第152話 決意。


「先輩?」


「なんだ」



「県内のダンジョンで遭難っぽいですよ?」


「どれどれ?」



 マナミサンが見ているのは探索者専用サイト。


 そのトップページに、赤と黄色で注意をひくアラートがポップしていた。



 

 『探索者安否確認アプリ』


 このアプリは、これから潜るダンジョンの名前と、探索開始と終了の時間の目安を探索開始前に登録しておき、帰還したら帰還報告を入れるシステムだ。


 探索終了目安時間を大幅に過ぎてもそのパーティーが戻らずに帰還報告がない場合、探索者支援センターに通知が行き各所の警察や自衛隊に通報が行くという流れになっている。




 なるほど、このパーティーは昨夕18時には戻る予定だったのが、翌朝の今(午前7時)になってもまだ戻ってないと。


 帰還予定時間を8時間過ぎたところで通知が行くという事だから、午前2時にアラートがなったという事か。


 夜中の出来事なので、捜索隊がもう組織されているのかは疑問だが、仮に捜索が開始されていたとしても、この時間になってもまだ見つけられていないという事だな。




「あ、付近の探索者にも捜索隊への参加要請が出ていますね。」


 基本、遭難者の探索は国民の生命身体財産を守るための組織である警察や自衛隊が受け持つ。


 だが、いかに警察とはいえ県に小隊が3つしかいない田舎の県の機動隊では県内全域をカバーするにはその人員に限りがあるし、所轄署の警察署員を組織しようにも、

通常業務も抱える中でなかなか人数などは集まらない。そもそも、警察組織では機動隊といえどもその戦闘能力は低いのだ。


 かたや自衛隊はと言えば、各駐屯地に即応部隊はいるとはいえ、警察同様、重要拠点でもない限りはその人員配置数は推して図るべしである。



 

 つまりは人数不足。

 

 民間の探索者に協力を求めるのは至極当然のことであり、また、探索者も登録時に人命救助や災害派遣に協力するという協定書を交わしている。

 

 民間探索者の捜索への協力は、当然強制力のあるものではないが、その協力に対する報奨金にはそれなりの額が設定されているし、何より、「探索者ランキング」という、国も認める公共への貢献度を可視化する序列制度内でのを上げるためのポイントもそれなりに付与されるのである。



「で、どこのダンジョンだ?」


「えーと、熊岱市ですね。近いです。」



 熊岱市は、ここ丸舘市から車で1時間ほどの距離だ。


「で、消息不明のパーティーの詳細とかも出てるのか」


「あ、出てますね。えっ! この人たちって……!」



 驚いたマナミサンの横からPCの画面を見ると、そこには


 『九嶋陽介くしまようすけ堀北御園ほりきたみその九嶋美夏くしまみか


 という、探索者講習の時に知り合ったイケメン君の3人パーティーの名前があったのであった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






 県内のダンジョンに潜った探索者が帰ってこない。


『探索者安否確認アプリ』からの通報で明らかになったその遭難は、ここから車で1時間ほどの熊岱市のダンジョン。しかも、遭難したのは探索者講習の時に知り合ったイケメン君パーティーの3人であった。



「これは……行くべきだな。」


 探索者ランキングのポイントが欲しいわけではないし、お金も欲しくないとは言わないがそれほど切羽詰まっているわけでもない。



 ほんの1回。


 たった1回会っただけの人たちではあるが、知人が命の危険にさらされている。


 

 それに、彼らとは約束のようなこともしていた。


『そのうち、一緒に潜りましょう』

そちらの家の車庫ダンジョンにも今度潜らせてくださいね!』

 

 守られる保証もない、ただの社交辞令のような約束なのだが、それを履行しないのと、履行する機会が永遠に失われてしまうのとでは厳然とした違いがある。




―――人の命。


 これに勝るものなどないと、最初に灰色狼に殺されかけた時、そしてこの前テレポーターで飛ばされたときにと、身をもって知ってしまっているではないか。



「先輩? 行くんですね?」


「ああ、陽介君たちを助けに行こう。行かなくちゃいけないと思う。」



「はい! じゃあ、美剣みけちゃんは留守番として、私の車で二人で行くんですね?」


「いや、違う。」



「先輩?」


「軽トラに乗って、美剣も連れて行く!」



「えっ! ……わかりました! 行きましょう!」


「にゃー、美剣も行っていいのかにゃ?」


「ああ、頼む美剣。お前のチカラも貸してくれ。ただし、身バレしないようには極力気を付けなきゃな」



「はいなのにゃ!」





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 知人の命がかかっている。


 たしかに、軽トラや美剣の秘密は隠し通しておきたい。


 だけど、秘密を守ることを優先して、もしも陽介君たちの命が失われてしまったら?


 それほど親しいわけでもない、たった一度会って言葉を交わしただけの知り合いでも。


 それでも、きっとオレは後悔するだろう。


 マナミサンも、美剣も、そんなことは望まないはずだ。


 現に、マナミサンはオレの覚悟を察してくれているし、美剣だって同様だ。




 陽介君たちを。


 人の命を助けられるのならば。


 たとえ秘密がばれても仕方がない。





 軽トラは取り上げられるかもしれない。


 だが、命とは引き換えにはできない。



 

 美剣も、研究対象として連れていかれるかもしれない。

 

 もし、そうなったらネットに書き込むなりマスコミにリークするなり大騒ぎして、どうにかして美剣を取り戻そう。


 軽トラに乗ったまま、レベルアップの恩恵を生かした戦闘力で地上で抵抗してもいい。


 たとえ、犯罪者になったとしても、姉たちはむしろ褒めてくれるだろう。


 マナミサンの両親だって。いや、マナミサンはオレが唆したことにして、どうにか無罪か、軽い罪になるようにしよう。






 よし、心は決まった。



「さあ、陽介君たちを助けに行こう! 軽トラ部隊、出撃だ!」


「「はい(にゃ)!!」」

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