第154話 詳らかに。
熊岱市の、建設会社社長の保有する民間ダンジョン。
そこの規模は、類推で地下5階層までの迷宮型、現在の最高到達地点は地下2階だそうだ。
つい先日、2階層に突入した陽介君たちは、社長さんからの「次はぜひ3階層へ」との言葉に焦りを感じていたらしい。
「ワシは、なにも今すぐに3階層に行けと言ったわけではない! これまで通りもっと頑張ってほしいと期待を込めて言っただけなんだ! それを、あの若造ども、真に受けて無茶をしやがって……。ウチのダンジョンで死人が出るなど縁起が悪いったらありやしない! こんな無意味な聴取を続けるよりも、早く探索を進めてくれ!」
テントの奥では、機動隊の隊長らしき人と向かい合って座っているスーツ姿の初老の男がなにやら大声を出している。おそらく、あれがこのダンジョンの持ち主なんだろう。
どうやら、警察による遭難に至った経緯等の聴取が行われているらしい。そばには労基署から来たと思われる人もいる。
監督責任とか、使用者責任とか問われると思っているのか、社長さんも必死だ。
その場面を見ているオレに向かって、自衛隊の隊長さんがいたずらっぽく肩をすくめて見せる。
立場上語ることはできないが、というところだろう。
社長はああは言ってはいるが、実際言われた方からすれば指示か命令に聞こえたであろうことは容易に推測できる。まして、あの剣幕でいわれたとしたら。隊長さんも、オレと同じ思いをいだいているのだろう。
「ああ、ごめんごめん。では、もうすぐダンジョンから伝令が来るだろうから、その人についていって、現場で指示をもらってくれ。レベルが6という事はそれなりに強いんだろう? 彼女さんの持っている刀も強そうだし、期待しているよ」
「それなんですが、自分たちは単独行動で捜索させてもらいたいのですが?」
オレがそう言うと、それまでにこやかだった隊長さんの態度が急に険しいものに変わった。
「理由を聞いてもいいかね?」
今、目の前にいるのはオレとマナミサンの二人。もしかして、ダンジョン内であれば避妊いらずで快楽マシマシという噂を聞いたカップルが、捜索協力をダシにしてそのような行為をするためにダンジョンに潜ろうとして来たのだろうかと疑っているのだろう。
「はい、実は、俺の軽トラは【異質化】していてダンジョン内でも走れます。なので、その軽トラを使って捜索させてください。」
「……!」
真面目な顔をして返された返答の斜め上の内容に一瞬理解が追い付かなかったのだろう。
先ほどの不快気な隊長さんの顔が、途端に驚いたものに変わる。
「それは……本当か?」
「はい、ですが、どうか確認とかそういうのは陽介君たちを無事見つけてからにしてください。詳しいお話はそのあとで」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【異質化】してダンジョン内でも走れる軽トラで捜索するから、単独行動させてほしい。
そう言ったオレを驚いた顔で見ている自衛隊の隊長。オレの言葉が聞こえたのか、会話を中断してこちらに身を乗り出している機動隊の隊長と建築会社の社長。
それらを尻目に、オレはこう言い放つ。
「詳しいお話はあとで。では、オレたちはダンジョンに向かいますが、いいですね?」
「「ま、待て! その話は本当か!」」
「本当ですよ。さっきも言いましたが時間が惜しいんです。本当かウソかは見てればわかると思いますので。」
なぜか頭が冷えてきたオレは、隊長さんたちに向かって強気で無礼な言葉を発している自分を客観的に見ながら、軽トラの運転席に乗り込んでいく。マナミサンも助手席へ。
軽トラを遠巻きに見ている隊長さんたちに目礼して、ダンジョンの入口に軽トラを進ませる。
あ、もしこれで入口が狭くて軽トラが入れないとかだったら、すんげえかっこ悪い奴だなこれ。
そんな懸念をいだきながらも入口への階段をガタンゴトンと降りたオレは、その入り口が軽トラが通れる幅だったことで安堵する。
で、最初の玄室に入ると、中で捜索の拠点を形成していた自衛隊と機動隊の隊員が目を剥いてこちらを見ている。まあ、当然だわな。
こちらに現場の責任者と思われる人が走り寄ってきた。
同じ説明を何回もするのは面倒だが致し方ない。まあ、軽トラがダンジョン内で動いている姿は皆が目にしている。納得してくれるのは早いだろう。
「「待ってくれ!!」」
現場の責任者さんに説明を始めたところで、大きな声が聞こえてくる。ここの最初の玄室、大声で魔物ポップしないよな……。
見ると、さっき地上のテントにいた自衛隊の隊長さんと、機動隊の隊長さんが目を血走らせて全力で走ってこちらに向かってくる。怖いんですけど。
「「俺たちも、同行させてくれ!!」」
なんでこの隊長さんたち、さっきから息がぴったりなんだろう……。
彼らの申し出は、まあ考えてみれば当然のことだ。いかに探索者であるとはいえ民間協力者に単独で捜索を任せるのはやはり無理があったのだろう。それに、ダンジョンの中で動く軽トラ、その詳細を調査して報告しなければならない立場の人たちだからな。
「さっきも言いましたが時間が惜しいんです。同行するなら、急いで軽トラの荷台に乗って下さい」
荷台には、
正直、軽トラの事はバレても、美剣の事は隠し通しておきたかった。だが、ことここに至っては致し方あるまい。
もはや、すべてをつまびらかに――――
「に”ゃあああああああああああああ!!!!」
「「ぎゃあああああああああああああ!!!!」
あ、やべ。
説明する前に顔をあわせてしまったか。
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