさせてもらう。」」



 まあ、そうなりますわね。その報告が上層部の目に触れてからが困難押収とか調査とかの始まりか。


「「だが、大事な話はここからだ」」



「?」


「「あんちゃんも、刀のねえちゃんも、そしてネコの嬢ちゃんも。っていう意向でいいんだよな?」



「あっハイ。もちろんその通りです」



「「よし分かった! ちゃんと報告書にはその旨を強調して書いておくからな!! なに、悪いようにはならねえだろうさ!」」




 なんですと?


 隊長ズ曰く、そもそも一応民主主義で法治国家のこの国において、本人たちの同意なくその所有物(この場合、軽トラももちろんだが美剣もペットという事で動産に分類される)の押収及び身柄の拘束などはありえないと。


 それが出来うるのは犯罪の取り調べのためとか、裁判において懲役や禁固等に処せられた時、および精神科指定医の二人以上が診察によって治療が必要と認めた者くらいのものである。


 それに合わせて、どうやら国全体、いや、世界中に於いて、ダンジョンや異世界に関わりのあると思われる事案については、その当事者は極力自由意志が尊重されることになっているのだとか。



 ここでふと思い当たる。『異世界』と言うキーワードをどこかで聞いた気がするのだ。


 確かあれは―――






「おおーい! ちょっとまってくれいー!」


 話が終わってテントから出たオレ達を呼び止めるだみ声。


「きっ、きみたちいー! うちのダンジョンに潜らんかあ! きみたちなら、成果物税金8割差っ引いた後の6割、いや、7割の報酬を渡すぞおー! どうだあ! いいじょうけんだろう!」



 ここのダンジョンの持ち主、建築会社の社長さんが声をかけてきた。


「それか、その軽トラを買い取ろう! 一千万でどうだあ! こんな大金、きみたち見たことないだろう?」




 はあ……。


 相手にするのもバカらしいのでオレは返事もせずに踵を返す。


 その後ろでは機動隊の隊長さんが社長さんに「捜索に関わったすべての事柄には守秘義務が課せられます。破った場合には懲役5年以下、500万円以下の罰金……」とか言ってフォロー&口止めをしてくれているようだ。




 陽介君たちを救出するという目的は果たした。


 隊長さんたちとの話も終わった。




「「あんちゃんたち! ありがとうな!!」」


 隊長ズの見送りを受けながら。




「さあ、家に帰ろう」


「「はい(にゃ)!」」 




 オレ達は、家路についた。








◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 陽介君たちの救出から数日後。


 警察からの書留封筒が届いた。



「警察から何て言ってきました? もしかして、軽トラの事とか美剣みけちゃんの事ですか?」


「オレもそうかと思って身構えたんだが……。人命救助の感謝状らしい」



「まあ!」


「しかも、オレ、真奈美のほかに美剣のもあるぞ!」



「あら! よかったですね! 美剣ちゃん!」


「にゃー、警察から感謝状をもらう猫なんて美剣くらいのもんにゃー!」



「あ、他にもあるぞ。なになに、そちらの軽トラを特殊車両として許可します……だと?」



 同封されていたのは国土交通省からの特殊車両許可証。その内容は、荷台に人を乗せて(8人まで)の走行可と言ったものだった。


 添えられた文面を見ると、どうやらこの許可証さえ持っていれば、車検も通るし8ナンバーへの変更も必要ないらしい。たしかに軽トラで8ナンバーを付けていれば目立ってしまうのでありがたい。


 

 さらにもう一枚、手書きの手紙が添えられていた。そこには、本来であれば警察庁の庁舎に招いて感謝状の授与式を行いたかったのだが、目立つのを避けるためと軽トラと美剣の秘密が市井にバレないように内々で処理させてもらったこと、あとは今後も同様のダンジョン遭難事案等があった際にはぜひとも協力をお願いしたいことなどがつづられている。


 で、差出人は……!



「警察庁長官からだと……!」


 なんでこんな偉い人から!



 それだけ軽トラと美剣のインパクトは強いという事か。





 当初はこれらの秘密が露見したら、軽トラは押収され、美剣も検査やら調査やらで最悪連れ去られるか、良くて近場の大学病院に出頭命令とか出されるとかの大ごとになると思っていた。


 だが、実際は大ごとは大ごとでも思ったのとは違う方向に行ってしまった。


 まあ、最悪の事態に比べればいい結果になっただろう。なんせ、軽トラはここにあるし、美剣もここにいる。自由なのだ。


 課された制約は何もない。せいぜい、任意で捜索に協力してくれと言う依頼のみだ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「またなんか届きましたよ?」


 また封書だ。




 見ると、こちらは自衛隊からの物。中身は同じく感謝状と、有事の協力依頼。及び国内のダンジョン攻略への協力を仰ぎたいというものであった。


 差出人の名義は「陸上総隊司令官」。自衛隊の組織はよくわからないが、おそらくは日本国全体でのトップクラスなのだろう。


 ダンジョンの協力依頼については、気が向いたら連絡が欲しいとだけ書かれており、こちらも強制ではないようである。





 さらに翌日、探索者支援センターから捜索に協力した謝礼金を渡したいというメール連絡が入り、さっそく晴田市の探索者支援センターに車を走らせたのであった。




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