第155話 捜索①


「ご主人! この人たちはなんなのにゃー!!!」


「「きみぃ! このネコミミはなんなのかね!!」」



 あああ、大騒ぎだ。


 混乱を収めなければならないが、説明する時間が惜しい。



「あ、わたしが荷台に行って説明してきますね。」


 おお、マナミサン。なんでこんな有能なのに普段はあんなポンコツに……え? 一番ポンコツのお前が言うな? はいはい、ポンコツでごめんなさいねっ……って。痛い痛い、マナミサン、つねるな。



 説明と収拾をマナミサンにゆだね、オレは現場の責任者からこれまでの捜索の状況を聞き、これまでに明らかになったこのダンジョン内のマップの写しを借り受ける。


 ダンジョン内でコピー機が使えないのを理解したうえで、トレーシングペーパーで数枚複写してるんだな。こういった人たちの知恵とか応用力ってすごいと思うの。



 状況は、一階層の約三分の一と思われる範囲が捜索済み。2階への階段は未発見。いまのところ、居場所を特定できる情報なしといったものだ。


 オレはいまだ探索の手が伸びていない方面に軽トラを走らせ、現場の人たちがいなくなったところで軽トラのカーナビ、HUDヘッドアップディスプレイを起動する。


 よし! さっきもらった断片的な地図が、オートマッピングの探索済みと同じように、まるでダウンロードでもされているように画面上に浮かび上がってくる!




 他のダンジョンでも、この軽トラの能力が発揮できるのかは未知数だったが大丈夫みたいだな。


 それにしても、考えても答えは出ないのはわかりきっているが、なんて不思議仕様車なんだろうか。


 この分では、今現在日本で最大級と言われる釧路ダンジョンとか、アメリカのフロリダダンジョンでも問題なく威力を発揮するだろう。



「「きみぃぃぃぃぃ! そのカーナビも異質化によるものなのかね!」」


 あー後ろにいる人たちの事を忘れてた。幌の中にいても軽トラ後部の窓から運転席の様子はのぞけるからな。


 おそらく、マナミサンから一通りの説明を受けた後は運転席を凝視していたんだろう。オレも、バックミラーを見ればわかったはずなのにな……。


 その後の説明をマナミサンがしてくれているのか、後ろは途端に静かになった。


 おそらくはマナミサンの説明を一字一句聞き逃さないように集中しているのだろう。



「どれどれ……カーナビの画面で見ると……、地下二階に向かう階段はこの辺が怪しいな。そこに行くには、玄室を4つか5つほど通り抜けなければならない感じだな。」


 うーん、玄室入ると高確率で魔物がいるからできれば入りたくはなかったのだがしょうがない。



 オレは玄室の扉を軽トラで押し開け……ることが出来なかった。どうやら、このダンジョンの扉は手前に引いて開けるタイプのようだ……。




「すみませーん! 隊長さんたち、そこの扉を開けてもらえませんか?」


「「よっしゃ! まかせろ!!」」


 え? なんかいきなり協力的じゃね?



 バックミラーを見ると、マナミサンと美剣みけがオレに向かってサムズアップしている。そうか、どうやら仲良くなったようだな。


 まあ、どちらも中身はともかく見た目は美少女だ。特に美剣なんかネコミミという最終兵器をお持ちだからな。そんな容姿で世間話なんぞしたらほだされるのも無理はない。


 

 隊長ズの二人が軽トラの荷台から降り、玄室の扉を引っ張って開ける。



 すると、案の定、玄室の中には魔物の群れが。



「「にいちゃん! こいつら、倒しちゃっていいのかい?」」


 おお、隊長ズが殺る気でいらっしゃる。



 まあ、確かに自衛隊と機動隊の隊長だ。それなりに戦えはするのだろうし、俺たちなんかよりはるかに強いのだろう。だが、


「いえ、戦っている時間も惜しいので走り抜けます。荷台に戻って下さい」


「「了解だ!!」」



 なんだろう、こちらに向ける二人の笑顔がまぶしい。なんか、二人とも歯が光ってるし。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 ゲシンゲシン、ガリガリ、ゴリガリ。


 次の扉は押して開けるタイプだったので、問題なく軽トラで押し開けた。




 ゲシンゲシン、ガリガリ、ゴリガリ。


 その次の扉も、押して開けるタイプで――




 ゲシンゲシン、ガリガリ、ゴリガリ。


 で、次の扉が今度は引いて開けるタイプだった。




 ゲシンゲシン、ガリガリ、ゴリガリ。


 今の軽トラの周囲には、玄室3部屋分。都合、9体×4グループ×3部屋分の100体を超えるコボルドが取り巻き、執拗に軽トラに攻撃を加えていた。

 

 『結界防御』のこともマナミサンが隊長ズに説明してくれていたようで、荷台の人たちも余裕の表情を浮かべている。


 

 なのだが、



「「おいおい、にいちゃん、どうするんだい? 殺るか?」」


 隊長ズが心配してくる。たしかに、誰かが降りて扉を引っ張って開けなきゃこの先には進めない。


 ただし、降りれば100を超えるコボルドの攻撃を受けてしまう。


 隊長ズは何にも動揺していないから大丈夫そうだが……






 それでも、そろそろオレたちの本気を見せてもいいかもしれない。




「じゃあ、一緒に殲滅しましょう。美剣みけ、真奈美、準備はいいな?」


「「はい(にゃ)!」」



「隊長さんたちも、お願いします」


「「おお、任せとけ!!」」



「よし、行くぞ!」


「「「おお(はい)(にゃ)!!」」」


「にいちゃん! 盾借りるぜ!」



 へ?





 しまった、オレの得物、機動隊払い下げの盾を荷台に置いたままだった!


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