第151話 駐在さん。


 それは、探索を休みにしていたとある日の午前中の事だった。




 『ピンポ~ン♪』




「あれ、ご主人。お客様にゃよ?」


「そうだな、ああ、美剣。不用意にしゃべるなよ?」



「はいにゃ」




 そう言って玄関に出ると、すでにマナミサンが客に応対していた。


「先輩、駐在所の方です」


「え? ああ、巡回か」



 警察には、巡回連絡と言って管内の住民の家を直接回り、家族構成や勤務先、何かあった場合の緊急時の連絡先などを聴取して簿冊化する業務がある。

 

 それに、我が家の場合ダンジョンもあるため定期的な警察官の巡回も義務付けられている為、こうして警察官が訪ねてくるのは別に特別なことではない。



「あれ? 確か、兄の同期の方ですよね?」


「あ、はい。あなたは早坂の妹さんでしたか。いや、すっかり大きくなりましたね」


 どうやら、この駐在さんはマナミサンの兄の同期生らしい。あ、マナミサンの兄は警察官なのだ。お義兄さん、もうそろそろ赤ちゃんが生まれるらしいから、その時はご挨拶しに行かねば。



「あ、武田さん、こんにちは。今日は、ダンジョンの巡回と、後は、この前刀を買われましたよね? それの保管状態の確認で参りました。あ、申し遅れました。わたくし、上中岡駐在所勤務で、地域係兼、ダンジョン係兼務の武藤晴臣巡査部長と申します。」


「はい、ご苦労様です。では、まずは刀ですね。こっちのロッカーに入ってます。」


 オレは玄関わきの部屋に武藤巡査部長を案内し、刀の入った鍵付きのスチールロッカーを指し示す。



 探索者が使用する刀剣類や刃が付いた長物、銃器などは一般の猟銃と同様に、家屋内の施錠の出来る場所に保管する義務がある。そして、警察官にはその保管状態を定期的に確認する業務もあるのだ。


 ロッカーを指し示したオレの目に、鍵穴に刺さったままの鍵が映る。あっ、やべ。



「えっと、武田さんもその表情で理解していると思いますが、カギはしっかりかけて、ロッカーとは別の場所で保管してくださいね。まあ、今回は初回の検査ですので見なかったことにしておきます。」


「はあ、申し訳ありません。以後気をつけます」


 オレはそう言って、中の刀を見せた後おもむろに鍵を抜いてポケットに仕舞いこむ。




 その後は我が家に増えた住人、マナミサンの事を手短に説明。武藤巡査部長は特に反応するでもなく淡々と案内簿というやつに記載していく。


「では、次はダンジョンの方を確認させてください。入口までで結構ですので」



 警察官によるダンジョンの確認は、主に安全確保の観点から行われるので、ダンジョン出入り口の魔物溢出アラート装置がしっかり設置されているかどうかの確認と、

探索状況のおおまかな聴取のみである。


 武藤巡査部長をダンジョンに案内しようと、靴を履いて玄関からでたところ、オレの目の前には今まで見たことのないものが鎮座していた。




 武藤巡査部長をダンジョンに案内しようと、靴を履いて玄関からでたところ、オレの目の前には今まで見たことのないものが鎮座していた。




「軽トラの……パトカーだと?」


 そこには、オレのと同じような白い軽トラの天井に、覆面パトカーが取り付けるようなパトランプを乗せた車両の姿があった。


 さらに、その助手席には警察の制服を着た、まだ高校生くらいではないかと思われる女の子が乗っている。


 その女の子の印象は、目がとても大きく、一言で言うとアニメ顔。


 アニメ顔はまあ置いておくとして、現代日本ではたしか18歳以上でなければ警察官にはなれないはずだが……?



 と、オレの怪訝な表情をみた武藤巡査部長さんが、


「ああ、彼女は特例で16歳ホントは14歳からの時から交通指導隊員なんですよ。あれでも若くても、3年目の中堅になります。あと、事情があってちょっと車からは降りられなくて、失礼しています。」


「いえいえ。事情があるのでしたら」



 すると、軽トラパトカーの後ろに止まっていたミニパトから女性の20歳半ばくらいの警察官が降りてきて、


「武藤部長! これからダンジョンですか? わたし、ダンジョン見るの大好きなんです!」



 と、なにやら興奮されているご様子。


「中には入らないぞ。ああ、武田さん、重ね重ねお見苦しい所を……。こっちは、同僚の緒方巡査長です。」


「えー、はいらないんですかー。あ! 初めまして、緒方巡査長と申します! わたしも、上中岡駐在所で勤務しています! こんごともお見知りおきお願いします!」


「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」



 なんか気圧されてしまったが、とにかくダンジョンの魔物溢出アラート装置を確認し、しっかりオレのスマホのアプリと連携していることを確認した武藤巡査部長は、何やら改まってオレの方に向き直る。


「ところで、これは個人的な興味で恐縮なんですが、武田さんは、その、ダンジョンに潜っていて、何か違和感とか、例えば、異世界みたいなところとの結びつきとか、繋がりとか、異世界とのゲートとか、そんなものを感じた事とかございますか?」



 異世界……? 異世界か。たしかにダンジョンは不思議空間だから、ここが異世界に繋がっていると言われても納得はするだろうが、普段は意識することはないな。



「いえ、言われてみればどうなんだろうってところですが、特に普段は感じませんね。


「そうですか、ありがとうございます。もし、なにかお気づきの点が出ましたらご連絡いただければありがたいです。では、これで失礼いたします。」



 そう言って、駐在所の方々は帰って行った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「礼儀正しいお巡りさんだったな」


「それより先輩、見ました? あの軽トラの助手席の女の子。あの子、絶対日本人じゃないですよ! っていうか、地球人でもないかもです!」


「にゃー、にゃんかふしぎな感じのする子だったニャ。あれは、なんか、美剣と同じ臭いがするニャよ?」




 そういえば、ネットの都市伝説で見た気がする。


 日本のどこかで、異世界から転移してきた少女がいて、地元の警察に保護されているとか。



 まさか、あの子が異世界からの転移者とかだったりして?



「まさかな。こんな田舎でそんな重要人物がノコノコ出歩くわけがないしな」


「え、なんの話ですか?」



「ああ、真奈美と美剣は知らないか。異世界から転移してきた少女がどこかにいるかもしれないって都市伝説だ」


「むー、不思議存在の美剣にライバル出現だニャー。」



「自分で不思議存在言うな」


「にゃー」


「さあ、ご飯にしますよ?」



「はいなのにゃ!」




 平和な日常の、とある一日の出来事であった。

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