第141話 テレポーター。

 


―なにものかにであった!―




 でかい


 その玄室には、通常の3倍くらいの大きさの灰色狼と、その下僕と思われる通常のコボルドが9匹×3グループポップしていた。



「これは、フロアボスか!?」


 通常の3倍でかいが、速さはどうなのかな? 色が赤くないしツノもないから大丈夫だろう。



「えーと、真奈美が『殺陣たて』で雑魚を頼む。美剣みけとオレでデカい奴をやる。」


「「はい(なのにゃ)!」」




 真奈美がサクサクと雑魚コボルドを蹴散らしていく。


 目の前に開いたスペースに飛び込み、デカい奴の鼻面に盾を構えてひと当て。


 そして、オレの後ろに『隠れる』をしていた美剣が飛び出して一閃――。



「にゃっ!?」


「なんだと、美剣の一撃でもまだ倒せないだと!」



 デカい灰色狼は、美剣の一撃を耐えきった。


 美剣はいつも通り首筋を狙ってはいたが、クリティカルも発動しなかったようだ。



「さすがに強いか。『盾打撃シールドバッシュ』!」


「『ファイアー火魔法!』」


「『にゃにゃーニャニャー!』」



 全員による攻撃でボス狼をやっつけた。



 マナミサンが雑魚を全て一掃できるスキルがあるからいいが、雑魚と戦っているあいだに、デカいのに突っ込んでこられたりしたらもっと苦戦したであろう。


 デカい狼を倒した後には宝箱が出現しており、美剣が開けるとその中からは『カギ』が出てきた。


「カギが出るということは、次のフロアに行く扉にカギがかかっているということですかね?」


「なんだろう、このウィ〇ードリーから突然ドル〇ーガになったような気分は。」



「先輩?」


「いや、何でもない。次の部屋に向かおう」






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 次の玄室――


 いつものように軽トラで扉を押し開け、その中に魔物は――いなかった。


 代わりに、部屋の中央には一つの宝箱が鎮座している。



「美剣、頼むぞ」


「はいにゃ……って、これは手ごわそうにゃよ?」



 美剣が宝箱の罠解除に戸惑うとは珍しい。というか、初めてだ。



「軽トラで轢いて開けようか?」


「罠のほかにカギもかかっているから多分無理ニャ。」


「さっきのデカいのが落としたカギを使うのかしら?」



「あれは別にゃね。サイズが違うニャ。おっと、これをこうしてにゃ」


「ちなみにどんな罠なんだ?」


「にゃんか、どっかに飛ばされるみたいな感じニャ」



「テレポーターか……それだと軽トラで轢いたら発動して転移しちまうな。慎重に頼むぞ」



 テレポーターというのは、某ダンジョンゲームの中では最悪最凶の罠だ。パーティーメンバーがランダムにダンジョン内のどこかに飛ばされ、場合によっては壁の中に飛ばされてそのまま消失ロストしてしまうこともある。




  カチッ




「「「あっ」」」

 

「みんな! 軽トラに飛び乗れ!」





―おっと! テレポーター!―




――軽トラと3人は、まばゆい光に包まれた。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇












 美剣みけがテレポーターの罠解除に失敗し、軽トラに飛び乗ったオレたちは軽トラごとどこかに飛ばされた。


「ふう、飛ばされたのは仕方がないが、ばらけなくてよかったな」


「ごめんにゃ。美剣が失敗したニャ」


「そんなことないですよ。美剣ちゃんじゃなきゃ宝箱は開けられないんですから」



「そうだぞ美剣、頼りにしてるからな。お前がいないとオレたちはダメなんだから」


「にゃー、泣きそうにゃ」


「ところで美剣、罠は発動しても中身は手に入っただろ? なんだったんだ?」



「それがにゃ……見るも不快なものニャ」


「これは……骨ですね。大きいです」



「そうなのにゃ! よりによって犬野郎の大好物の骨とは! 罠といい、あの宝箱はこの美剣さまをバカにしてるとしか思えないのにゃ!」


「どうどう、落ち着け」



「美剣は馬じゃないニャよ?」


「まあ、骨のことは後で考えるとして、とりあえずここはどこだって話だな」





 テレポーターで飛ばされた先。


 壁や床の色がこれまでいたフロアとは明らかに異なっている。



「このダンジョンが全2層だという話を真に受けるなら、地下2階層という事になるのだが……」


「先輩。マッピング用の方眼紙が足りませんよ? 裏に書いては見ますが、縮尺とか狂うかもです。」



「まあ仕方がない。やれるだけやってみよう。幸い、軽トラも一緒だ。最悪数日戻れなくても、水とか食料とかは十分『収納』に入れてある。」


「ご主人、いつのまにそんなそにゃえ備えをしていたのにゃ?」



「『収納』が手に入るイコール、水と食料が必要になる事態のフラグだって思ってたからな。速攻で買いに行ったよ」


「あ、でも先輩。カップラーメンはいっぱいありますけどお湯ってどうします?」



「なん……だと……」


「にゃー、缶詰もあるけど缶切り必要なタイプばっかりにゃよ? 缶切りあるのかにゃ?」



「くっ……! 災害時用缶切りタイプじゃなく普通の缶詰プルトップでよかったのか……」


「あ、缶切りなしで開けられる動画見れますよ?」



「おお! スマホが使えるって便利だな! って、開けるのにスプーンが必要なのか!」


「スプーンどころか、箸もないですねぇ……」



 その後、ペットボトルの水を入れたカップ麺をマナミサンのファイアーでお湯にしようと試みてみたが、すべてが炭化してしまうという事態になりあきらめる。



「さあ、気を取り直して脱出の道を探そう!」


「ご主人……」


そんなところ天然ボケも、守ってあげたくなっちゃいます!」




 まあ、水は大量にあるんだ。何とかなるだろう(コラ)。




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